第13話 時が止まった森⑥~終結そして映し出された過去~

 

 黒い霧のような瘴気しょうきが森の中に広がり空気が重くなり始めると、どこからともなく不気味な笑い声が響き、ヴェルドの姿が現れた。

 ウェーブする黒髪が風に揺れ、彼は漆黒のマント広げて悠然と立っていた。深紅の瞳は冷やかに光っている。


「フフ・・・森の精霊どもが目を覚ましたか。だが、もう遅い・・・貴様らが何をしようと、この森は既にクロノス様のものだ」


 カムイがまず剣を構え、一歩前に出る。

「ふざけるな!!この森は俺たちの故郷だ!お前なんかに渡してたまるか!!」


「渡してたまるか?ならば、力で証明してみせろ」

 ヴェルドが片手を揚げると背後の空間が歪みだし黒い光が弾けると、無数の影がうごめきながら彼の身体を包み込んでいく。


「アルト、行くぞ!」

 カムイの叫びと同時にアルトも剣を抜き、二人はヴェルドに向かって一気に攻撃を仕掛けた。カムイの剣がヴェルドの胴を切り裂こうとした瞬間。


「無駄だ」

 ヴェルドの声が響いたかと思うと彼の体はまるで霧のようにかき消え、カムイの剣は空を切った。


「何ッ⁉またか・・・」


 その隙を突かれ、カムイの背後にヴェルドが瞬間移動する。


「遅い」

 漆黒の腕がカムイの体を尽き抜けるかのように貫こうとするが――。


「させるか!!」

 アルトが素早くカムイの腕を掴みそのまま後方へ飛び退く。二人は間一髪でヴェルドの攻撃を回避した。


「クク・・・なかなかやるな」

 ヴェルドは楽しげに微笑むと、再び黒い瘴気しょうきをまとわせながらこちらを見据える。


「だが無駄だ。貴様らの武器では私に傷一つつけることはできん」

 

「くそっ・・・!!物理攻撃が通らない・・・!」

「どうすれば・・・」

 カムイとアルトは息を荒くしながらお互いに視線を交わす。


 その時、森の精霊たちがそっと近づき、小春とニドムの周りを舞い始めた。


「心を一つに・・・」

 精霊たちが優しくささやくように歌う。


「心を・・・一つに・・・?」

 小春はその言葉を何度も繰り返し、ヴェルドと戦う二人の姿を見つめて考えを巡らす。


「そうか!」

 小春はアルトとカムイに向かって叫んだ。


「二人とも、ただ剣を交えても無駄なの!四人で力を一つにするのよ!!」


「えっ?」

 アルトは驚いたように小春を見た。


「心を一つに・・・って、どういうことだ?」

 カムイもヴェルドとの距離を一旦置きながら小春の方に目線を送る。


「この森の精霊が歌ってるの。戦ってもこちらの体力が奪われるだけ、私たちの‟想い“を一つにすればヴェルドに勝てる!」


「つまり、ただの力ではなく俺たちの心の力を統一することで、ヴェルドに対抗するすべが生まれる・・・そういうことか」

 ニドムが冷静に判断し、小春にアイコンタクトを送る。


「やってみる価値はある」

 アルトは頷きながら、剣を胸の前に掲げた。


「なら、やるしかないか・・・!」

 カムイも剣を構え直し、小春の側へと駆け寄る。


 小春の側にアルト、ニドム、カムイが集結すると、小春は目を閉じ手を胸に当て、その手を前に差し出した。その手の上に三人も手を重ね合わせ目を閉じ念じはじめた。


「気持ちを一つに・・・私たちの想いを強い力に変え、森を守りたまえ」

 四人の心が重なり合った瞬間、紫、黄、緑、青そして朱色と光の色が変化し四人の体を包み込む。すると小春の体が宙に浮き両手の中に再び宝玉が現れた。


「な、なんなんだこれは・・・?」

 ヴェルドは初めて動揺していた。。


 小春が光輝く宝玉を空に向かい放つと光は一気に広がり、カムイとアルトの剣を包み込み、弓矢も虹色に輝き始める。


「今度こそ仕留める!!」


 アルトは剣を握りヴェルドに向かって再び攻撃を仕掛けた。カムイも弓矢の弦に指をかけ攻撃の機会を狙っていた。


 今までとは何かが違う・・・。

アルトの剣がヴェルドの肩を切り裂き、アルトの矢がその胸を貫く。


「ぐぁああああああっ!!!」


 ヴェルドは苦しみながら叫びをあげ、木々にぶつかりながらも必死に立ち上がろうとしていた。


「バ・・・カな・・・私の身体に・・・攻撃が・・・通る・・・だと⁉」

 黒い霧が漏れ出し、ヴェルドの身体がゆらゆらと揺れ始めている。


「今だ!!」

 カムイが叫ぶ。


 小春は再び胸の前で手を交差し光を集めるとクリスタルの剣が現れ、その剣を飛ばし最後の一撃を放った。


 ヴェルドは苦闘に歪む表情を浮かべながら、全身を闇に引き裂かれていくように震わせていた。彼の黒い衣があちらこちらからほころびはじめ、黒霧とともに消えていく。


 その時、衣の中から何かが落ちるのをヴェルドは最後の力を振り絞り拾おうとしていた。


「うっ・・・ぐぐぐっ」


 彼が手に取ろうとしていたのは、一枚の古びた水晶板だった。その画面らしき表面はスノーノイズのような状態になっている。小春は思わずその水晶板を拾い上げながら画面をのぞきこむ。


「こ・・・れは・・・」


 スノーノイズが消えると、そこには男児が映し出されていた。よく見るとヴェルドによく似た顔立ちをしている。当たり前のことだが今まで見てきたヴェルドの冷酷な感じはまったくない。痩せ衰えた、今にも倒れそうなはかない姿だった。


「これは・・・ヴェルドなのか?」

 アルトそしてカムイ、ニドムも映像を見ながら息を呑む。


 映像の中で男児は冷蔵庫を開けるが、食べつくしてしまっていて空っぽになっていた。空腹と寒さで震えながら、男児はうずくまり最後の言葉をつぶやく。


「ママ・・・タ・・ス・・ケテ・・・」


 小さな声で最後の望みをかけて祈るようにつぶやくが・・・男児はそのまま力尽き倒れてしまった。その時、画面には黒い霧をまとった物体が現れ、男児の前に立ち、霧の中から伸びた不気味な手が男児の魂を身体から引きずり出し、麻のような袋へと押し込んだ。


「こんな恐ろしい事が起きていたなんて・・・ヴェルドは・・・人間だったのか」

 カムイが水晶板をのぞき込みながら独りごとのように呟く。


 そうしているうちに画面が切り替わり、まだ幼い我が子を蹴り上げる女性の姿が映し出される。


「お前さえいなければ・・・あの人の元に行けるのに!!!」


 いとわしい言葉を吐き捨て、男児を置いて女性は鍵をかけ出ていく姿が最後に映っていた。その画像は男児からの目線で映し出されているため、涙で画像が揺れていた。


「この女性はヴェルドのお母さんだよね・・・」

 それ以上何も言葉にすることが出来ない四人は呆然と立ち尽くしていた。

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