第7話 夜の伝八


 久平の様子がおかしい……。

 新しい団子を売り始めてからだ。もともと口数が少ない人だったが、さらにその言葉数は減り、猫背だった背をさらに丸めて下を向いていることが増えた。


 小春は、新しい「つぶあん団子」を、実は久平が快く思っていないと疑った。

 久平の許しを得て販売を始め、久平も製造にかかわっているが、古い人だから「あれは与田屋の味ではない」という、複雑な思いがあるのかもしれない。新しい団子が売れなければ問題はなかったが、売れたことで与田屋が違う店になってしまった。久平はそう戸惑っているのかもしれない。実際、店が繁盛し始めて手伝いの人も入れて人の往来が増えたから、以前の店の様子ではなくなっている。


「おとっさん」


 小春は作業場で団子を焼く久平の袖を引いた。


「借金を返したら、元の団子だけでお店をやりましょうね。だから、いまだけ我慢して」

「どうして」

「おとっさんは、変わったお団子を売るのは嫌でしょ」

「新しい団子のことか。あの団子はよく出来ている。ずっと売ろう」


 含みのない笑顔で久平は言った。


「なら、なにが気に入らないの」

「気に入らない?」


 久平は小春を見て首を傾げた。


「だって、おとっさんは、ずっと変だもの」

「まあ、借金のことがあるからな……」


 久平の癖で、深い溜息と共に言う。


「綾のことも納得ができないし、借金の取り立てが厳しくなった。今後のことを考えると心配で夜も眠れなくなるのだ。文司にお前を女郎屋に売れと言われたしな」

「元気、出してください」


 悩みが深いのは小春もよく理解している。

 ただ、お金を返そうと、工夫に工夫を重ねて前向きのことを考えている小春より、小春に言われたことを黙々とこなすだけの久平の方が、深い悩みの淵に嵌って抜け出せないのかもしれない。綾の死が今でも悲しいのは小春も一緒だが、樟蔭寺への看病に小春は子供で労咳が移りやすいという理由で行くのを止められていた。綾が労咳で弱っていく過程を小春は見ていない。最後のときが近づいた綾はひどく痩せていたそうだ。それを樟蔭寺に行って看病をしていた久平は見ていた。


(でも、それだけじゃない)


 小春は思った。

 久平が何かこう、それとも違う種類の悩みを抱えているような違和感を感じていた。食事のときもどこか上の空で、何かを考えているような虚ろな目をしている。


「姉さん、最後はひどく痩せていたんでしょ? 一人ぼっちでお寺にいて、姉さんはかわいそうだった」

「それはわしが看病に行っていたから大丈夫だ。家に戻れなかったのはかわいそうだが」

「……はい」


(よく、おとっさんを見ていないと)


 久平が勝手に首をくくってしまう……。そんなふうに小春は思ってしまった。



 その夜中、隣の部屋で人の動く気配がした。

 久平が厠へ行く……。


 小春は夢うつつの中で久平の足音を耳で追った。そして、かすかに衣擦れの音がしてくる。小春は、はっとして目覚めた。


(おとっさん、着替えてる?)


 時刻は九ツほど。まだ夜明けにはだいぶある。

 久平が何をしているのかと不審に思って、襖を細く開けてその様子を見た。だが、すでに久平は部屋を出たあとのようで、中に人の気配はない。


「おとっさん?」


 襖を開き暗闇に向かって声をかけてみたが返事はない。着替えて外に出たのか……。

 小春の鼓動が急に激しくなった。


 最愛の綾が死に、もう一人の娘も女郎屋に入るかもしれない。目の前の景色の激変に付いてゆけず、ついに久平はおかしくなってしまった。どんな理由があっても、こんな夜中に外出するのは尋常なことではない。心配で、小春は寝間着のままで外に出た。



