花を追い夜に踏み込む 2

 かりんはずっと、夜行組合という組織で生活していたらしい。

 夜行組合。密かに妖怪や幽霊、呪術といったオカルト関係を取り纏めているようだ。国とも繋がっているとか、いないとか、上層部についてはかりんもよく知らなかった。

 怪しい事この上ないが、これまで妹を庇護してくれてきたので大翔は感謝している。

 そんな彼らの仲間が、妖しく危ない夏の応援にきてくれるとの話だった。



 夏休みにも吹奏楽部は活動している。厳しい練習が終わり、制服も汗で濡れた夕暮れ。暑さも緩んだ頃合い。

 校門でかりんと合流。周りを確認しながらこっそりと鞄に潜ませて、堂々と歩く。


「先輩とは会うのは家じゃなくて良いの?」

「家じゃ危ないの。ママまで巻き込むかもしれないし」

「そこまでなんだ……」

「お盆はねー、空気があの世と近くなるから悪用しやすくなっちゃうんだよ」

「それなら結界とかで守る感じ?」

「ごめん。囮にして返り討ちにした方が早いって」

「ええ……」


 思わず立ち止まって顔を引きつらせる大翔。

 かりんが余裕そうなのでこの業界ではよくある事なのだろうか。明るい声は心強い。

 おかげで大翔は両親の安全の為なら仕方ないと割り切れたのだった。




 コンビニ前に、例の先輩はいた。

 無地のTシャツに薄手のパーカー、デニムのショートパンツ。キャップを被ったスラリとした女子だ。

 アイスの棒を噛んでいた彼女は、真夏の日差しに似たギラギラとした笑みを浮かべる。


「よお。大岳常葉おおたけときわだ。よろしくな」

「はじめまして。宇呂大翔です。妹がお世話になっています」

「うん、こっちも仲良くさせてもらってる。……ちなみに、あたしは人喰いの化け物の末裔だ。怖いか?」


 不意を突く言葉。八重歯を覗かせた恐ろしげな表情。わざと怖がらせようとしているのが明らか。

 試されている。

 凄味に怖気付きそうになるところ、唾を飲んで答えた。


「怖くありません。妹が信頼している方なので」

「ふうん。良い奴だな」

「あ、ありがとう、ございます……」


 顔を寄せて優しい微笑みを向けられた。

 落差もあってドギマギして、つい目をそらしてしまう。

 すかさずかりんが耳元で囁いた。


「おにーちゃんって、こういう人がタイプ?」

「そ、そんなんじゃないってば!」

「まあ、慣れてないだけだよねー」


 小馬鹿にしたような弾んだ声。少しムッとはしても我慢。兄として余計に情けない姿は見せたくなかった。


「どっちにしてもムリだろーけどね?」


 ただそのニヤニヤとからかう口調は、大翔に向けられたものではない。常葉が対象らしかった。


 その彼女が、何かを見つけて大きく仰け反った。


「……げえ!」


 視線の先には、穏やかに微笑むポロシャツにハーフパンツの男子。爽やかでニコニコと人懐っこい雰囲気がある。

 しかし、その雰囲気はすぐに崩れた。


「どうしたの? 気分悪い? あ、ボクの指食べる?」

「そのサイコっぷりが嫌なんだよ!」


 微笑みながら平然と投げられた言葉に、常葉が怒鳴る。慣れた様子はするが二人の温度感はズレている。

 大翔は引いて大きく距離をとっていた。


「な、なに? 自分から食べられたい妖怪?」

「ユキさんはただの普通じゃない人間だよ」

「はい?」


 謎の説明に困惑。かりんもわざとやっているので大翔の混乱を楽しんでおり、訂正する気がない。

 そのうちに当人がやって来て自己紹介してくれた。


「やあ、ボクは皆川元幸みながわもとゆき。よろしくね」

「なんでいんだよ」

「君が仕事するって小耳に挟んだからさ」

「このサイコストーカーがよ」

「ひどいなあ」


 苦々しく吐き捨てる常葉だが、元幸はまるで堪えておらず爽やかに笑っている。警戒心は一方的だ。

 大翔は増々混乱を深める。


「どういう関係? ただの人間も仲間なの?」

「なりゆきで協力者になったんだよね。それでも色々活躍してるし。頼りになるよ」

「そう、かな……?」

「ホントに常葉センパイと絡まなきゃ好青年なんだって」


 力説するかりんを信用するしかない。不信感をなるべく消そうと自分に言い聞かせた。

 そうして一応和やかな顔合わせが終わる。一部に不満はありつつも夜行組合の施設へ出発した。



 危険が高まる日没前に到着する予定。暑さもあり足早に歩道を行く。元幸がニコニコと喋りかけるが、主に女子ふたりでの会話が弾む。大翔は大人しく見守っていた。

 見かけは単なる高校生の帰路だった。


 だが。

 まだ夜が始まらない内に。


 ゾクリ。

 身の毛がよだつおぞましい気配。一瞬で世界を塗り替える異常。本能が全力で逃げる事を訴えかけてくる、恐怖。


「早ぇな……来やがった!」

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