第31話 神議

 艦長室にて保存媒体を専用の読み取り機に乗せてデータを見ていく小野寺の前には、皇と圷、そしてマリアがいた。3人を同席させたのは情報を読み次第話をことの顛末を聞く必要があったからだ。もちろん、情報網を使って全てを知っている小野寺だが、発言による忠誠心の度合いを見たいと思っていたのだ。

 10分程度かけて読み上げた情報を頭に叩き込み、3人を見る。暇そうにしている皇と無表情の圷はいつも通りだ。いつもと違うのは大切な人を失ったばかりのマリアだけだった。その辛さを理解できる小野寺はどう言葉にすればいい方へ転ぶかを頭の中で構築していく。その最中に王2人への質疑を開始し始めた。

 まずはタバコに火をつける。特殊なタバコではなく、普通のものだ。しかし、巻いている紙が同じものであるため一度攻撃を受けた王たちは警戒をするだろう。それを利用して忠誠心を計ろうとした。


「それで。取り巻き2人を始末したらしいお前たちはどこまで能力を発現できたんだ?」

「言わなくても知ってるんだろ〜? なら話さねえよ、ば〜か」

「発言には気をつけろよ。俺は今――」

「タバコの香りがこの前のとはちげえ〜。今回のは普通のタバコだろ〜?」


 ニヤニヤと。皇は細かいところまで本当によく見えている。騙そうとした小野寺が逆に追い詰められようとは思いもしなかっただろう。皇を相手にするなら本気でやらなければならなかった。この度は小野寺の負けだ。どうやら圷もこれに気がついていたようで、小野寺の作戦は初めから通用しなかったようだ。

 通用しなければ少し本気で脅さなければ意味がない。相手は紛いなき王。この世において最も強い存在だ。多少の本気では死にはしないだろう。特に皇など、存在そのものを消さなければ死ぬことはないと情報では記されている。であれば”過去世界の遺産”のひとつを使っても問題はないだろう。ただ1つ、部屋がめちゃくちゃになるのだけは避けたかった程度だ。

 小さい息を吐いて、小野寺は自らの背の壁に貼られている窓ガラスをノックした。するとそれが門へと変化し、それを指さして言うのだ。


「皇。お前ならこれが何かわかるな?」

「…………本気かよ」

「本気だ。最悪ここでお前たちの腕を1本や2本落としてしまっても構わないとさえ思っている」

「はあ……わあったよ〜。俺様たちの負けだ負け。だからそれを納めろって〜」

「わかってくれたようで助かるよ。さあ、話してもらおうか」


 小野寺の本気が伝わったようで、皇は両手をあげて降参の姿を見せた。横目で皇を見た圷も同じく頷いた。

 開きかけた門を閉ざして小野寺は2人の発言を聞く体制に入る。

 まず話を始めたのは皇だった。


「まず、マゾ女が裏切り者だってわかったのはカフェでの一件だな〜。本当だったら俺様が脱獄したタイミングで気が付かないといけなかったんだけどな〜。あの時は気がつけなかったぜ〜。それで追い詰めたところまではよかったんだが、逃げられちまってよ〜」


 そこからは淡々と話が進んでいく。白伊の魔術によるカモフラージュで場所の特定ができなかったこと。大規模魔術には時間が必要であるため、あの時すでに発動しかかっていたこと。それを遅らせるために”リビングタトゥー”を介した魔術をマリアにしてもらいジャミングをかけたこと。皇の計画の全てが語られていく。

 圷とマリアはそこまでのことを知らなかったため、そのようなことが起きていたのかと驚きを見せていた。2人は手早く状況だけ伝えられて、やるべきことをやっただけだったので、裏でそのようなことが起きていたなどとはつゆほども知らなかったのだ。

