第45話 vs飛竜

「何も、バカ正直に言う必要はないわよ」


 みんなに魔力剣封印のことを話したら、シフォンは軽く笑い飛ばした。

 ロックさんもゲラゲラ笑ってる。何で?


「笑ってやりゃあ良いのさ。『お前等、ゴブリンを倒すにも、あんな剣を使わなきゃ勝てねえのか?』ってな」

「いざという時には、稼働できる数を各クランが準備することになりますが……別に常時稼働しなくても問題はないでしょう」


 エクレールさんも同調するけど、ルフィーアさんは仕方なさそうに肩を竦める。


「でも、文句を言い出す人は必ず出てくる。楽に勝ちたい気持ちは変わらない」

「文句言うなら、自分で作れって言うこと!」


 コーデリアさんの鼻息は荒い。でも、生産職と戦闘職では考え方も違う。

 ウチのクランのメンバーが理解してくれたのは、いつもながら本当に嬉しい。

 シフォンが呆れ顔で、笑い飛ばしてくれる。


「シトリンがこういう性格でなかったら、『FFOファンタジー・フロンティア・オンライン』は、とんでもないパワーゲームになって、とっくに終わってるわよ」


     ☆★☆


 ファンタジーなゲーム世界でも、生産計画という言葉は通用する。

 部品を発注して、組み立ててっていう流れは必要だから、魔力バッテリーの製造数を元に、各クランの魔力剣製造数は割り振りのようにして決まった。

 無制限に作られても、困ってしまうよ。

 バッテリーを作りたいと要望してきたクランには、ロックさんが凄みのある笑顔で一言。


「魔導バッテリーのレシピはきもだ。まさか、タダで教えてもらえると思ってねえよな? 金額は、魔剣どころじゃねえぞ?」


 あ、こう言えば良かったのか。

 結局、魔導バッテリーについては、『雷炎』からの貸与という形で落ち着いた。

 いろいろ訝る人が多かったから、魔導バッテリーの中を見せたら、余計に混乱してたのが面白かった。

 そりゃあ、湿った土しか入ってないんだもん。謎技術の極みだよ。

 実際に飛竜の解剖をしたきゅうさんは、『魔化の粘液』の存在までは予想していたろうけど、それをどうやったら作れる? と、頭を抱えてた。

 スマホでも、パソコンでも、仕組みが解らなくたってちゃんと動かせるのだから、納得してね。


 武器を揃えるのに、更に一週間。

 もうじき、五月が終わってしまう。

 佐伯姉妹の計略の実行日が近づくにつれて、私はちょっと焦りだす。

 すべてを終わらせて、心置きなく当日を迎えたいのになぁ。

 ギリギリ、六月最初の週末に再侵攻が決まって、ホッとした。

 今度こそ、この週末で決着をつけよう。

 逃げも隠れもできない晴天。

 飛竜たちの棲み家に向かって、三方向から全プレイヤー軍が進んでゆく。

 相変わらず、巨大なハンマーを担いだロックさんに訊いてみる。


「ねえ、本当にロックさんは魔力剣を持たずに大丈夫?」

「舐めるなよ。最後は自分で鍛えた武器を信じなくてどうするってんだ」

「でも、魔力剣の部品作ったのも、ロックさんじゃない……」

「それはそれ、これはこれだ。魔法陣で殴ったおかげか、飛竜をぶん殴るタイミングが解って来たぜ」


 そっか、やっぱり自分の手でぶん殴りたいんだ。

 シフォンも今日は、腰のサーベルが『いばら姫』に戻されてる。……何で?


「勝てないと解ってる相手と、喧嘩をするのも馬鹿らしいわ。私は今回は、牽制役に専念します。リコちゃんと一緒に頑張るわ」


 ねえ、と二人で確認しあってる。

 ずるい、私も混ぜて欲しい。


「前方、飛竜発見! 多数です。待ち構えているみたいに山頂付近を周回しています」


 ロリエーンちゃんの報告に、緩い空気がピンと張り詰めた。

 次第に目視ができるようになる。

 まだ、あんなに数がいるのか……。


「亜種はまだ、出てきていないか」

「スピードが違うから、亜種からしても飛竜が邪魔になるんだろう」


 もう飛竜は、相手にならないという認識?

