花を追い夜に踏み込む 1

 宇呂うろ大翔ひろと

 高校二年生。眼鏡をかけた、線の細い吹奏楽部員。

 特に目立った経験もなく日々を送っていたが、最近生まれなかったはずの妹との再会した。


 その妹、かりんは蛇だった。オレンジの鱗が可愛らしい蛇である。

 先祖返り。過去に先祖が蛇と交わっていたらしく、その血が濃く出た影響との事だった。

 最初は信じられなかったが、普通とは違っても妹は妹。懐いてくれている事もあり、出会いの日以来、良好な関係を築けている。



「わ、これ可愛い!」

「やっぱり似合うじゃない!」

「ね。ママってセンス良いよねー」

「わあ、ありがと!」


 高校は夏休み。スマホを見ながらのんびりとくつろぐ夜。

 涼しいリビングにきゃあきゃあと賑やかな声が響く。

 かりんに巻かれたリボン、手作りの帽子やアクセサリー。

 蛇である事は関係なしに母娘でオシャレを楽しんでいた。


 母は蛇として生まれた娘を見て酷く動揺し、怪しい組織に預けていた。ずっとその事で罪悪感を抱えていた。だから更に情緒不安定となって家族は心配し、家庭内の空気は悪かったのだ。

 だが、それも終わり。

 かりんと再会して以降は気分が晴れ、調子が良い。

 花瓶にはガーベラやポピーといったオレンジの花。気付けばどんどん増えている。

 前は青い花が好きだったはずだが影響を大いに受けていた。


 なんとなく大翔が二人を眺めていたら、両手に別々のリボンを持って話題を振ってくる。


「ねえ、大翔。どっちがいい?」

「え、えーと。どっちも似合うんじゃないかな」

「……はーあ。そんなんじゃモテないよー?」

「そうそう、その通り。今後が心配ね」

「別にいいよ。そんなの」

「強がり言っちゃってー」


 尾を向けてからかうかりんは蛇でもニヤニヤしているのが分かる。母も娘に乗っかって二人がかりだ。

 悪い気はしないと、大翔はつられて笑う。

 リビングに着飾った蛇。この光景は異常かもしれないが、間違いなく明るい家族だった。



 翌日の玄関。

 オレンジの鱗が映える夏の朝。大翔は微笑んでかりんを見送る。


「昨日も楽しかった。気を付けて」

「おにーちゃんこそ、これから大変なんだからね。お盆は気をつけないと」

「あー、やっぱり。お盆ってオカルト的に危ない?」

「まあねー」


 あくまで軽い調子。しかし視線が油断ならないと告げている。


 大翔は何者かに狙われているのだ。

 母も以前利用されていた。その後も何度か撃退したが、まだ危険な状態は続いている。

 家の中でも警戒は怠れない。

 だからかりんは邪気が強まる夕暮れから朝まで護衛してくれているのだ。そんな理由とは関係なく家族へ会いに来ているのも確かだが。


 じっと見つめ合う兄と妹。

 守りたいからこそ、守ってほしくない。

 自身と、かりん。どちらが欠けてもいけない。形のない不安、恐怖が重みを増していく。


「大丈夫、だよね」

「うん! 頼りになる先輩もいるし。今度紹介するね」


 あくまでかりんは明るい。意地で形だけでも笑い、大翔は今度こそ見送るのだった。


 強い不安を押し殺し、拳をぎりりと握り締めて。

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