第24話 お昼休みとクリームパン

 カレンは見張みはりを始めて間もなく、授業じゅぎょう中はペラルゴ先生も一年生に授業じゅぎょうをしているから見張みは必要ひつようがないということに気づいたらしい。

授業じゅぎょう中は耳だけ聞いとけばいいかな!」

器用きようだね……」

 ウルスラはカレンに全部まかせてしまっているのをこころぐるしく感じていた。放課ほうか無事ぶじにヒルタンをむかえに行けたらその日の見張みはりはおしまいということでいいかな。

「それよりお昼休みだし、ランチ行こ!」

「いいわね、行きましょ!」

「アテッタ!?」

「なによカレンってば、おばけでも見たような声出して」

「い、いや……」

 たまたまアテッタが手をげたけれど、カレンの大声ならだれ反応はんのうしてもおかしくはないのだ。このままアテッタをむかれるとミーシリーも入ってきたりなんかして、ペラルゴ先生の話はできなくなってしまうだろう。カレンがどうしよう、という目でウルスラを見てくる。ウルスラは意を決して息を大きくんだ。

「……アテッタ、ごめんなさい。ぼく今日きょうはカレンと二人ふたりで食べたい気分なんです」

「あらあら、にゃあ~」

 アテッタがにまぁと深くわらう。目がねこのようにキラリと光った気がした。

「ウルにゃん、ついに、ついになのね……! やっぱり冬休み中にカレンとなにかあったのね!」

「何もないですよ!?」

 ああほら、ミーシリーもうらやましそうに、というかうらめしそうにこっちをにらんでる! ウルスラはあわてて教室を退散たいさんすることにした。

食堂しょくどう? それともベーカリーでパン買ってくる? ぼくはどっちでもいいよ」

「パンのほうが人のいない場所で食べられていいかもね! ……あー、ウルスラ、待ってー!」

「どうしたの? 早く行かないとパンはすぐ売り切れるよ?」

「意外と階段かいだんこわいの! 歩きづらいや」

「あ、そっか今片方かたほうの目しか見えてないんだっけ、ごめん。ここで待っててくれたらカレンのぶんも買ってくるけど……」

「やだ、二食べたいから行くよ!」

「じゃあぼくうでにつかまって」

 ベーカリーのパンは一人ひとりまでしか買えない。カレンはよせばいいのに走ろうとするので、ウルスラはカレンの見えない目のほうに立って、すぐつんのめりそうになる体をささえながら走った。

「ありがとー、おかげでコーンパン買えたよー!」

「カレンのきなドーナツが売り切れてたのは残念ざんねんだったね」

「ううん、いいんだ! コーンパンがあったし、クリームパンもきだから!」

ぼく、ベーカリーのパンならソーセージパンが一番きなんだけど……復活ふっかつしないかな……」

「ブタが少なくなっちゃったもんねー。そういえば、ソーセージをお魚のお肉で作ろうって話もあるみたいだよ!」

「えー、ちゃんとおいしいのかなぁ?」

 二人ふたりでラウンジ上階の日の当たる階段かいだんすわってパンのつつみを開けた。以前いぜん、この階段かいだんまどから大樹たいじゅのふもとに広がるイグラスの街並まちなみが見渡みわたせる人気スポットだった。今は海しか見えないので、人はほとんど来なくなっている。ないしょ話にはうってつけだ。

「……ペラルゴ先生の見張みはりはどんな調子?」

「あのね、さっき聖歌せいかたいの先生とお話ししてたよ!」

「って、ユスティーン先生? なんでだろ。どんな話?」

「えっとね……今日きょうこそは放課ほうかってもらいますよ、って言ってたよ。ユスティーン先生、ちょっといやそうな顔してた。授業じゅぎょうの打ち合わせでもあるのかな?」

今日きょう聖歌せいかたいの練習がいから、ユスティーン先生は時間あるだろうし……次の発表会の話でもするのかな……。いやそうな顔することはないと思うけど……」

「うーん、とりあえず今日きょうはヒルタンもだいじょうぶそうかなー?」

「そうだね、ペラルゴ先生に放課ほうか後の予定があるなら、さっさとむかえに行っちゃうよ。そしたらカレンの見張みはりもおしまいにできるしね」

「おっけー!」

 カレンはそう返事しながらクリームパンを食べきった。先にあまいものになってでも好物こうぶつを後に食べるんだな……。ウルスラはとなりの不思議ふしぎな生きものを観察かんさつしながら自分のクリームパンに手をばした。

「……ウルスラ、もう手紙の差出人さしだしにんのことさがすのはやめたの?」

「……ん、えっ?」

 クリームのあまみを堪能たんのうしていて反応はんのうおくれた。差出人さしだしにんが本当に神様かもしれないと思っている、なんて言ったらカレンにもわらわれるだろうか。

わたしねー、たしかにペラルゴ先生もあやしいけど、手紙もかなりあやしいと思うんだよ」

「……うん」

「その手紙がどうやってとどいてるかは調べた?」

「ん? ほれは……それはさ、ヨロイさんがりょうあてのをまとめて受け取って、それぞれポストに入れてくれてるんじゃないの?」

普通ふつうはね! ウルスラのがそうなってるかは分からないよ、だってその日に出してその日のうちにとどくとはかぎらないでしょ。なのにヒルタンがめられてるって……それを見てから書いたとしたら早すぎるよ!」

未来みらいが分かる人……とか?」

「それはリンしかいないし、リンはこんな手紙なんて回りくどいことする意味いからちがうと思う」

「カレンとリンはそう思ってるけどさ、実はほかにもいるかもしれないじゃん、未来みらい予知のできる人が」

「……いたら、こんな未来みらいになってないんじゃないかな……。それこそ、もっと前から手紙で危機ききを知らせたりとかさ……」

「だってリンも大災害さいがいを止められてないじゃないか!」

「……そう、だね」

 つい強い口調でカレンに反論はんろんしてしまって、カレンがだまってしまった。リンのことはしんじていないけれど、カレンのことをきずつけるつもりはなかったのに。ウルスラはどうしたものかと言葉をさがす。クリームパンの味はしなくなった。

「……」

「……」

「……ごめん、カレン、精霊せいれいたちのことをめるつもりとかはなくて……」

「ううん、いいんだよ。しかたないもの」

「……ごちそうさま、お待たせ……それじゃ、教室にもどろうか。またかたすよ……ごめんだけど、まだ見張みはりはつづけててほしいから」

「うん、分かってる。だいじょうぶだよ」

 カレンのうでをとりながら階段かいだんりていると、どんどん自己嫌悪じこけんおおそってきた。カレンにたよらなきゃ見張みはりもできないくせに、自分の推測すいそくだけでえらそうにしゃべって、言いかしてしまった。カレンの言うことも間違まちがってないのに。

 結局けっきょく、ヒルタンを無事ぶじむかえしてりょうの入り口でわかれるまで、カレンはずっとしずかだった。

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