第5章:秘密結社の影
山田真理子は、研究室の扉を開けた瞬間、異変に気づいた。普段の整然とした空間が、まるで台風が通り過ぎたかのように荒らされていた。書類は床に散乱し、引き出しは開け放たれ、そしてなにより...
「コンピューターが...」
真理子は息を呑んだ。最も重要なデータを保存していたコンピューターの画面が真っ黒に変わっていた。彼女は急いでキーボードを叩いたが、反応はない。
「先生!」
後ろから鈴木明日香の声が聞こえた。彼女も驚愕の表情を浮かべている。
「明日香さん、すぐにセキュリティに連絡を。そして...」真理子は一瞬躊躇したが、続けた。「中田教授にも知らせて。」
数時間後、研究室は警察と大学のセキュリティスタッフで溢れかえっていた。真理子は疲れた表情で、中田教授に状況を説明していた。
「幸い、最も重要なデータはバックアップを取っていましたが...」真理子は深いため息をついた。「問題は、誰がこんなことを...」
中田教授は厳しい表情で頷いた。「警告したはずだ、山田君。君の発見を快く思わない者がいると。」
その時、真理子のスマートフォンが震えた。画面には見知らぬ番号が表示されている。
「もしもし、山田です。」
「山田真理子殿。」低く、しかし威厳のある声が響いた。「我々は日本古代王朝守護会。貴殿の研究は、即刻中止されたい。」
真理子は息を呑んだ。「あなたたち、なぜ...」
「日本の神聖なる血脈を守るため。これ以上の追及は、貴殿のためにもならぬ。」
通話は突然切れた。真理子は震える手でスマートフォンを握りしめた。
「山田君、どうした?」中田教授が心配そうに尋ねた。
真理子は状況を説明した。中田教授の表情が曇る。
「日本古代王朝守護会か...噂には聞いていたが。」中田教授は深刻な面持ちで言った。「彼らは政財界に強い影響力を持つ秘密結社だ。君の研究が、彼らの利益を脅かしているのかもしれない。」
真理子は決意を込めて言った。「でも、真実を明らかにすることは私の使命です。簡単には諦められません。」
中田教授はため息をついた。「わかっている。だが、慎重に行動するんだ。君一人では危険すぎる。」
その時、真理子は閃いた。「そうだ、佐藤さんに協力を求めましょう。」
佐藤健太郎。愛知県の地元歴史家で、熱田神宮の古文書のことで真理子に連絡をくれた人物だ。
真理子は早速、佐藤に電話をかけた。状況を説明すると、佐藤は驚きながらも、すぐに協力を申し出てくれた。
「山田先生、心配しないでください。私にできることは何でもします。」佐藤の温厚な声に、真理子は少し安心を覚えた。
翌日、真理子と佐藤は愛知県の古墳群を巡っていた。
「ここにも、朝日古墳と同じDNAパターンが...」真理子は新たに採取したサンプルを分析しながら呟いた。
佐藤は興奮した様子で言った。「これは大発見ですね。邪馬台国の人々がこの地に根付いていた証拠になる可能性が...」
その時、不意に物音がした。二人が振り向くと、数人の男たちが彼らに近づいてきていた。
「山田真理子殿。」その中の一人が口を開いた。「我々の警告を聞かなかったようだな。」
真理子は佐藤の前に立ちはだかった。「あなたたちが何を恐れているのかわかりません。しかし、真実は必ず明らかになります。」
男たちが近づいてくる。緊迫した空気が流れる中、真理子の頭の中では様々な思いが駆け巡っていた。
この研究が、単なる学術的な興味を超えて、誰かの既得権益を脅かしているという現実。しかし同時に、この発見が日本の歴史観を根本から覆し、多くの人々のアイデンティティにも影響を与える可能性。
真理子は決意を固めた。たとえ危険が伴っても、真実を追求し続けなければならない。それが、研究者としての、そして一人の人間としての使命だと。
「佐藤さん、逃げましょう!」
二人は古墳群の中を駆け抜けた。追手の足音が迫る。しかし、地形をよく知る佐藤の機転で、何とか逃げ切ることができた。
安全な場所にたどり着いた二人は、息を整えながら状況を整理した。
「山田先生、これからどうしますか?」佐藤が尋ねた。
真理子は深く息を吐いた。「研究は続けます。でも、より慎重に、そしてより広範囲に。日本各地の遺跡や古墳を調査し、DNAサンプルを収集する必要があります。そして、現代の日本人のDNAとの比較も...」
佐藤は頷いた。「私も全力でサポートします。地元の研究者ネットワークも活用しましょう。」
真理子は感謝の笑みを浮かべた。「ありがとうございます、佐藤さん。」
その夜、真理子は研究室で遅くまで作業を続けていた。新たな調査計画を立て、セキュリティ対策を強化し、そして何より、これまでの発見を整理していた。
彼女の目の前には、朝日古墳のDNA分析結果、魏志倭人伝の新解釈、熱田神宮の古文書...そして、日本各地の遺跡から収集された新たなデータが広がっていた。
真理子は深く息を吐いた。「卑弥呼...あなたの真実に、私は必ず辿り着きます。」
窓の外では、満月が輝いていた。その光は、2000年の時を超えて、邪馬台国の人々が歩いた道を照らしているかのようだった。
真理子の戦いは、まだ始まったばかり。しかし、彼女の心には揺るぎない決意が宿っていた。真実を明らかにし、日本の歴史に新たな光を当てる。たとえ、その道が危険に満ちていようとも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます