第14話 針夜愛繍
1本の通信が圷に届く。宛先はバカと書かれているが、その人物を彼はもちろん知っていた。
マリアに協力することを決めてすぐのことで、2人はまだ墓地にいる。皇が通信をしてくることなど予想もしていなかった圷は少し違和感を覚えた。皇に対する違和感は大抵の場合、面倒ごとだと相場が決まっている。そのせいで通信を無視しようかと彼は悩む。
しかし横から覗き見たマリアは勝手に圷の通信機を操作して音声通話を開始する。
「何をして――」
(手短に話す。力を貸せ、
「……っ。何があった」
(マゾ女――白伊キョウカが今回の黒幕だ。本人の口から聞いたから間違いない。交戦したが逃げられた。奴らの目的は”魔王生誕祭”を続行することだ。あの日、完遂することができなかった神への供物を今度こそ作り上げる気でいやがる)
通信機から聞こえる皇の口調からどれだけ事態が深刻かがわかる。もっとも信じられないのはカフェでマリアを守ると言っていた白伊が世界を滅ぼそうとしていることだ。詳しい事情は何もわからない。わからせるつもりもなさそうだった。
何より白伊の謀反に誰よりも驚いていたのは勝手に通信を開始したマリア自身だった。彼女は幼馴染のことをよくわかっているつもりだった。自分に優しくしてくれる愛おしい幼馴染が、まさか世界を終わらせるようなことをするとは到底思えなかった。しかし、皇が嘘をつく理由もまた思いつかない。
ともかく、情報の精査が必要だとマリアが食いつくように通信に割ってはいる。
「どう言うこと!?」
(チッ。やっぱりお嬢様と一緒にいやがったか。おおかた、通信をオンにしたのもお嬢様だろ。まあいい。今は色々と説明してる時間がない。1000人の肉体。広い場所。霊的媒体がありそうな場所に心当たりはねえか)
「ちょっと私の話を――」
(今はそれどころじゃねえって言ってんだろ! 世界を終わらせたいのか! 1000人の肉体と広い場所、霊的媒体がある場所を全て吐け!)
怒気に当てられて怯むマリアは手で口を覆ったまま、事実を受け止められずにたじろぐ。それを横目に皇の言葉に当てはまりそうな場所を、圷には一箇所だけ思い当たる節があった。
それを言うのは簡単だ。けれど、圷にはどれだけの時間を使ったとしても聞かねばならないことがあった。
通信機を握る力を強めて、圷は冷静に言葉にする。
「時間がないことはわかった。だが、1つだけ聞かせてほしい」
(ああん? だから今はそれどころじゃ――)
「
しばしの沈黙。その間にも時は過ぎ去っていく。決して結論を急いているわけではない圷にとって皇の答えが必要だった。彼が何を思い、何を考え、どう動こうとしているのかを知る必要があったのだ。
圷に皇は理解できない。それは逆もまた然り。彼らは王であるが故に他の王をわかることはできない。わかってしまえば、自らの矜持を失うことに他ならないから。
しかしそれでも、圷は皇を知らなければならなかった。たとえ自らの矜持を失ったとしても、彼がいつかの彼であり続けられているのかを知らなければならなかったのだ。
(…………チッ。ここでクソババアの名前を出すんじゃねえよ)
「大切なことだ。これで本当に袂を分つ可能性もある。答えろ、悠人。君はどうする」
(………………変わらねえよ。10年前、俺様は……クソババアより世界を取った。だから世界は俺様のものだ。お嬢様が居ようと、居まいと世界は俺様が管理する)
「やはり、君とは仲良くなれそうにないな」
(今に始まったことじゃないだろ。昔からそう。あのクソババアにシゴかれてた頃からわかってたことじゃねえか。俺様とお前は水と油。悪を持って世界を制するか。正義を持って世界を御するか。共闘することはあっても、協力をすることはない。そう決めただろ)
「君があの日の誓いを忘れていなかったようでよかった。ならば今回は――」
(ああ、今回だけは――)
「(――共闘しよう)」
”聖霊王”と”悪魔王” ”アンサーズブック”の第2位と第5位が世界を救うために共闘を決めた瞬間だった。
状況を把握しきれず、信じられないマリアは現状戦力外。皇自体も長い刑務所暮らしだったことで現環境がどのように変化したのかがわからないようだ。圷の思いついた場所が正解であればいいのだが、確証のないものでもある。
悔しいようだが圷は皇の脳を信用している。誰よりも解析に長けている彼の脳みそであれば少しの情報で未来予知に近い現象を生み出すことすら可能だと信頼しているのだ。
「もう一度聞く。 ”魔王生誕祭”に必要なのは1000人の肉体と広い場所。そして霊的媒体がある場所の3点を全て
(ああ。だが、俺様は久々の外で情報がない。調べてる時間もないからお前に聞いてるんだろうが。どうせ当ての1つくらいはあるんだろ?)
