骨のモンクとおっさん聖女
魚野れん
この蘇生、手遅れでは!?
どうやら俺は死んだらしい。けど、生きているらしい……。
「良かった……無事で」
「無事じゃないと思うよっ!?」
俺は鏡に映った髑髏と睨み合いをしながら叫んだ。おいおいおいおい、これ……骸骨だぞ! 俺、骨だけになっちまってる!
俺は人間だ。ちゃんと骨の他に、内臓や筋肉や脂肪、それらを包む皮膚があったはずだ。ゲームでいうところのスケルトンになった俺の背後には、心の底から「ほっとしている」顔をする男がいた。
お前が犯人か。
「蘇生がうまくいって、本当に良かった」
「いや、これ本当に蘇生か!?」
親友はなぜか最初の職業宣託で『聖女』を引き当てた男だ。この世界の人間は、十歳になると職業宣託を受ける義務がある。そして、その宣託の通りの職業になる為の勉強が始まるのだ。
で、俺はモンク、彼は聖女という宣託が降りた。男の癖に『聖女』なんて宣託を受けたのはあいつだけだ。本当にふざけている。幼馴染である彼――ケレス――だった。まあ、元々女児が欲しかった両親によって女の名前をつけられたところから、こいつの災難は始まったんだろう。
そして、その災難の果ては俺に向けられた――と。本当にふざけている。
「マイク、本当に良かった……!」
「だから、良くないって!」
「
俺は感謝すべきなのだろうか。比喩ではなく骨だけになった俺の腹部にぎゅうぎゅうと抱きついてくる男に、吐き出すものもないため息をつく。
何だかんだ言って、ずっと共に生きてきた親友だ。ここまで頑張ってくれたことが嬉しくないと言ったら嘘になる。それに、ケレスは今まで一度も蘇生を成功させたことがなかった。
決して、彼が聖女として落ちこぼれだからではない。蘇生自体が高位の聖女でなければできない術だからだ。むしろ、俺の感想としては「できたんだ……それ」だ。
「マイク……マイク……ッ!」
「……心配させて悪かった」
俺の死因は、ケレスのミスだ。あいつがダンジョンの罠を作動させ、それから守る為に俺が犠牲になった。どんな罠だったのか? それは思い出したくもない。串刺しで一息に死ねたらよかったんだがな……。
俺は恐ろしい記憶に慌てて蓋をした。
ケレスは骨だけの俺に抱きついたまま離れない。四十年来の相棒だ。彼の性格からすれば、まあ致し方ないことなのだろう。性格だけは聖女に向いている男だからな。
「もう駄目かと思ったんだ……でも、不可能だとしても、僕は君を諦めたくなかった」
「そうか……」
もうすぐ五十になろうという男が、涙でぐしゃぐしゃになっている。情けないな、と思いつつ俺は苦笑する。あ、苦笑するような筋肉はないんだった。不思議なことに、俺の彼の涙が肋骨を濡らす感触がする。
スケルトンと違って普通に話ができるし、知能も下がってない……と、思う。肉体が駄目なだけで、それ以外は生前と変わらないということだろうか。これは後でケレスと検証する必要があるな。
俺がそんなことを考えている間に、ケレスが俺が死んでいる時の話をし始める。
「君の死体を持って帰って、腐っていくのを見守りながら、ずっと蘇生の魔法を試みたんだよ」
「……腐っていくの見てたのか」
「え? うん。だって、少しでも早く蘇生したかったから……」
「そ、そうか……」
さも当然かのように頷いて見せる男に俺はそういう人間だったよな、と納得する。本当に、中身は聖女なのだ。だからといって、自分が朽ちていく姿をじっくり眺められていたのだと思うとあまりいい気はしないが。
「骨だけになっても、ずっと親友だよ」
「おう……」
骨のモンクとおっさん聖女、実に良い組み合わせじゃないか。半ば自棄になった俺はそんなことを思いながら意外とふさふさしている親友の頭を撫でてやるのだった。
骨のモンクとおっさん聖女 魚野れん @elfhame_Wallen
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