 そうして最後を締める発言はさらに2人を驚かせるものとなる。


「それで白い仮面の女を追い詰めたんだけどよ〜。圷龍之介の本気を見ちまった俺様はついつい本気を出したくなっちまってよ〜。使〜」

「…………というと?」

「俺様30000人分の精神力を使って”魔王化”しちまったんだよ〜。いや〜。気持ちよかったぜ〜?」

「ま、魔王化!? 大丈夫なの、皇くん? というか、なんで魔王化して人の姿に戻れたの……?」

「そこは――」

「ミレイ様のおかげだね〜。いえ〜い」


 パッと、何もないところから区道ミレイが現れる。それに一番驚いていたのは圷だった。10年前、自分で守れなかった師匠が、なぜか若返った姿で現れたのだ。驚くなという方が難しいだろう。それと同時に感動すら覚えた。圷が呆気に取られている中、皇もいい表情を見ることができたと満足げだ。

 区道は久しぶりの感動の再会を喜ぶ性格ではない。むしろ、自分の復活を信じていたところがあった。おおよそ20年くらいだろうと踏んでいたが、まさか10年で死者蘇生の裏道を見つけ出すとは思っておらず楽しみでならない。一番の楽しみは、未だ未到達の”蠢く終末論”との闘争だった。この部屋の中でマリアだけが彼女を知らない。自己紹介はされていないが”ミレイ”という言葉を聞いて、彼女がくだんの区道ミレイ本人だろうと考えた。死した人間が復活を果たすなどあり得ないことだが、皇の異常さを見ればそんなことは吹き飛んでしまうだろう。

 重苦しかった部屋が一気に場違いな雰囲気で染まっていく。それがいいことなのか悪いことなのかはさておいてだ。


「えっと……」

「ミレイ様は区道ミレイ。生きていれば200と50歳くらいになるのかな〜。よろしくね〜」

「に、250歳……?」

「まあまあ、そんなことは気にせずみーちゃんって呼んでね〜。ミレイ様もあーたんって呼ぶからさ〜」

「あーたんって……ちょ、小野寺叔父様……」

「諦めろ。そいつはそういう奴だ。それより、今度は圷、お前だ」


 突然の来訪と、なぜか気に入られていることに困惑しているマリアだったが、そんなことは無視して必要なことを聞くために視線を圷へと向けた。


「僕は報告通り、黒い仮面をつけた”リビングタトゥー”所持者との戦闘で”アンサーズブック”を使用して排除した。その後、背後にいたマリアを白伊女史に奪われたわけだけれど」

「そうか」

「あなたの言うとおりだった。僕は正義を失ってなどいなかった。それと師匠も……蘇るなら初めから言っておいて欲しかったよ。僕がどれだけ悩んだかわからないだろう?」

「え〜。ミレイ様が死んだのはイレギュラーだし〜。と言うか、ゆーくんから聞いてなかったの〜?」

「僕と彼が仲の悪いことは知っているでしょうに。どうしてあなたはそう……まあ、今に始まった事ではないし、いいですけど」


 小野寺への返事は簡単に、師匠への文句はタラタラに行った圷を見て、反応を面白がっているのは皇だった。区道を蘇らせることは初めから決めていたことだ。それを彼に教えなかったのはこの日の、この瞬間のためでもある。いかに自分がすごいことのできる優秀な人物であるかを見せつけるがために伝えることをやめたのだ。

 タバコの嫌な匂いが鼻をつく。換気もせずに吸っている小野寺に窓を開けろと、マリアは目で合図を送った。そんなに嫌がられるとは思っていなかった様子の彼はそっと窓に手を伸ばす。新鮮な空気が部屋を通り抜けていく。

 最後にマリアへの質疑が行われるかと思いきや皇と圷にとって驚くことを小野寺は言う。


「マリアを残して全員出ていけ。マリアには新たな極秘任務を与えるため、お前たちの出席を禁止する」

「ちょっと待てよ〜。そいつはないんじゃないか〜?」

「そうだ。僕たちは彼女の指揮下に入っているはずだ。その彼女が任務に着くのなら僕たちにだって聞く権利はあるだろう」

「一度部隊編成を考え直そうと思っている。それまでは待機だ。と言っても、お前たちは軍人じゃない。この部屋に留まること以外ならどうとでもすればいい。以上だ」


 2人して「そんな」という顔になる。

 しかし、この場では小野寺の言うことが絶対だ。それに背くことは許されない。

 渋々2人は部屋を出ていった。区道に関してはいつの間にやら消えていた。


 そうして、2人の秘密の作戦会議が行われることとなる。

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