「ああ、ある。だが、これが正解かはわからない」
(そこは俺様が精査する。早く話せ)
「
(ああん?)
「大東亜連合国主要戦艦”SAKURA”の船尾にある英雄たちの眠る場所。ここなら1000人の肉体と十分すぎる大きな土地。何より”魔王”に気に入られた区道ミレイの肉体ならば霊的媒体として十二分だろう」
(そういうことかよ……)
どういうことかはわからないが、全ての合点がいったらしい。反応からしてもここが正解だったようだ。とすれば、次はどこで儀式が行われるかが重要となる。皇の話によれば逃走した白伊が墓場に到着していてもおかしくはない状況で、未だ姿が見えないとすると儀式の中心は2人のいる場所ではないのだろう。
いくら考えようと、圷にはその知識が少なすぎる故に結論には至れない。むしろ、こういった事象の考察は皇に考えさせる方が効率のいい考え方だと言えるだろう。
圷は皇の出す結論を待つ。魔術に関して彼は皇に並ぶものはいないと確信していたからだ。墓地の静けさが寒気に変わるかという瞬間に通信先の皇が答えを放つ。
(墓地……正確には墓石が立つ中心地だ。なおかつ、霊的媒体が北に位置する場所でな)
「その位置だと今の僕たちでも目視できるはずだが?」
(マゾ女の”リビングタトゥー”は人の認知を阻害して空間を歪める魔術だった。それが劇的に強化されて空間のカモフラージュができるようになってるはずだ。俺様もさっきそれをやられて、迂闊にも喰らっちまったからな)
「なるほど……。では、その魔術の効果範囲外に侵入できればカモフラージュが解けるということでいいかい?」
(ああ。だが、マゾ女の言い分だともう儀式は始まってるはずだ。間に合わない可能性が高い)
「……? どのみち手遅れということかな?」
儀式は始まっている。走ればすぐでも一度始まった儀式を中断するのは、いかに魔術の才がない圷でもリスクを伴うことを知っていた。皇の言い方ではもう間に合わないというふうにしか聞こえない。なのに、通信先の彼は笑っているようだった。
何か策があるのだろう。咄嗟にそう思った圷はその理由について考えようとして止める。皇の考えを理解できるはずがないのだ。根本的に正反対の両者がお互いの考えを満足に受け入れられるわけがない。彼にとって皇とはそういう埒外の存在だった。
時間がないことも正しく、答えを早く手に入れたい圷は皇を急かす。
「隠している余裕はないだろう。どうすればいい?」
(始まった儀式を中断させるのは困難。だが、結果を遅らせることはできる。通話をお嬢様に代われ)
「なに?」
(いいから早くしろよ)
皇の言う通り、通信機を混乱しているマリアへと渡す。
親友、あるいは幼馴染が今まさに世界を滅ぼそうとしているなどと、考えたくもないマリアは愕然とした表情のまま固まっていた。かろうじて通信機は受け取れたが、うまく会話ができるかわからない。
圷はそのような状態のマリアにいったいなにを吹き込むつもりなのかと、少しだけ不安を募らせた。
(よく聞け、お嬢様)
「…………」
(おい! しっかりしろ、黒崎マリア!)
「き、聞いてるよ。大丈夫」
(今は一々魔術の座学をしてる時間がないから、俺様の言う通りにしろ)
「で、でも――」
(でもも、へったくれもあるか! 世界を救うんだろう!? あの言葉は嘘だったのか!?)
「わ、わかった。……ふぅ。で、私はなにをすればいい?」
皇の活により、一時的に復活した精神でマリアは自らがなにを起こせばいいのかを問う。
通信先で皇は生き返ったマリアの声色を確かめて、世界を救うための工程を頭に描き始める。
儀式はすでに始まっている。これからはどれだけ儀式を遅らせられるかの勝負だ。そこで皇が思いついた嫌がらせはたった1つ。やけにいやらしい顔が思い浮かぶ声で言う。
(――――歌え)
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