 外は外気が肌を刺すような寒さだった。小春は自分の肩を両手で抱えた。空気が澄み、夜空に月が輝いている。


 風がない日で、月夜に照らされた人の居ない静かな道。それはまるで、あの世まで続いているかのように神秘的だった。


「あ……」


 道の向こうに誰かの影が立っている。小春は影に駆け寄った。


「――誰だ」


 小春が近寄ると、影が皴がれた渋い声で言った。


「あの……ちがうんです」


 小春は驚いた。

 影の正体は岡っ引、横の伝八だった。


 放火犯を探しているとかで、前にこの男に色々と訊かれた。同心、槙塚清志郎まきつかきよしろう支配、横の伝八という四角い顔の三十代の男で、がっちりとした骨太の体型。眼光鋭く小春を睨み、今にもイノシシのように突進してきそうに身構えている。


「なにがちがう」


 伝八は真っ直ぐに小春を睨みつけた。


「あの……。わたし、火を点けに行くんじゃないんです」

「ふっ、だろうな。どうした、寝ぼけたのか」

「あ、あれ? ここって」


 一瞬、寝ぼけたふりを始めた小春だったが、わざとらしいと思ってすぐに止めた。


「あ……ちがいます。早起きして、お店の仕込みをしようと思ったんです」

「まだ九ツ(深夜0時)だぜ」

「ほんとう? なぁんだ、まだ眠っていてもいいんですね」

「ちょっと手を見せてみろ。寝ていたやつは手を見ればわかる」

「手を?」


 小春は月明かりを受け取るように両手を広げた。それを伝八が覗き込む。手相で寝ていたのかわかるのかな? と、小春は不思議だった。


 起きる時間を間違えたふりを小春はした。


「なら、まだ早すぎて、藤兵衛とうべえさんのところに行ったら迷惑ですね。わたし、家に帰ってもう少し寝ます」

「砂糖のおろしをしている富士屋藤兵衛か。お前は昨日、行ったばかりだろ。たびたび行かなければならないのか」


 伝八は目を細め、蛇のような鋭い視線で睨んできた。伝八は、なぜか昨日の小春の外出先まで知っていた。色々と事情を知っているようで小春は戦慄した。伝八に店を監視されていたがまだそれは終わらず、こんな夜中にも店を見張っていたようだ。もしかしたら、小春を放火犯として疑っているのか。


「支払いがあります。ほかにも、お願いごとが藤兵衛さんにあるんです」


 嘘ではない。

 日によって砂糖の値段が違うから、安い砂糖を手に入れようと、小春は頻繁に富士屋藤兵衛のところに出向いていた。


 侍は棒録で受け取った米を金にするために売るが、その売値は頻繁に変わり投資の対象にもなって激しく売買されている。値段の変動を記録するための特殊な表記方法がこの時代に開発されたが、それがあまりにも便利だったために、後に世界中の投資家に使われ、「ローソクチャート」と後の世の投資家に呼ばれて無くてはならないものになっている。余談になるが、相場が暴落することを「がら」と言って、現代の投資家は相場が落ち込む様子をナイアガラの滝に例えたと思っているが、しかしそうではない。江戸時代にすでにこの言葉は暴落の投資用語として定着している。「がらがら崩れる」が「がら」の語源だ。


「親父はどうした。近頃、お前が店のあるじか。あん入の団子が売れてるらしいな」


 評判になりつつある、つぶあん団子のことを伝八は知っていて、その開発者が小春であることもなぜか知っている。


「伝八さん、なんでも知ってるんですね……」

「耳が早くなければ俺たちの商売は務まらないからな」

「おとっさんは元気です。でも、おとっさんはお団子だけを作る役目なので、仕入れとか、最近は私がそのほかのことを何でもやります」

「お前、十四歳だったな」

「はい」

「それが、事実上の与田屋の主か」

「……姉さんが凄かったんです。私は姉さんのやっていたことを代わりにやっているだけです」

「労亥で死んだ綾か。美人だと評判だったようだな」

「ど、どうして」


 小春は息が止まりそうになった。

 綾が亡くなったことは近所に伏せている。労亥であることも秘密だった。町名主まちなぬしには綾の死を届け出ているが、理由を言って、時が来るまで伏せてくれるようにお願いしてある。


