第27話 カラーガードのスター
まち
ということは、嘘泣きではないらしい
「ジャネット中学のことは思い出したくない」
何言ってるんだほんとにもう!
キリスト教の学校的な「ごきげんよう!」とかいうあいさつまでしておいて。
まち子が言う。
「あんた、わたしが映ってる動画を選んで、見たわけだよね?」
途中まで涙声で、終わりのほうは普通だ。
「うん」
まち子が続ける。
「映ってない動画もあるんだよ、おんなじ年なのに」
「うん」
「追い出されたんだ」
この短いことばで、最後のほうで声が涙声に戻った。
言いたくなかったのだろう。
「一人だけ目立ってる、って、カラーガードのほかの子から集中的にいじめられて、辞めさせられた」
「うん」
信じているわけではない。
でも、ここで争ってもしかたがない。
「だからさ」
声の
「もうカラーガードはやらないつもりだった、というか、マーチングバンドとは縁を切るつもりだった」
「うん」
「じゃあ、縁を切ったままにしてくれたほうがありがたかったんだけど」も言わない。
「ところがさ、
先輩呼び捨て!
「いや、OG会の
「松沢さんって?」
いきなり、いやな予感……。
「
背に、悪寒というより、はっきりと震えが走った。
それが、金管の一本一本まできらめいていたフライングバーズを滅ぼし、いまの「新しい、そしてあるべき姿のフライングバーズ」を作らせた、その張本人なのだ。
覚えておこう。
まち子が続ける。
「わたしがカラーガードをやってたことを知ってらしてね、小森に紹介したんだよ。あ、小森の親と松沢さんが知り合いでさ」
それで、「松沢さん」が自分の手先にするために、まち子をカラーガードに送り込んだ。
そういうことだ。
ものすごい嫌悪感を抑えながら、千鶴が言う。
「で、事情がどうあったとしても、カラーガードに戻ったわけでしょ? フライングバーズで。嬉しくなかったの? まち子ちゃんは」
「嬉しかった」
まち子の声がまた泣き声に近づく。
「でも、小森のやつが、カラーガードをカラーガードじゃなくしてしまったんだ。知ってるでしょ? カラーガードってこうやるんだ、って模範演技を見せてあげたのに、まるで無反応」
そのまま泣き声になるかと思ったら、今度はただのぼやきだ。
模範演技のつもりだったのか? あれ……。
だったらそう伝えないと。
「試しにやってみる」ではなく、「カラーガードならこうやるものです」と言わないと。
でも、無理だったのだろう。
自分が大好きで。
一人だけが目立ちたくて。
一人で目立とうとして。
何があったか知らないが、ともかくいじめられたことになって追い出されたまち子には。
「じゃ」
千鶴が言う。
「どうしてもまち子ちゃんが部長になる必要があるわけだね」
まち子はほっとしたらしい。
でも、千鶴は、その先に「厳しい現実」をつけ加える。
「部長になって、でもドラムメジャーは別のだれかに任せて、自分はカラーガードのリーダーで、そしてカラーガードのスターになる。でも、たいへんだよ、それ。ドラムメジャーのだれかも、完全にまち子ちゃんの支配下に置かなければいけないんだから」
「わかってる」
いや、わかってないと思う。
その聖ジャネット学院の中学校では、「カラーガードのスターはわたしだ」とがんばることができなかったのだから。
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