 一言釘を差そうと思ったら、代わりにエクレールさんの声が飛んだ。


「魔導バッテリーの稼働時間は二十分。予備は、有りません。亜種は何匹いるか解らない上に、その後ろには成竜レッサー・ドラゴンが控えています。各自、戦力配分は充分に注意して下さい」


 バッテリーに予備は無いと、きっぱり言い切られたことに動揺が走る。

 全軍に配布しちゃったから、予備を作る余裕はなかったんだよ。シトリン工房の生産能力、ギリギリで計算してる。

 どの時点で魔力剣を投入するかは、各部隊長の判断ひとつ。

 三方向に別れた飛竜の群れが襲いかかり、正真正銘の最後の戦いが始まった。

 魔力剣はまだ、使われていない。

 飛竜が相手ならばと、【衝撃波インパクト】の魔法陣が飛び交う。


「登山しながらの戦いはキツイと思いますが、足を止めずに、前進を続けて下さい。山頂部は平地になっているはずです。他軍に遅れを取らず、一番乗りを目指すつもりで!」


 エクレールさんの檄に応えるのは、戦力的にも、飛竜と戦うのがギリギリのテイマーたち。

 ドラゴンの血を含まぬ、大陸版のノーマルワイバーンが最高戦力なのだから、ここが見せ場と張り切っている。

 騎獣の戦力では劣るものの、そこはプレイヤースキルが有る。ハルバートで突きかかる者、弓を射る者、魔導ライフルを撃つガンナー兼任な人もいる。

 生産組が頑張っている間、練習を積んでいたのかも。地上組との連携が、きちんと取れてるよ。

 空から追い込んで、地上からカウンターの魔法陣が飛んだり、地上から牽制をしつつ、空中のテイマーさんの射程に追い込んだり。

 戦い方も、洗練されてきている。


「空中組、散開!」

「そろそろ行くしぃ!」


 飛竜たちを一方向に追い込んだ時、ルフィーアさんとミモザさんのクランチャットの合図が揃った。

 慌てて逃げ出す、テイマーさんたち。


「【雷嵐乱舞バイオレントストーム】!」

「【極大炎焼ギガフレイム!】」


 ミモザさんの呼んだ嵐が、飛竜たちを包みこんで逃さない。そして、その中心に向かってルフィーアさんの超高温の炎が爆発する。

『雷炎の二連主砲』って呼ばれ方は良く聞くけど、この二人の揃い踏みって初めて見た!

 日頃は口悪くミモザさんを邪険に扱ってるけど、ルフィーアさんと二人、しっかり連携して最大限に火力を活かしている。


「だから、ウチは『雷炎の傭兵団』なのです」


 思わず拍手してしまう私に、エクレールさんが照れながら教えてくれた。

 これだけの数の飛竜にとどめを刺すには至らなかったけど、羽根の被膜を焼かれた飛竜たちが、次々と地に落ちてくる。

 火属性が有るのか、まだ空にいる飛竜も雷撃を受けていて、ふらふらと飛んでいる状態だ。

 そこにテイマーさんたちが襲いかかる。

 地に落ちた飛竜には刃が届く。陸戦になれば、ブレスを吐かない飛竜は、大きなトカゲみたいなものだ。勢いづいた戦士たちが、その刃を向ける。


「まだ、亜種たちの動きは有りません」


 斥候を務めるロリエーンちゃんの報告。

 少なくとも、もう『雷炎』の軍に向かった飛竜たちは壊滅状態なのに、まだ動かないの?

 知能の高そうな亜種たちは、何を考えているのだろう?

 殲滅戦は戦い続けるパーティに任せて、『雷炎』本隊は、岩山を突き進む。

『オデッセイ』の軍旗が見えた。全身金属鎧の神官戦士が多い分、登山はキツイのか『神聖騎士団』は少し遅れている。

 決戦の場として設けられたのだろう。山頂の巨大な平地にたどり着いた私達は、思わず息を呑んだ。


 待ちくたびれたとばかりに、赤、青、茶褐色の三頭の巨大な亜種が空に舞い上がった。

 そして、そこが棲み家なのだろう大きな洞窟の有る山頂の岩山を見つめるように、一際巨大な白銀の竜がいる。

 人族を馬鹿にしたように、背を向けたまま……。

 大空に舞い上がった茶褐色の飛竜の隻眼は、憎々しげにリコちゃんを睨みつけた。

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