「ふん、こいつを舐めるな」


 伝八は懐から十手を取り出した。自らの捜査能力を誇示するように月にかざす。


「はい……」

「俺の目は節穴じゃあねえ。何でもお見通しだ」

「は、はい……」


 小春は、はっきり言って迷惑だった。

 どうしてこういう手合いに絡まれるのか。


 岡っ引は同心ではなく、その正式な配下でもない。江戸には南町奉行と北町奉行があるが、その警察業務を遂行する同心は南北合わせて二百人ほどしか居ない。たったの二百人……。それでは百万都市の江戸の治安を守れないから、同心は私的に岡っ引を雇って使っている。岡っ引は、元は強盗など悪事を働いていた手合いで、本業だったからその道に詳しい。犯罪者の行動を予想することができて、犯人逮捕の役には立つが、同心から渡される給金はわずかで、商屋をゆすったり賄賂を受け取ったりして暮らしている。だから、庶民は岡っ引などに関わりたくないのだ。しつこく絡んでくるのは金をせびるためだ。


「伝八さん、聞いてください」


 小春はこの機会にはっきり言っておこうと思った。夜間であったために相手の顔がよく見えず、対人恐怖症が少し収まっていて今なら言えそうだ。


「私の家は、おとっさんと私、それにナカさんの三人しか居ません。見張っていても怪しい人は誰もきません」

「三人で暮らしてるのは知ってる」

「それに……」

「なんだ」

「家には借金があります」

「どこの家にもそんなものはある」

「すごくたくさんあります……。でも、お金はぜんぜんないんです」


 ゆすっても金は出ない――。そう言ったのだが、


「ふん」


 と、伝八は鼻で笑った。


「嘘だな。今は繁盛してるようじゃねえか。俺も、あんが中に入った団子を二本ばかり食った。あれなら売れる。今は金が集まってるだろ」

「あのお団子を売っても利益は二文しかありません」

「一本売ってそれだけか。まあ、そんなもんか」

「借金がすごくあるから、ぜんぜんお金が返せなくて困っています」

「いくらだ」

「すごくあります」

「だから、いくら」

「三百両です」

「はっ?」


 小春にしては上出来だった。借金を十倍にして言ってみた。馬鹿正直な性格なのだが、変な岡っ引に店を監視されるのが迷惑で大げさに言った。


「そいつあ、首をくくるしかねえな」


 伝八は呆れた笑い声を上げた。三百両といえば、物語でしか聞かないような大金だ。たかが団子屋に返せるわけがないと思っている。



 それで、伝八に解放されて小春はいったん家に戻った。戻ると、久平も家に居た。


「おとっさん、外に出ていたの? 私も今、出ていたの」

「お前も?」

「おとっさんが居ないから、外に探しに出てみたら、横の伝八さんという岡っ引につかまって」

「つかまった?」

「つかまったって、呼び止められたっていう意味」


 ふーっと、久平はひとつ溜息をした。


「あいつには気を付けろ……。近頃、このへんをうろうろしてる。外に出るときは奥から出るといい。そうすれば、あいつには見つからない」

「おとっさん、奥から出たの? なにをしに?」

「ちょっとな。眠れなかったから散歩だよ。木戸番の佐平さんのところ。少し話してきた」

「伝八さんがうろうろしてるのを知ってるのに? あの人、放火犯を探してるらしいから、夜中に出歩かないほうがいいですよ」

「あいつがいても裏から出れば大丈夫。本当に佐平さんのところに行ってきただけだし、もしも見つかっても佐平さんが証明してくれる」

「はい……」


 町を区切る木戸は夜の四ツ(午後十時)に閉められて、防犯上の理由で人の往来が制限される。頼めば外に出られるが、さすがに久平は木戸の外へは出なかったようだ。


 かーん


 と、遠くで拍子木がひとつ鳴った。家の中にいる小春にもそれが聞こえた。

 木戸を人が通るとき、木戸番は拍子木を鳴らして人の往来を知らせる。二人通ると拍子木は二度鳴り、三人ならば三度鳴る。おそらく、木戸の外に伝八が出た音なのだと小春は思った。


(それにしたって)


 久平は伝八に店を見張られているのを知っているようだ。


(どうして外に出るの?)


