第28話 もう……うんざりだ!

 とめどなく降りしきる雨のなか、崖の上で幼馴染み達が睨み合う。


 そんな最悪の状況の中、オレは閃いていた。


 つまりこの状況は、身から出たサビということだった。


 オレは、幼馴染み達の悪癖とそのヤバさを知った後も、結局のところ、あいつらが好きだった。


 あらゆる犯罪行為を受けても、それでもまだ好きだっただなんて、オレも大概どうかしている……と我ながら思う。


 でもだから、誰か一人を選ぶことが出来ずに、ズルズルと今日まで来てしまった。


 だとしたら、オレはどうすればいいのか?


 オレのこの感情を吹っ切ればいい。


 つまりは平等に、みんなを──


 ──嫌いになればいい。


「もう……うんざりだ!」


 オレの怒号に、全員が肩をびくりと動かして、こちらを見た。


「おい、お前ら! あれこれ好き勝手に束縛してきて、オレのことを独り占めとか……いい加減にしろよ!?」


 あまりの剣幕に、五人が一瞬固まる。


 奈々海が「え……?」と目を丸くし、莉音は泣き腫らしたまま呆然としている。


 しおりは口の端を引きつらせ、エリナは一気に怯えた表情になった。


 そして恵は、その目をすっと細める。


「どういうことですか、悠人君」


 再び包丁の刃先を向けてくる恵に、しかしオレは臆することなく怒号を放った!


「どうもクソもないだろ! いい加減にしろと言っている!」


「……はい?」


「追跡に盗撮盗聴、意味不明な蒐集癖、挙げ句の果てには刃傷沙汰だと!? 怒らないほうがおかしいだろ!」


 恵が包丁を動かすが、オレはもう後退できない……!


 だからオレは、生唾を呑み込んでから、はっきりキッパリ言ってのけた!


「お前ら全員、大っ嫌いだ!!」


 雷鳴が遠くで低く唸り、雨粒がどっと強まる。


 オレの叫び声は、激しい風音のせいでかき消されそうだったが、それでも彼女たちに届いたらしい。


 五人が唖然として、時間が凍りつくみたいに沈黙した。


 口々に言葉を紡ごうとしても、声にならない様子がありありとわかる。


 そんな幼馴染み達に向かって、オレはさらに声を張り上げた。


「お前らみたいなヤバイ奴ら、好かれると思っているのか!? ここまでされて、オレが好きでいるわけないだろ!!」


 思わず涙が出そうになるが……大丈夫だ。


 こんな豪雨なら気づかれないし、気づかれたって、恐怖のあまり泣き出したと思われるに決まっている。だからここで怯んじゃダメだ。


 オレはさらに畳み掛ける。


「そもそも面倒くさいんだよ、お前ら! 勝手に好きになって、こっちが誰を選ぶかでいちいち対立しやがって……バカバカしいにも程がある! 恋だの愛だの、聞いて呆れる! オレにはもっとまっとうな人生があるっての!」


「ゆ……悠人……?」


 奈々海が、ショックに染まった顔でオレを見上げる。まるで呼吸の仕方を忘れたみたいに口をぱくぱくしているが、それでも言葉は出てこない様子だ。


「聞こえなかったのか? お前らがどれだけ必死に愛そうが、オレはそんなの今やどうでもいいんだよ!」


 口がカラカラに乾いて、発言を重ねるたびに自分自身がすり減る感じがした。


 それでもやらなきゃならない。


 なぜならこのくらいしないと、こいつらを更生させられないのだから!


「いいか? それでもオレと一緒になりたいというのなら、オレを養え。オレを敬え。犯罪行為なんてもってのほかだ! オレを主として崇め奉って見せろ!」


 ああ……自分で言ってて、もう自己嫌悪で死にそうだ……


 でもここまで言わないと、こいつら、オレのことを嫌いにならないだろう?


 相手に嫌われるなら、まずはこちらが嫌うこと。


 あとは暴言を言いまくること。


 きっとこれだけで、好感度はだだ下がりだ。


 恋愛ゲームはそうだったからな!


 だからオレは、ゲームオーバーまっしぐらに選択肢を詰めていく。


 そもそも、人生がゲームオーバーになるよりよっぽどマシだし……


 雨が凄くて、あいつらの顔がよく見えなくなってきたのが幸いした。勢いを削がれないから。


「そうだ。オレはこれからニートになる。働く気なんてないし、お前らがオレを養うのが当然だろ? 家事? そんなのやるわけない。遊んで暮らすわ。ゲームでも酒でも女でも、何でも好き放題するぞ!」


 もうこうなったらやけだ! ひっぱたかれるまで言ってやる!


「ああそれと恵、オレを殺そうとしても無駄だぞ! オレはもうお前のことが嫌いだからな!」


「…………!?」


「当然だろ? どこの世界に包丁を突きつけてくる人間を好きでいられるんだよ! あの世ではようやく離れられて清々するぜ! 何しろ人殺しのお前は地獄、オレは天国だからな!」


 恵の反応は分からない。オレは恐怖のあまり、さらに捲し立てた!


「他の連中も一緒だ! オレの好感度を稼ぎたいならご奉仕しろ! オレを崇めろ! オレの奴隷になるっていうなら、考えを改めてやってもいいぞ!」


 豪雨で見えないけど、誰かが動いた。


「近寄んな! もはや暴力だって辞さないからな!? あと亭主関白になるし、ヒモになるし、DVだってやってやる! お前らがそれでいいというんだから、文句言うなよな!」


 オレがそこまで言い切ると、全員が微動だにしなくなる。


 はぁ……もはや、最悪の誕生日だ。


 でもこれで、こいつらの悪癖が収まるなら……


 まっとうになってくれるなら!


 オレとの縁が切れても、まっとうにさえなってくれるなら、これからの人生はきっとマシになるはず。


 オレは拳を握って、最後の一言を放った。


「もう一度言う。お前らなんて、大嫌いだ!」

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