雪乃猫の書棚
雪乃猫
遺書_2025年
今年ももう終わりますね。皆様は今年いかがでしたか?私はとても充実したと言えるような一年を過ごしたためしがなく、年が変わる際に後悔と、やり直したいなぁという悔しさばかりが滲んでしまいます。あれをやっていれば、方法を変えていれば、毎年そんなことが思い浮かびます。
そして、私の変な毎年年末恒例行事なのですが、直筆の遺書を書いているのです。正直、あまり体が丈夫なわけでもなく、精神的に強いわけでもないので、いつ居なくなっても大丈夫なように準備をしています。内容はいつも身近な人間への感謝だったり、謝罪だったりするのですが、最近は小説を販売しているせいか、顔も知らぬ人々との繋がりも増えてきたので、こんな形でひっそり残しておこうかと思います。私の更新が止まったら、逝ったんだなと思っていてください。
私は常々友人たちに別れの挨拶の一つや二つくらい言えよなと、言いますが、体が弱ってきて初めて気がつきました。別れの挨拶はやはり口には出したくないですね。本当に終わりになってしまいそうで、不安に苛まれて、不思議と口から溢れてくるのは、再会を願う言葉なのです。やはり、私は狂いきれないようですので、得意な文字という形式で残そうかと思います。
私の人生は、とある友人を嘘つきにしないよう、自分を証明し続けることだと、勝手に決めています。賭け金は私自身なのですが、それもだいぶ減ってきたようです。まだ、明日明日いなくなりはしません。成果を出せていませんし、まだまだ書きたいことはあります。しかしまぁ、時間が足りませんね。人生というのはどうしてこうも短いのでしょうか。私には足りなさすぎます。困ったものです。
そんな破滅に突き進む私を、好きだと言ってくれる人がいるのですから不思議なモノです。私と共に生きると決めてくれた妻には本当に申し訳ないと思っています。人並みな幸せというものを、私が願っていないばかりに、常に心配をかけてしまって。更にはそんな私に並走してくれているのですから、頭が上がりません。私がいなくなった後で、まともな男を捕まえて欲しいとも思ったりもしますが、正直に嫌ですね。独占欲というものでしょう。こんな澱んだ感情ですら私は愛と呼べてしまうのですから、人の価値観なんて、たいして参考になりませんね。伝えるのであれば、
「こんな私を愛してくれてありがとう。君のおかげで少し延長できた人生楽しかったよ」
他にも、私の作品を良いと言う学生も、ちらほらいたりする事に驚くのです。私の物語は、流行りの爽快感ある作品ではないので、大半の方が、つまらないと一笑に伏すようなものばかりなのに、そこに共鳴してくれる稀有な人もいるのです。いい機会です。ハッキリ言っておきましょう。貴方の好きはきっとこれからとても苦労すると。きっと本人もわかっているのでしょうが、改めて言っておきます。そして、そんな珍しい貴方に私は伝えたいのです。
「私を見つけてくれてありがとう。貴方の人生に、私の物語は彩りを添えられましたか?添えられたのなら幸いです。真っ直ぐじゃなくとも前を向き生きてください」
勿論、学生読者なだけではないのです。社会人や主婦や主夫だっています。彼らはやはり私と違って大人です。直接的な言葉を使わずとも、気持ちを表現する術を知っている。私自身が素直な人間ではないので、素直に羨ましいです。ただ、歳を重ねると、信念ができてしまい、若い頃のように簡単には友人になれないことだけが残念です。もし、別のどこかで出会えたら、きっと親友と言える存在になれただろうと思いますが、それはそれで、味気ない気もしますね。
「楽しい時間をありがとう。これはこれで、悪くなかった。それでも、次別の人間として出会えるのであれば、こんな面倒な倒錯した人間ではない、ただの視聴者として出会えればと思います」
読者以外にも、私の台本を演じたり、小説の表紙を書いたり、アイディアの種を投げてくれる方々もいます。彼らは彼らでままならない生活をしているようです。しかし、私は勝手に戦友のような気分でいるのですが、やはり少し感情が重いでしょうか?もし何かあれば私に言ってください。全力で助けに行きます。それくらいの恩返しはさせてください。この世の中には、表紙なんてつかずに電子の海に消えていく作品や、声がつかず、埋もれていく台本が山のようにあるのです。そんな中、私の作品に携わっていただき、ありがとうございます。貴方達にとっては大したことはなくとも、私にとっては大きな大きな恩義なのです。私が居なくとも貴方たちの心に、私の痕跡がそっと残ることを願っています。
「私の作品ではありません。私たちの作品です。皆様は私を踏み台にしてください。そして、こんな奴の表紙を台本をアイディアを担当したんだと、自慢できるよう私も頑張ります」
最後になりますが、私が逝ってしまっても私の作品を使ってください。読んでください。覚えていてください。そして、語り継いでください。こんな最高の馬鹿がいたんだと、明日につないでください。それだけで私の生きた意味もきっと出てきますから。また、来年ここに遺書を書けるよう願っています。それでは、またお会いしましょう。
雪乃猫の書棚 雪乃猫 @yukineko1003
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