 伝八は火付けの犯人を捜している。夜中に出歩くのは、あらぬ疑いを掛けられるばかりで得なことはひとつもない。まさか、久平が放火犯ということもないだろう……。



 朝になり、小春は藤兵衛のところに出掛けた。

 砂糖の値段は日によって変わる。

 さすがに毎日行ってもそれほど変化はないが、もしもということもある。


「藤兵衛さんのところに行こうと思った」


 と、伝八に伝えたし、どこで伝八が見ているかもしれず、念のために本当に藤兵衛のところに砂糖の値段を見に来たのだ。


 昔の飢饉のときに砂糖相場が高騰して、それが与田屋が借金を抱える理由のひとつになった。だから、保存が利く砂糖を出来れば安いときに大量に仕入れておきたいと小春は考えていた。


 久平は職人気質なためか、団子は真剣に作るが、どこか重心が片寄っていて、材料の値段にそれほど関心がない。だから材料費を卸業者にふっかけられても気づかず、驚くような値段で買ってしまったりする。綾がそれに気づいて仕入れを管理するようになり、今は小春がそれを受け継いで仕入れをしている。


 綾が寝込む前に仕入れのコツは聞いていた。


「簡単に首を縦に振らないこと」


 というものだ。

 買いに来ているのに、いかにもそれが欲しくない態度を取ることが重要だという。そういう駆け引きは疲れるだけで意味のないものに小春は感じたが、駆け引きをしなければ安く仕入れることができないから仕方がない。


 借金が合計で三十両だということがわかり、もっと工夫をして仕入れなければならなくなった。仕入れるものは、砂糖、米粉、小豆、醤油、燃料の炭、竹串などたくさんあるが、小春は足しげく店に通って、相場で価格が崩れたときに買った。


 駆け引きが必要な物には、


「おとっさんから、この値段で買ってくるように言われたから」


 と、新しく考えた作戦で小春は挑んだ。

 別に久平に言われてはいないが、自分で「このくらいだろう」と安い値段を設定して交渉する。足しげく店に通って、値段に誰よりも強くなっていた小春は、このあたりの勘が鋭利になっていた。人より安い値段だったが、ぎりぎりの値段を小春が言って、


「この値段で買うようにおとっさんに言われたから」


 と、頑としてゆずらない。


「この値段でお願いします」


 と、しつこい小春。


「あんたにはかなわない」


 と、根負けして、卸業は小春の値段で売ってくれるようになっていた。誰よりも安い値段ではあったが、売って損をする値段でもない。そういう絶妙な値段を小春は突くことができた。



「――いらっしゃいませ!」


 だんだん、小春も売り子に慣れて声が出るようになっていった。

 まだ恥ずかしいのか顔を赤くして接客しているが、つぶあん団子が飛ぶように売れて、恥ずかしさに気を回す余裕がなくなっていた。


 そうやって団子を売っていて、ふと通りの向こうを見ると、横の伝八が団子を食っていた。客の顔はみんな覚えているが伝八は買いに来ていない。誰か人をやって買いに行かせたようだ。


