第12話 時が止まった森⑤~王家の秘密と迫る決戦~

 

 小屋の中は嵐の前の静けさのように、静寂な時間が流れていた。かすかに灯るランプの光が壁に揺れる影を映し出している。横たわる王と王妃の呼吸はまだ浅く、完全に体力が回復するにはまだしばらくかかりそうだ。


 小春は彼らを見つめながらふと疑問に思ったことを口にする。

「どうしてクロノスの影は、王と王妃を狙ったんだろう?」


 ニドムは何か思いつめた様子で、闇に包まれた森をじっと見つめ静かに話し始めた。

「それは・・・この森に隠された王家の秘密に関係している」


 アルトは顔を上げ、カムイも驚いたようにニドムを見た。

「王家の秘密・・・?」


 ニドムはゆっくり振り返り、王と王妃の側に移動しながら語り始める。

「この森にはかつて『時間を操る宝玉』が存在していた。王家の者の力でしか扱うことが出来ない宝玉で王位継承者に代々引き継がれる。この森の生命と時間を守るために使われてきた。しかし、ある時その力を狙う者たちが現れ、森に混乱をもたらした」


「それが・・・クロノスの影なんですね」

 小春が呟くと、ニドムは深く頷く。


「クロノスの影は時間を支配し、この世界そのものを歪めようとしていた。そしてこの森を時空の牢獄に変え、悪の拠点として利用するつもりでいたのだろう。王と王妃はその侵略を阻止するために戦ったが、彼らの力だけではあらがえなかった。結局、森は呪われたように時間が止まり、王と王妃はクロノスの影に操られる形となってしまった」


 ニドムは少し前にこの真実を知る事になったが、体が弱く先頭に立って戦いに挑むことは到底無理と諦めていた。


「そんな大切なこと・・・何も知らず・・・自分勝手に生きていたんだな・・・俺は」

 カムイは悔しそうに拳を握りしめた。


「父上と母上は、私たちを守るために秘密にしていたのだろう。でも今はカムイを王位継承者として、私は彼を陰ながら支える事が出来る。二人で力を合わせる事が何よりも大切だと気付いた」


 ニドムがゆっくりと歩み寄り温かい手をカムイの肩に置く。静かではあるが、強い思いが込められた視線はしっかりとカムイに向けられ、ニドムはカムイを軽く引き寄せた。その瞬間、二人の間にあった距離が消えていく。


「俺の方こそ兄上を支える。冷静な判断と超能力に長けている兄上こそが王位継承にふさわしい方だ。そして俺にとって心強い存在だよ」


 カムイはニドムの抱擁に一瞬戸惑うが、その温もりが心地よさに変化し、心を許すように兄の腰に手を回した。

 

「その『時間を操る宝玉』は、今いったいどこにあるのだろう?クロノスの影が探しているということは、この森のどこかにあるのだろうか?」

 アルトはまだ少し痛みがある腕を押さえながら考えていた。


「なら、俺たちが先に手に入れればよい!クロノスの影よりも早く!!」

 カムイは剣を握り直しニドムの方を見た。だがニドムは静かに首を横に振る。


 その時、王がポツリと呟く。

「‟時の泉“・・・そこにヒントがあるはずだ。私が王位継承し、時の泉で心身を清めた時に一度目にしたことがある」


「では、真の王位継承者によって封印が解かれるというのは本当なのかも・・・・。ならばその泉に行けばよい」

 すっと立ち上がり今にも小屋から飛び出していきそうなカムイの腕をニドムは掴む。


「いや・・・ヴェルドがこちらに向かっている今、このまま‟時の泉“に向かっても逆に奪われてしまう可能性の方が高い。まずはヴェルドをこの森の別の場所へ誘導し足止めする必要がある」


「つまり、おとり作戦ですね」

 アルトは穏やかな口調であったが、オーデンの森の地図を確認する眼光は鋭く、今まで見たことない大人びた彼に小春は少し戸惑っていた。


「そういうことだ」

 ニドムは頷きながら地図上で泉の場所を確認する。


「私がおとりになる。そしてカムイ、お前はアルトと共に別のルートから向かい宝玉を手に入れてくれ」

 

 バァン!!!!!


 鈍い音が小屋の中に響き渡った。机の一部が欠け、握りしめた拳には筋が浮き出していた。


「何言ってんだ!!そんな危険な役は俺が引き受ける!」


「カムイ・・・この森を救う為に、お前にしか出来ない任務だ」

 ポンポンと優しくニドムはカムイの肩をたたく。


「わかった・・・よ。兄上」


 その時、横たわっていた王と王妃がゆっくりと目を開けた。


「ニドム・・・カムイ・・・」


 王のかすれた声に皆が反応し体が自然に王の側へと引き寄せられる。小春たちが見守る中、王と王妃は体を起こし深い瞳で愛おしそうに息子たちを見つめた。王妃は二人の王子の手を握り静かに話し始める。


「この森を救う為に、お前たちの力を貸して欲しい。私たちは最後の力を使い森に眠る精霊たちを目覚めさせる。もし、私たちに何かあっても動揺することなくこの森を守ってほしいの・・・出来るわよね」


 ニドムとカムイは唇を噛みしめ、こみ上げて来る涙をぐっとこらえる。


「森の精霊は、森の守護者を守る戦士だ。彼らの助けがあればこの戦いに勝利することが出来るかもしれない・・・」


 王と王妃は両手を前に差し出し、静かに呪文を唱え始めると、小屋の外から風が吹き込んでくる。冷たく澄んだ空気が広がりキラキラと小さな光の粒が浮かび上がってきたが、それと変るように王と王妃の顔は生気を失いその身体は疲れ果てたように動かない。命の灯火が今にも消えようとしていた。


「父上!!母上!!」


 ニドムとカムイの目には悲しみがにじむと同時に、それぞれの手からは輝くオレンジ色の光が流れ出し精気として王と王妃の身体に吸い込まれていく。しかしニドムとカムイの体力も限界を迎えようとしていた時、小春とアルトも二人の手を取り四人で命の輪を作るように王と王妃を囲んだ。

 

 しばらくすると、王と王妃の顔に正気が戻りはじめ安堵した王子たちは涙を浮かべながらも微笑む。王家の血統は命の絆によって再び固く結ばれ始めていた。


 その瞬間、四人の輪の中に『時間を操る宝玉』がふわりと浮かぶ。宝玉は揺れながら高く舞い上がり突然クラッシュし、星屑のように砕け散った破片は宝石のようにきらめく。


「これは・・・・!」


 小春が驚きの声をあげると、森のあちらこちらから精霊たちが現れ始めた。透き通る羽を震わせながら優雅に宙を舞う。


「私たちを、呼び覚ましたのは?」

 精霊のリーダーらしき者が、小春たちをチラリと一瞥いちべつする。


「この森を救うため、どうか力を貸して欲しい」

 王と王妃はゆっくりと頭を下げた。


 精霊たちは一瞬考えるように沈黙する。それぞれが顔を見合わせ、やがて微笑みながら優しく頷く。


「・・・わかりました。あなたたちがまことに森を守る意志を持つのなら、私たちは力を貸しましょう」


 森の精霊たちが優雅に飛びまわりながら、小屋の外の草木や花たちに軽く触れた部分に色とりどりのオーブが浮かび上がり、辺り一面は生気を帯び始めた。


 絆を取り戻した家族愛で『時間を操る宝玉』が現れ、精霊たちを目覚めさせる事に成功した今、いよいよ彼らは最終決戦へと向かっていく。

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