第27話

なかなか言葉を発さない小鳥遊くんのこと、本当はどんな表情をしているのか見たいけど見れないでいる。


どうして、小鳥遊くん。


わたしに気を遣ってるのならそんなことしなくていいから、早くこの、きみの日常にあってはならない空気を変えて。



「みんな立ち上がってしんみりしちゃって、何してるの?」


「松木じゃん。いいところに来た」



その言葉にはっとして後ろを見ると、「高梨ちゃんまでどーしたの」と、目をまあるくした松木さんがいた。


今日の分のノートを持ってわたしの席の前にいる。


わたしはまだ準備ができていない。それどころじゃなかった。



小鳥遊くんの肩に腕を掛けたクラスメイトが、そのままこっちに近づいてくる。



松木さんに、知られたら……そんなことが脳裏に浮かんだ。


小鳥遊くんが築き上げてきた日常が本当に崩れてしまう。その前にどうか、カンケイなんてないって言って。わたしの言葉じゃ誰にも届かないの。きみなら、できるでしょう。



「なに?」


「昨日さ、このふたりが夜会ってるところ見たんだよ」


「え?」



小鳥遊くんのことを気に入ってる松木さんが知ったら、きっと、小鳥遊くんの日常は元に戻ることがむずかしくなる。



「どういうこと?」


「あの遊園地でこっそり会ってたんだよ。高梨が呼び止めたって言ってるんだけどアヤシくね?優もなんか言えよなあ」


「優と高梨ちゃんって話すような仲だったの?」


「あの、松木さん、ちがくて…」



わたしの声じゃ届かない。


小鳥遊くん。

あの約束の意味を、解っていないはずないよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る