宰相と賢者の鏡

丸山 令

カウントダウンが聞こえる

 

 ふかい深い森の奥深く。

 隣国との国境には、関所を兼ねた石造りの砦が聳え立っている。

 

 この砦が建てられたのは、およそ半世紀ほど前のこと。

 忠臣であったはずの公爵が、突如叛意を表明し侵攻を開始したため、石の採掘場であったこの場所に、急遽 突貫工事で建造された物だった。


 それ故に、この建物は、平常時の人間が快適に暮らせるような設備を持たない。

 その最たるものが、採光窓。

 当時、敵からの攻撃を食い止めるための盾となる城壁に開けられた穴は、こちらから打つ矢が通る程度の、小さなものしかなかった。


 戦争が終わった現在、関所として役人が駐在できるよう、ある程度手は入れられたものの、奥まった部屋は当時のまま残されている。


 その一室。

 月あかりも差し込むことはない暗がりの中、作業机の上に置かれた燭台の灯りは ゆらゆらと揺れて、石壁に人影を映し出していた。


 その人物は、この国の宰相ジークヴァルト。

 訳あって、数ヶ月前から王城と砦を何度も往復している。


 彼は、作業机に敷かれたクロスの上に並べられている生き物の骨を、丁寧に組み立てているところだった。


「その骨は、どうやらワニの仲間の化石のようです」


 宰相が座る椅子の横、イーゼルに丁重に置かれた大ぶりの鏡が、淡く白色に光りながら言葉を発した。


「ワニ。これが……。伝え聞いたものより随分と小さいが、子どもの骨だろうか? かつてこの地域にも、ワニがいたのだな」


 感慨深げにうなずきながら、宰相はもくもくと作業を続けている。


「古生物に興味がおありでしたか」


 鏡が尋ねると、宰相は苦笑いを返した。


「『動物の骨を集めるなど、魔女のようできみが悪いから やめるように!』と散々周りに言われたのだがね。

 興味深いではないか。かつてこの地に生息していた生き物を知れるのは。それに、面白いのだ。ひとつ組み方を間違えると上手く組み上がらないどころか、バラバラに崩れてしまうのだから」


 宰相は、さまざまな角度から化石を観察し、遂にはワニの全身骨格をつくり上げた。


「さて、息抜きはこれくらいにして、そろそろ本業に戻らねば……」


 そう言って、ワニの骨格を棚の上に大切に移動させると、今度は引き出しから出したカードを 机の上に次々と並べていく。

 そのカードは赤と青に色分けされ、その一枚一枚に、人間の名前や称号が記されている。


「既存のカードと、苦心して集めた私のカードたちだ。これらを上手に使い、今後の物語の骨格を組みたてる。そして、最後には私の望む結果を導き出したい。賢者の鏡よ、手伝ってくれるかな?」


「何なりとお申し付け下さい」


 鏡が淡く発光すると、宰相は満足げに頷いた。

 

「確実に追い詰めるには、順番を間違えないようにせねばな。差し当たり、本日あった狩猟祭の結果次第で、このカードは退場の予定だが……」


 宰相は、赤いキングのカード手に取りテーブル中央に置くと、その横に青い狩人のカードをならべる。


「そうなると、初手は狩人の手腕頼りになりましたかな?」


「そこは、念のためドワーフたちにも協力を依頼した。彼らはあちら側の森にも詳しいから、王の取り巻きを上手く分散してくれるだろう」


 宰相は、七枚の青いドワーフのカードで、赤いキングのカードを取り囲む。

 鏡は、同意を示すかのように、鏡面を青白く発光させた。


「さて、この後 重要になるのが、『魔法の鏡』であるが……」


 そう言いながら、宰相は赤いクイーンのカードの横に、赤と青を半々に塗った鏡のカードを並べる。


「それよりも有能な『賢者の鏡』よ……『この世で一番美しいのは誰か?』と問われたら、魔法の鏡は何と答えるだろうか?」


 賢者の鏡は、鏡面をしばし点滅させた後、答えた。


「現状、魔法の鏡は『王妃ヴェッティーナ様』と答えるでしょうが、数日中にその答えは『王女シュネービット』に変わりましょう」


「結構」


 宰相が満足げに頷いた時、唐突に賢者の鏡が赤く点滅を始めた。

 しばらくして、点滅がおさまると、賢者の鏡は青白く発光して語り出す。


「ただいま我が端子が情報を拾いました。隣国国王、本日狩猟祭にて落馬。首の骨をおる大怪我です」


 それを聞き、宰相は更に笑みを深めた。


「では、引き続き、次のカードを決めるとしようか。そうだな……」


 宰相は、キングのカードを伏せて脇へ避けると、テーブルにある赤いクイーンのカードの横に、青い狩人のカードを置き直し、その横に赤いプリンセスのカードを並べた。

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宰相と賢者の鏡 丸山 令 @Raym

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