「どうぞ」


 と、小春はお盆に乗せたお茶を伝八に持っていった。


「おう」


 伝八は苦虫を押し潰した顔でそれをお盆から受け取って飲んだ。

「うっすい茶だなあ、それにぬるいぞ」

「もう一杯どうぞ」


 お盆にはもうひとつ湯呑が乗っている。湯呑が小さいから飲み足りなかったのか、嫌そうな顔をしつつも伝八はもう一杯を手にした。


「なんだ、こっちのは熱くて濃いじゃねえか。茶も満足に淹れられねえのか。旨い団子も台無しだぞ」

「すみません」


 軽く舌を出して小春は謝った。伝八には、石田少年のお茶と気づいて貰えなかったようだ。


「伝八さん、与田屋のお客さんの中に火付けの犯人が紛れているんですか?」

「かもな」


 伝八は小春に視線をくれず、団子を求めに来る客を熱心に見つめている。団子が売れるようになって近所の者にも手伝ってもらっているから、小春は少しなら店を空けられる。


「伝八さんは、夜も寝ないんですか?」

「なんだ、しょっぴくぞ」


 迷惑そうに伝八は言って、手を払うように小春に振った。「向こうに行け」ということのようだ。犯人を張っているから目立ちたくないのだろう。


「犯人って、小柄な男の人ですか?」

「そういうやつを見たのか?」

「見てませんけど……」

「なら、店に戻れ」

「はい」


 だが、伝八を追い払うために小春は来たから戻らない。ここに岡っ引に居続けられたら商売に影響が出る。


「あの晩な」


 と、伝八は、いつまでも帰らない小春に言った。


「半鐘が鳴ったのを聞いたか。遠いが火事があった」

「火事が……?」


 といっても、江戸は火事が多いから珍しくない。火事を知らせる半鐘の音は小さくならよく聞こえてくる。


「それで俺はあの晩、ここを見張りに来たんだよ。そしたら、お前が寝間着で闇から出てきた。眠そうな顔でな」

「火事が起こってから?」

「放火犯が戻ってくると思ってな。このあたりに住んでる」


(なにを言ってるのかしら)


 小春は首をひねり、その小春の疑問を伝八は読み取ったようだ。


「放火は現場を押さえなければ証拠にはならない。だが、現場なんかそうそう押さえられるもんじゃない。だからよ、戻って来たところを押さえようとしたのよ。犯人なら、手や体が煤で汚れてるかもしれねえだろ」

「でも、たまたま竈で火を使って、手や顔が煤で汚れていることもありますよね?」


 ますます小春は小首をひねった。あの晩、小春の手が煤で汚れていなかったから伝八に疑われなかったようだが、自宅の竈などを触っても手が煤で汚れるはずだ。台所仕事をしただけで放火犯にされたらたまらない。


「そんなの関係ねえ」

「関係ない?」

「そうやって地道に探すしかねえんだよ。目星を付けたら、今度はそいつのあとをつける。それで火を点けたら、それがそいつの年貢の納め時よ」

「まあ!」


 小春は感動した。

 岡っ引など、泥棒の親戚くらいに思っていたのだが、本当に地道に放火犯の捜査をしているようだ。小春は店の前から追い出そうとしたことに罪悪感を感じながら店に帰った。



 そして、小春はお盆に団子を乗せて外に出て、道の向こうの伝八にあん入り団子を持っていった。小春は、ちゃんと放火犯を探している伝八を見直した。団子は疑ったお詫びのつもりだった。


「お団子、もっと食べますか」

「お前、じゃまなんだよ」


 お盆には団子が三本乗っている。


「どうぞ」

「お、おう」


 伝八は袖から金を取ってお盆に乗せた。


「お金、いりません」

「遠慮はいらねえ。借金の足しにしな。つりもいらねえ」

「すみません……」


 恐縮しつつ小春はそれを受け取った。断っても出した金は引っ込めないだろう。

 また、店に戻って小春が団子を売る。

 近頃は本当に団子がよく売れるようになった。あん入り団子が売れたためだが、実は砂糖が安く手に入ったために、以前の団子より他の団子も少し甘くなっている。団子が売れるのはいいが、


(砂糖の量で決まるのかしら)


 と、小春は疑問に思うようになっていた。

 美味しい団子を作ろうとみんなで頑張って作っていたのに、砂糖の量を増やすだけで団子は簡単に美味しくなってしまう。だとしたら、団子とはいったいなんなのだろう。糖分摂取のための手段でしかないのだろうか。



 余談だが、江戸の町人が大好きな食べ物の一番人気は栗ということになっている。甘いからだ。焼き芋も大人気。これも甘いから。飴は子供が大好きな食べ物だが、江戸の人は大人も好んで飴を食べた。後の世と比べたら糖分摂取量が足りていない。


 江戸の雑貨屋で食べ物を取り扱っている場合がある。


「八里五分」


 と、雑貨屋に看板があれば食べ物を取り扱っているということだ。江戸の町人が大好きな食べ物は栗(九里)だから、それよりは劣るが美味しい食べ物を置いてあると捻っている。


「十三里」


 と書いて食べ物の取り扱いを宣伝する場合もあった。九里と四里を足したら十三里になる。


「栗(九里)より(四里)うまい」


 と、駄洒落ている。そういう数字を使った言葉遊びが江戸の人は好きだった。

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