第二十二話
「あぁぁっ……や……やめて……」
「ははは、さぁ、もう一度、もっと上の方でもやってみせろ。あははは」
ワイズマンの言葉通り、血塗れのナイフの切先を胸元に突きつける聖教騎士。感情は全く読み取れない。視線は合っているはずなのに感情が読み取れない。
「や……やめて、やめてよ! やめて! おい、お前ら、聞こえてるのか? 既に死んでいるのか、お前ら! やめろーー! おい、やめさせろ、この
その瞬間、ニヤケ面が苦虫を噛み潰したような顔に変わった。
「また侮辱……まぁ良い。小娘、胸の次は目が良いか? それとも歯が良いか? 後でお前に選ばせてやろう」
もう一人が瞳から数センチにナイフを
「あぁぁ……やめて……やめて……」
「さぁさぁ、もう一度――」
その時、扉の外から大声が聞こえてきた。
「――何をしている! 尋問官の居ない場での尋問行為は私刑扱いだぞ」
「ベルナール! た、助けて……助けてーー!」
「ちっ……勘の良いヤツだ……仕方ない。四肢を使えなくしろ」
「ベルナーール! えっ? いま何と――」
「――やれ」
私の声は当然の如く無視された。ワイズマンの合図と共に両肘と両膝に深い切り込みを入れられた。
「きゃーー! やめてーー!」
しかし、すぐに回復術を掛け始めたのか苦痛が引いていく。その瞬間、両手に力を込めたつもりだったが、あたかも両手を斬り落とされたように感覚がない。
「えっ? あれ?」
「小娘、貴様の両手足、二度と動かん。教会の回復術でも、もはや治らぬ。絶望したら自ら死を選ぶが良い」
「な……なんだと……?」
冷静に手足へ動けと指示してみるが、指を曲げることすら出来なかった。動く感触はおろか存在を感じることができない。逆に今まで感じたことのない手足の重さだけを感じた。
その時、ドアノブを壊してベルナールが入ってきてくれた。
「局長、貴方達は何をしているのですか?」
憤怒の形相でワイズマンの前に歩くが聖教騎士が立ちはだかった。それを押し除けようとするが、逆に聖教騎士に抑えられてしまった。
「ベルナール。今回の尋問について査問していたのだよ。すると暴れ始めたので仕方なく拘束したのだ」
「な、何だと?」
「ベルナール、嘘よ! そんなの嘘よ。暴力を――」
「――証拠は無い。身体は全て正常だ。聖教騎士の回復術で、暴れた弾みで折れた手足すら治したのだからな」
騎士達から解放されたベルナールは慌てて私の身体を確認し始めた。拘束ベルトを外しながら両手足を確認しているらしいが、こちらにはベルナールの手の感触を感じることはできない。
「本当だ……骨折が完全に治っている」
「でも……手足が全く動かないの……」
「えっ?」
自分の状況を冷静に喋ると涙が出てくる。それを呆然と眺めるベルナール。そんな中、態とらしい涙声で呟き始めたワイズマン。
「あぁ、どうやら暴れ方が悪かったらしい。回復術を掛ける時、稀に運の悪い患者の手足の動きが悪くなることもある」
「そういうことも有るとは聞いたことがあるが……サーガ、どの程度動く?」
優しく声を掛けてくれる。今更先程の暴力を説明しても無駄だろう。騒いだところで両手足が動かないことには変わりはない。
「肩……は動く、が自分の腕が持ち上がらない。足も同じようなものだ……」
「なんと……」
言葉を失ってしまった。沈黙が部屋の中を支配する中、ワイズマンは部屋から出ていく。
「おい、降ろしてやれ」
直後に聖教騎士の一人が私をベッドから乱暴に押し出した。
「おい、サーガに何を――」
「ち、ちょっと! やめ――」
叫ぶ間もなく床に転がり落とされた。胸と額を強く打ち付ける。文句を言う為に立ちあがろうと何とか膝立ちにはなったがバランスが取れない。
「痛た……この野郎、いい加減に……あっ、ダメ!」
少しの間フラフラしただけで、またもや顔から床にぶつかっていく羽目になった。
「ふぎっ! いたたっ……あぁっ、立ち上がれ……ない」
ドアノブの無くなった扉を押し開けて出ていくワイズマン。
「ははは、私を
下衆な捨て台詞を吐いて出ていってしまった。それを確認した聖教騎士三人も金魚のフンのように後をついていく。こちらは捨て台詞一つない。
「聖教騎士……本当に生きてるのかしら……」
「おい、大丈夫か? よし、待ってろ」
ベルナールが抱えてベッドに上げてくれた。
「ふんぬっと……おっとと、よ、よし!」
「落とさないでね」
(あら、私の軽い身体を持ち上げるのにも大変そう。荒事には全く向いてないのね……)
落ちる事なくベッドに辿り着いたのでホッと一息吐いた。痛みは無くなったので割と冷静に物事を考えることができる。
「ハァハァ……だ、大丈夫か? 痛いところはあるか?」
「痛みはないわ。でも、これからずっと両手両足が動かないのはキツイわね。これは七項の違反条項に該当するんじゃない?」
呆然としたままのベルナール。
「ねぇ、違反条項!」
「あ、あぁ。そうだな……修道士を連れてこよう!」
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