第25話 四通目でおしまい?

 ヒルタンと一緒いっしょ何事なにごともなくりょうもどると、四通目の手紙が入っていた。ウルスラより先にヒルタンが見つけて手渡てわたしてくれる。

「また神様からかなー?」

「どうだろう、中を見てみるよ」

 ヒルタンは神様から手紙が来ているとしんじているみたいだ。理由なんかないだろうけど、味方ができたようでちょっとうれしい。


『ウルスラへ。

 すべてをつたえるべき時が来たようだ。今夜、面談室に一人ひとりてほしい』


 あれ? 死んじゃったはずの神様が、何をどうやってつたえるのだろうか。だれ協力者きょうりょくしゃがいるんだろうか。

 ありない話ではない。というか、ウルスラだけが協力者きょうりょくしゃだというほうがへんだ。神様からの手紙で動いている人がほかにも何人かいて、ウルスラも今夜その仲間入なかまいりをたすのかもしれない。

 でも、一人ひとりでというのはなんだか不気味ぶきみだ。もしかしたらわなかも。ウルスラのことをよく思わない人間が、神様のフリをして手紙を出してきている可能性かのうせいはある。スルヤかな? 生徒せいとはもうすぐばんはんの時間だから、来るとしたらその後だ。先に面談室に行っておいて、万が一スルヤのわなだったらげよう。

「いいなー! ぼくも行きたい!」

ぼく一人ひとりでって書いてるでしょ、だめだよ」

「分かってるし……」

「ヒルタン、今日きょうばんはんほかの人と一緒いっしょに食べてくれる?」

「ウルスラは?」

「先にこっちの用事をませてくるよ」

「んー、いいよ」

 ヒルタンが素直すなおにうなずいてくれたので、ウルスラはその頭をひとでして面談室に向かった。

 だれがいるんだろう、できればまだだれもいませんように。ドキドキしながら面談室のとびらを開ける。

「……えっ、ウルスラ君!?」

「ランシャンさん!」

 先にソファにすわっていたのは、中等科のランシャンさんだった。ウルスラと同じくらいドキドキしているみたいだ。ということは、ランシャンさんがしたんじゃないのか?

「ちょ、ちょっと待ってね、こんなに早いと思わなくて」

 ランシャンさんはそう言いながら右耳をさえる仕草しぐさをした。ねん話でだれかに連絡れんらくしているんだろうか。ウルスラはまだねん話をばせない。中等科で習うものだからだ。カレンはおかあさんに習ったのか、入学した当初とうしょからねん話を使えていた。ウルスラがいやな気持ちになるから自分には使わないでとねたおぼえがある。それ以来いらい、まだねん話を習っていない初等しょとう科の生徒せいとに対して使うことはなくなったようだ。

 ウルスラはランシャンさんの向かいの肘掛ひじか椅子いすすわった。

「……ひ、ひさしぶりね、ウルスラ君」

年末ねんまつにお会いしたばかりですよ、精霊せいれい愛好会あいこうかいで」

「ううん、そうじゃなくて、こうやってお話しするのが」

「……そうですね」

 それはウルスラがランシャンさんをけていたからだ。兄役のティグルスさんがきな相手だったランシャンさんは、ティグルスさんよりウルスラのことが気になるようだった。かわいいおねえさんではあるものの横取よこどりをしたいとは思わなかったので、とちゅうからあんまりかかわらないようにしていたのだった。

「……ぼく、手紙をもらってここにたんですけど、こんなに早いと思わなくてってことは、ぼくがここに来ることじたいは知ってたんですね」

「うん……」

「手紙を出したのは先輩せんぱいですか?」

「ううん」

 そうだろうな。精霊せいれい愛好会あいこうかいの集会で手紙を取り出した時には、ランシャンさんも心当こころあたりがあるようすではなかった。

「じゃあ、だれが……」

 ウルスラが質問しつもんつづけようとした時、背後はいごとびらが開いた。

「ウルスラ君!」

「ユスティーン先生!?」

 ランシャンさんにつづき、意外すぎる。ウルスラが思わず立ち上がると、ユスティーン先生はいそいそと部屋へやに入ってきてウルスラの手を取った。

「に、げようウルスラ君。ここにいちゃだめだ。あいつは……」

「ちょっと先生、待ってくださいよ! わたしたちのおねがいを聞いてくれたんじゃなかったんですか!」

 反対がわの手をランシャンさんにつかまれ、ウルスラはわけが分からなくなった。人のうでを引っぱりあいっこしないでほしい。ユスティーン先生は歌の先生とは思えないくらい小柄こがらで細いから、力がそんなに強くないだけマシだけれど。

「あの! やめてください! はなして!」

 ばたばたと身をよじって二人ふたりを引きはがす。それから、ちょっとだけランシャンさんがわにげてユスティーン先生のほうを向いた。

「先生! 落ち着いてください、ぼくなんにも説明せつめいされてないままなんです。ちゃんと教えてくれるまではどこにも行きません」

「ウルスラ君、きみはだまされてるんだ!」

「だから、だれに……」

 言いかけて、ウルスラは目をみはった。また面談室に入ってきた人がいる。その人はうしかぎ魔法まほうをかけた。

こまりますね、ユスティーン先生」

 おとうさんにたがっしりした体格たいかくと、人を安心させるようなやさしい笑顔えがお。ブロンドブラウンのウェーブがかった短髪たんぱつ

 それはヒルタンをねらっていたはずの一年生の担任たんにん、ペラルゴ先生だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る