第4章:熱田神宮の秘密
真知子は、新幹線の窓から流れる景色を見つめながら、胸の高鳴りを感じていた。東京から名古屋へ。この移動が、邪馬台国の謎を解く新たな一歩となるかもしれない。
「海の彼方より来たりし巫女」
佐藤健太郎からの一本の電話で伝えられたこの言葉が、真知子の頭の中で繰り返し響いていた。熱田神宮の古文書に記されたこの一文が、彼女のDNA分析結果とどのように結びつくのか。期待と不安が入り混じる中、真知子は静かに目を閉じた。
名古屋駅に到着すると、佐藤が彼女を出迎えていた。
「山田先生、お久しぶりです。」温厚な表情で佐藤が挨拶した。
「佐藤さん、わざわざありがとうございます。」真知子は微笑んで応えた。「早速ですが、その古文書のことを詳しく聞かせていただけますか?」
佐藤は頷き、「まずは熱田神宮に向かいましょう。そこで詳しくお話しします。」と言った。
車中、真知子は朝日古墳のDNA分析結果について佐藤に説明した。「私たちが発見したDNAマーカーは、韓半島や中国東北部との関連性を示唆しています。そして、そのマーカーが愛知県を中心に分布しているんです。」
佐藤の目が輝いた。「それは...まさに熱田神宮の古文書の内容と一致しますね。」
真知子は頷いた。「はい。だからこそ、今回の古文書の発見が非常に重要なんです。」
熱田神宮に到着すると、二人は宮司の案内で普段は公開されていない建物の奥へと進んだ。そこには、慎重に取り扱われた古文書が置かれていた。
「これが問題の古文書です。」宮司が恭しく文書を広げた。
真知子は息を呑んだ。そこには、彼女の想像を遥かに超える内容が記されていた。
「海の彼方より来たりし巫女、天つ神の御心を伝えん。その血脈、この地に眠る。」
真知子は慎重に文書を読み進めた。そこには、卑弥呼と思われる人物が、韓半島か中国東北部から渡来し、この地(現在の愛知県)に根を下ろしたという記述があった。さらに驚くべきことに、その血脈が代々受け継がれ、熱田神宮とも深い関わりがあることが示唆されていた。
「これは...」真知子の声が震えた。「私たちが発見したDNAの特徴と完全に一致します。卑弥呼の血脈が、この地に残されている可能性が極めて高いんです。」
佐藤と宮司は驚きの表情を浮かべた。
「しかし、」宮司が慎重に言葉を選んだ。「これが事実だとすると、日本の歴史観が大きく変わることになりますね。」
真知子は頷いた。「はい。そしてそれは、現代の日本人のアイデンティティにも影響を与える可能性があります。」
彼女は深呼吸をして続けた。「この古文書の内容を裏付けるためには、さらなる調査が必要です。熱田神宮周辺の古墳や遺跡のDNA分析、そして可能であれば、現在の神宮関係者の方々のDNA検査も...」
宮司は難色を示した。「それは簡単には...」
その時、真知子のスマートフォンが鳴った。画面には鈴木明日香の名前が表示されている。
「はい、明日香さん。どうしました?」
電話の向こうから、明日香の興奮した声が聞こえてきた。「先生!大変です。研究室に何者かが侵入して、データの一部が盗まれました!」
真知子の表情が凍りついた。彼女の脳裏に、中田教授の警告の言葉が蘇った。
「気をつけたまえ。君の発見を快く思わない者もいるだろう。」
真知子は佐藤と宮司に向かって言った。「申し訳ありません。急ぎ東京に戻らなければ...」
しかし、その時、熱田神宮の境内に不穏な空気が漂い始めた。数人の男たちが、彼らのいる建物に向かって歩いてくるのが見えた。
佐藤が低い声で言った。「山田先生、どうやらこの古文書を狙っているようです。ここは裏口から...」
真知子は一瞬躊躇したが、すぐに決断した。「わかりました。でも、この古文書は絶対に...」
宮司が彼女の言葉を遮った。「心配しないでください。私たちにもこの神宮を守る方法があります。」
三人は慌ただしく裏口へと向かった。真知子の頭の中では、DNA分析の結果と古文書の内容が交錯していた。そして、彼女は確信した。この発見が、日本の歴史を書き換えるだけでなく、現在の日本社会にも大きな影響を与えることになるだろうと。
裏口から出た真知子と佐藤は、急いで車に乗り込んだ。
「佐藤さん、名古屋駅まで急いでください。」真知子は息を切らしながら言った。
車が走り出す中、真知子は窓越しに熱田神宮を見つめた。そこには2000年の歴史が息づいていた。そして今、その歴史の真実が明らかになろうとしていた。
名古屋駅に到着すると、真知子は佐藤に深々と頭を下げた。「本当にありがとうございました。この恩は必ず返します。」
佐藤は穏やかな笑顔で応えた。「お気になさらずに。山田先生、くれぐれも気をつけてください。」
真知子は頷き、新幹線のホームへと急いだ。東京行きの新幹線に乗り込みながら、彼女は今回の出来事の重大さを噛みしめていた。研究室への侵入、そして熱田神宮での出来事。これらは、彼女の発見が単なる学術的な興味を超えて、誰かの利益を脅かしていることを示していた。
新幹線が名古屋駅を出発し、東京へと走り出す中、真知子は決意を新たにした。真実を明らかにすること、そしてその過程で自分や周囲の人々を守ること。その両方を成し遂げなければならない。
次の戦いの舞台は東京。そこで待っているのは、盗まれたデータの行方と、それを追う者たちとの対決だった。真知子の、そして日本の歴史を巡る戦いは、新たな局面を迎えようとしていた。
窓外に流れる景色を見つめながら、真知子は深く息を吐いた。これからの展開に、期待と不安が入り混じる。しかし、彼女の目には揺るぎない決意の光が宿っていた。「邪馬台国愛知説」を証明するための戦いは、まだ始まったばかりだった。
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