第26話

「もう一人はどこにいるっ!!」

白熱灯が一つぶら下げられただけの薄暗い取調室に、アルドールは手足を手錠で繋がれて椅子に拘束されていた。そんな彼女に向かって刑事の男が唾を飛ばす勢いで怒声をあげながら詰め寄る。しかしアルドールはどこ吹く風といった様子で一向に口を割る気配がない。

「さぁね。途中で別れたから知らない」

何度目になるから分からないセリフを彼女が吐くと、刑事は我慢の限界を迎えて机に拳を叩きつけた。

「いつまでそうしてるつもりだっ!!かれこれもう4時間もずっとその調子だっ!!!いい加減に諦めろっ!!」

この国では事件が少ないものだから犯人に対する尋問の技術がそこまで高くない。一向に口を割る気配がないアルドールに、刑事はほとほと参ってしまい怒声をあげている彼の方が精神を削れていた。

「もう四時間も経ったのか。ならもうそろそろ話してもいいか。クライゼンはたしか…」

刑事がうなだれているとアルドールは突如として口を割り始めた。まるでタイミングを見計らっていたかのようだが、刑事にとってそんなことはどうでもいい。

「どこだ?どこなんだ?」

アルドールに食い入るように詰め寄った。

「やっぱ忘れた」

刑事は机に突っ伏す形で落胆した。

「冗談だ、冗談。たしかホルニシャだっけな。そこの地下水道にいるはずだ」

「そこに向かっているということか?お前が捕まったところからホルニシャまで車でも3時間は掛かるぞ」

クララが二人に電話を掛けた時点でアルドールもクライゼンも指名手配がなされていた。指名手配されると国が提供するサービスつまりは自動駆動車の利用が出来なくなる。となれば徒歩で向かうしかないが、距離的に言ってそれはあまりに無謀だ。

「いや、もうとっくに着いた頃じゃないかな」

「嘘を言うなっ!!どうやってそこまで行けるというんだっ!!」

歩いたら何日掛かる分からないのに、アルドールはもう着いたと言う。刑事にはその言葉があからさまな嘘に見えたが、彼女の目は真剣だった。

「クライゼンなら出来るさ。彼女、強いから」

「…本当に嘘は言ってないんだな?」

刑事がそう言うとアルドールは黙って頷いた。

にわかには信じがたい話だったが、刑事はひとまず信じることにした。厳密にいえば、彼女が口にした話は真偽問わず全て上に回すように指示されている。彼が信じるが信じないかはさほど重要ではない。刑事は取調室を出ると、上司にアルドールの言葉をそっくりとそのまま伝えた。

上司はまたさらに上の上司へと。その上司はまた上にと伝言ゲームが始まり、10分も立てば警察のトップとなる人物にまでこの話は伝わった。そして彼はこの国で名を知らぬ人がいないくらい有名な企業のCEOへと電話を掛けた。その企業の本当の名はWN社というが、人々は目玉となる商品サービスの名をそのままにC-TAT社と呼んでいる。


CEOは警察トップからの電話を終えると、また別のところへと電話を掛けた。

「奴はホルニシャにいるようだ。あぁ、見つけ次第始末しろ。五年前の失態をここで取り戻すのだ」

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