第29話

5人分のノートを書くことが、1日のはじまりだった。


「高梨ちゃん」なんて呼んでもらえたことで、満足をしていた。小鳥遊くんと分けるためだとわかってはいたけど、わかりたくなかった。それでもうれしかったの。


初めてだったの。誰かに頼られたこと。



だけど本当は松木さん、勉強だってやればできる。要点ノートを作る前からそれなりの点数をとっていたことくらい知ってる。あの夏風邪がなかったらわたしに用なんてなかった。わたしの存在を認識することもなかったと思う。



わたしの居場所は、ここにはない。


無理やり作ろうとしたって、ないんだ。



だからこそ小鳥遊くんが、自分の中身を隠してまでして築き上げてきた居場所を、守りたいの。


そうでもしなくちゃ、わたし、なんのために小鳥遊くんと出会ったの。



「あれ、高梨、もしかして泣いてる?」


「ええっ、なんで!?」


「なんでって松木がキツイこと言うからじゃん?こういうやつは、パシリでもなんでもいいからおまえみたいなやつと関わっていたいだけなんだよ」



ほとんど、図星で何も言えない。恥ずかしくて、くるしい。


だけど泣いてなんかないよ。泣きたくないよ。これ以上恥ずかしいところ、好きな人に見られたくない。

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