第26話

「え……」



教室でそんな小さくて不安げな声、聴いたことない。

誰にも内緒で、あの夜だけだったはずの彼が、少しだけ姿を現した。わたしのせいだ。


わたしは、小鳥遊くんのことが大好きだけど、これからを望んでない。


望めないよ。


だからきみとわたしの間に、カンケイなんて存在してない。



「えっと……」



歯切れの悪い、小鳥遊くんの声。今までの彼の我慢が泡になって消えかけている。こんなわたしとの、たった1か月の夜のことだけで。


そんなの絶対に許されない。



ガタン、と大袈裟な音を立てて席を立つ。


振り返ると、浴びたことのない視線の数が注がれる。小鳥遊くんのことは見てはいけない。うわさをしている人を、見て、疑惑を向ける目と対峙する。


わたしのせいなら、わたしがなんとかしないといけない。


わたしならどうなっても構わない。失うものなんてないもの。



「たまたま、小鳥遊くんを見かけて話を聞いてもらっただけです…。ただそれだけで、なにも、ないです」



嘘なんかいくらだってつく。

自分の気持ちも彼の気持ちも偽れる。


守るためならいくらだって、したい。



「優、そーなの?」



小鳥遊くん。


きみは、頷いていいんだよ。


頷くべきなんだよ。


ずっとそうしてきたんでしょう。


小鳥遊くんはそれでいいの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る