第44話 決戦兵器にしておこう
それから、あちこちのレストランで材料を集めたり、ロックさんの工房にフル稼働してもらったり。
何とか、巣ごもりを終えて拠点に戻って来たのは、木曜日の昼下がりだった。
久々の拠点は、てんやわんやだ。
亜種こそ来ていないものの、大量の飛竜が襲って来ているのだから無理はない。
今は先に進むつもりはないなんて、飛竜には解ってもらえない。ちょうど良いご飯が、そこにあるという感じなのだろう。
戦闘の邪魔にならないように気をつけながら、本陣のエクレールさんの所に行こう。
「シトリンさん、何か解りましたか?」
「いろいろと。……エクレールさんの見立てで、ウチで一番身軽な、腕の立つ剣の使い手って誰でしょう?」
「片手剣ですか? 両手剣ですか? 腕力は必要?」
「どちらでも好きに。腕力は重要じゃないけど、装置が重いから体力は必要かも」
剣に装置? と怪訝な顔をされてしまった。
シフォンでもいいかと思ったけど、あの娘じゃちょっと華奢すぎて動けなさそう。
エクレールさんはちょっと考えて、名を挙げた。
「飛燕でしょうね。今、呼びます」
普段はルーキーたちのレベル上げの面倒を見ている、あの人か。
がっしりした体つきから、きっと上手く使ってくれる。
呼んだのは飛燕さんだけなのに、何故かいつもの生産チームのメンバーが、ぞろぞろ集まって来る。
真面目に、飛竜を退治しようよ。
「ぶっつけ本番だろう? 不具合が出たら、俺しか部品を直せる奴がいないだろう」
ロックさんが言うのは当り前なのだけど……。
せっかくだから、飛燕さんの鎧に取り付けフックを溶接してもらおう。
「シトリンさんが何か持ってきたようなので、緊急で生配信を行います」
って、
リアルの方の商売っ気を出さないで。
まあ、お披露目の手間は省けるけど、上手くいかなかったら恥ずかし過ぎるよ。
準備ができたようなので、ロックさんに手伝ってもらって、飛燕さんの背中にユニットをセットする。
「何これ、ランドセルじゃないの?」
宝石メッキする余裕がなかったから、普通に金属材剥き出しで恥ずかしい。
背中の箱が重要なんだけど、首を曲げても痛くないように上側に丸みを付けたら、ますますランドセルっぽくなっちゃった。
「重さはどれくらい?」
「十キロちょっとくらいかな。きちんと固定しないと身体が振られそうだ」
そう応えながら、私に向かって首を傾げる。
「で、剣はどこに?」
「ここだよ」
右サイドに固定された金属筒を、持たせてあげる。
お互い、不思議そうに首を傾げる。
「掃除機か、野球場のビールの売り子」
的確なルフィーアさんの表現に、笑いが起こる。
それは確かに、背中の箱からホースが伸びているけど!
一見、ただ筒を持っているように見えるけど!
「柄の部分を右に回してみて下さい」
「こうか? ……うわぁ!」
筒の先から、円筒状の光の剣が飛び出してきて、飛燕さんが思わず悲鳴を上げた。
「ライトセーバー?」
「ライフルもあるから、ビームサーベルじゃないか?」
「どっちにしろ、ファンタジーから外れ過ぎてない?」
散々な言われようだ。
苦労して作ったのに。
「確かめたら、すぐに切って。バッテリーが二十分くらいしか持たないから」
「バッテリーって、背中のこれか?」
「もう少し大きくしたかったんだけど、人が持てるサイズだと、これ以上は無理かなぁって」
背負うだけならともかく、飛竜相手にアクションをしなくちゃならない。
背中のユニットを開けて、バッテリーは交換できるけれど、やっぱり時間はかかるよ。
「お前、バッテリーってこれ……」
「名付けて、魔導バッテリー。この間、きゅうさんたちが飛竜を解剖して見つけた謎臓器を、錬金術的に再現してみた」
「再現できてしまうのですね、この短期間に……」
エクレールさんに、呆れられた。
今回は非常事態だから、久し振りに、封印していた高機能作業場をフル回転して作ったのに。
よく『母なる大地』なんて言葉を言われるけど、あれは本当なのかも知れない。
私達が踏みしめているこの大地が、魔力を生む最高の触媒だなんて思わなかった。
「これは何て呼ぶべきだ? 魔導サーベル? 魔導剣?」
「それより先に、効果を見せて。飛燕さん、これなら多分飛竜を斬れると思うから」
「その言葉、信じてるぜ、シトリンさん」
やっぱり背中が重いのか、よたよたしながら飛燕さんは前線に走る。「どけどけ!」とでも叫んだのだろうか、大きく前が開けた。
襲いかかる赤い鱗の飛竜。
飛燕さんの手元から生じるのは、白い魔力の剣。
属性の無い、純粋な魔力の輝きだ。
……これで斬れなかったら、全力土下座で許してもらえるかなあ?
そんな私の不安を他所に、飛燕さんは迫りくる飛竜の牙を寸前で躱して、左翼の付け根に踏み込んだ。
魔力の剣は、まるでバターでも切るように、するりと飛竜の肌を通り抜けた。
左の翼の前から、右の翼の後ろへと、飛燕さんは大地を駆け抜ける。
深々と切り割られた飛竜の身体は、地響きを立てて落ち、岩場を滑った挙げ句に大岩を砕いて停まった。
やったぁ! ちゃんと斬れたよ!
クランチャットは、どよめきと歓声に埋め尽くされた。
飛燕さんは次の飛竜に向かおうとするが、まだ残っている飛竜たちには知性が有る。
仲間の有り様を見て、降下攻撃を取りやめて、再び空へと高度を取った。
「高所の敵は狙えませんか?」
「魔力砲もできないことはないけど、出力が上がると、魔力制御と加速の為に筒が長くなっちゃうから……使いづらいと思う」
エクレールさんの疑問に、そうは答えたけど……本当の所は、魔力の剣でも、かなりやりすぎの部類だと思ってる。
今回は仕方なく作ったけど、RPGだもん。
自分たちの力が及ばなかったら、それを凌駕するレベルまで、プレイヤーキャラクターを鍛えてこそじゃないかな?
チート武器で勝っても、嬉しくないでしょ?
そのチート武器を一番多く作り出しているだろう、私が言っても説得力がない?
武器としての魔力剣のシステムは、全クラン上げて量産せざるを得ないと思う。あの亜種を複数相手にするには、絶対に必要になるから。
でも、魔力バッテリーの要になる『魔化の粘液』のレシピは公開しないつもり。
あくまでも、対飛竜亜種用の武器であって、それに匹敵する敵でもでない限り、こんな武器を振り回すのは生産職に対する冒涜だもん。
ゲーム内切っての鍛冶の名工であるロックさんが、手塩にかけて鍛えた剣よりも、切れ味が良いチート剣なんて、有っちゃいけないよ。
叩かれるだろうなぁ……。
後で、エクレールさんたちにはちゃんと伝えて、先に謝っておかないといけない。
工房に引き籠もっている私よりも、矢面に立つことになるのは、『雷炎』のみんななのだから。
飛竜を撤退させ、沸き返る戦場を、私は冷ややかな目で見ていた。
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