第25話
地下水道で一晩を過ごした三人は電子端末から鳴り響くけたたましい着信音で目を覚ました。
寝ぼけた頭で電話に出るのは困難を極める。あたふたとしているうちに取り逃がしてしまった。
「ど、どうしよ?」
「そんなこっちから掛け直せば良いだろ」
真っ青な顔をするクライゼンを不思議そうに見つめながらアルドールは言った。しかし、クライゼンが恐れてるのはそういうことではないようだ。
「これクララさんからだ。昨日の報告書まだ送ってなかったんだよぉ。怒られちゃうよぉ」
クライゼンは目を潤ませていた。
アルドールはそんな彼女の様子にため息をつくと「じゃあ代わりに出てあげるから」そう言ってクララに電話をかけた。
「あ、あのぉ?繋がらないみたいでぇ……」
クララは申し訳なさそうに告げた。これに警察上層部から来た刑事は舌打ちをするともう一度掛けるように催促したときだった。
クララの端末から着信音が響いた。瞬間、部屋が緊張に包まれるえ
「もしもしクライゼンさんですか?」
クララが端末に向かって話しかけたが帰ってきたのは別人の声だった。
「アルドールだ。クライゼンはちょっと話したくないようだ」
電話の相手はアルドールだった。
「大丈夫ですよ。アルドールさんとクライゼンさんは今一緒に居られますか?今いらっしゃる場所を教えて欲しいのですが……」
クララの尻目には何やら装置を弄っている刑事の姿があった。おそらく逆探知機だろう。
「すまいないが、ちょっと複雑なところに居てね。説明がしにくいんだ」
アルドールはそう答えた。するとクララの元に一枚のメモ書きが渡される。
スルト通りメイン広場、メモにはそう書かれていた。
クララは黙って頷くと、「大事なお話があるのでスルトン通りメイン広場に来ていただけませんか?時間は‥‥‥」
クララが顔をあげると、男はメモに12時と書いた。
「12時でお願いします。それではお気を付けて」
そう言ってクララは電話を切った。刑事はどこかに電話を掛けながらすぐにオフィスを後にした。
クララはというとデスクに戻って荷物を整理しはじめた。来週には新しい部署へと異動になると上司からついさっき伝えられた。かねてより希望していた部署だ。口止め金のつもりなのだろう。
だがクララは二人に謝りたい気持ちでいっぱいだった。
こんな厄介ごとに巻き込んでしまった罪悪感が彼女の心の中にゆっくりと染み渡る。
その数時間後、指定された場所に現れたアルドールは警察部隊に囲まれて、大人しく縄についた。だがすぐに国外追放へと至りはしなかった。
クライゼンが失踪したのだ。
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