第28話

何か言って。

守り切れないよ。



「松木、よく高梨と話してんだからどっかでメシでも食いながら恋バナでも聞き出してこいよ」



良く言えば無邪気に、悪く言えば能天気に、言われた言葉に心臓が大きく脈を打ち始めた。


話してもいないのに喉がカラカラになる。


松木さんとそんなことできるわけない。



「えー何言ってるのー」



おどけたような松木さんの声に、すでに視界全体に床が広がった。




「高梨ちゃんは頼み事を聞いてもらってるだけでトモダチじゃないよ?恋バナなんてするわけないじゃん」




たとえば、松木さんたちの表紙がデコレーションされた授業のノート。


たとえば、教室の隅っこにある掃除ロッカーの中身。


貸したことのある体育着。

後ろにまわしてと頼まれた別の子宛のミニレター。


日直や委員会のお仕事。



わたしはそれらに縋って、やっと人と繋がることができた。



繋がれていると、思いたかった。




「おいおい松木ひでえな」


「ひどい?どうして?トモダチじゃない人に恋の話しなんてできるわけないよ。知りたいとも思わないし」


「ぶははっ、おまえ、かわいい顔してサイアクだな!」


「そっちだって盛り上がってるじゃーん」



松木さんは、ひどくなんかない。本当のカンケイをただそのまま言っただけ。


それなのに何もかもが割れて音を立てて崩れていくような感覚に陥っている。勝手な人間だ。

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