第四章 同世代の友達は大事ね

第二十三話

◇◇◇



「教会の奇跡は斬り落とされた指すら生やす事ができます。しかし指を六本生やすことはできません」


 二日目に回復術を掛けてくれた修道士が来てくれた。部屋に入るなり手足に回復術を掛けてくれた。しかし、早々に首を横に振っていた。


「治療が完全に終わっています。貴女の手足が普通に動いていたことは勿論覚えています。でも……この状態ではどうすることもできないでしょう」

「バカな……」


 私より驚いているベルナール。


「こんなこと……あってはならんのだ……法を冒涜している……こんな――」

「――でも事実、私の手足は動かない」

「サーガ……」


 こちらは既にショックから回復しつつある。手足の動きをを冷静に確認する。


「やはり肘から下と膝から下が全く動かない。どういうことだ? 教会の回復術が効かないなんて……」

「そうですね……初めて見ました……しかし……ただの噂だと思ったいた」

「何がですか?」

「あっ……いえ……」


 修道士は何かを知っているらしいが、率先して喋りたくなる話題ではないらしい。横を向いてしまった。


「ベルナール。この状況は……って」


 メソメソ泣きながら天井を向いて祈りのポーズをしている。


「おぉ、サーガ……折角尋問の苦行に耐え切ったのに……これは不憫としか言いようが――」

「――うるさい! ベルナール、尋問官として公正な対応を求める」

「えっ?」


 悲劇のヒロインじみた俳優など要らない。必要なのはトラブル後始末要員だ。


「必要のない尋問で不慮の事故があったのなら、お前はどう始末してくれる?」

「えっ? えっと……俺?」


 こちらを向いて惚けている男を見ながら特大溜息。


「法は公正なのだろ? ならば何で埋め合わせする?」

「えっと……」

「第八章の四項!」

「あぁ! 減刑を認める」

「どれだけ?」

「あっ……こ……九日間の――」

「――たったそれだけ! 第一次尋問の間の不祥事は次節の幽閉には関係ないと言うの?」

「そ、そうだ。二年前の事例だが、同様の判決が出ている。馬車で事故を起こした容疑者が移送中に事故が起きた。かなり酷い事故だったらしいが、与えられた刑罰に変更は無かった」


 過去事例を出されると議論で勝てる気がしない。


「では第六項。処遇の変更を求める」

「そ、そうだな。よく勉強している……」

「褒めるな!」


 咳払いしてから語り始めるベルナール。


「幽閉場所を法務局の拘置所では無く、貴族向けの施設にする」

「えっ? 貴族向けって……王宮地下? 思いっきり待遇改悪じゃない!」


 想像したのは王宮地下の水路にある牢獄だ。政変が起きる度に地下牢へ王族の血縁者が入れられる。


(そして出てくることは決して無い……そんな場所!)


「ま、待て! 違うぞ。王宮尖塔の貴族向け牢だ」


 王宮の尖塔は勿論見たことはある。しかし、そこが何なのか考えたこともなかった。


「……どんな場所よ?」

「王宮の関係者でも限られた者しか知らない。現公王の腹違いの弟であるモートン卿は知っているか?」

「それって……モートンよね?」


 既に亡くなった叔父とだけ聞いたことがある。あまり良い話は聞かない類の人だ。


「そうだ。モートンとも言われているがな。それに腐っても貴族だ家具や調度品は此処とは比べ物にならないぞ」


(部屋は良さそうね……後は)


「私、自力で動けないけど、どうするの?」

「それは安心だ。あそこには貴族向けの侍従が……あっ……んー、大丈夫……かな。喜べ、同年代の少女がいるらしいぞ」

「……何よ、その不信感たっぷりの間は?」


 とはいえこの部屋に居るのは避けたい。あの拷問はもう耐えられそうにない。ほんの少し思い出しただけで身体が震えてくる。

 涙を我慢していると、ベルナールが扉に向かって走り出した。


「ベ、ベルナール! 一人にしない――」

「――今から移動する。少し待て!」


 こちらの声に気付いてくれたのか扉から顔だけ出して叫んでくれた。その後はバタバタと足音だけが響いていた。

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