第14話 関西のアトレティコマドリード

プリンスリーグ関西2部 

第3節 藤井寺商業高校vs城壁高校


キックオフ

城壁高校の③センターバックにパスを渡す。


「あの30番、名前は?」

幕井が加藤に質問する。

「岩井和也。

去年はu-15日本代表にも選出されてる。

後、顔もイケメン」

「はあー。 エグすぎんだろ。

てか、聞いてなかったけど、おまえのお兄ちゃんの名前は?」

千葉が加藤に質問する。

「名前は翔。

加藤翔だよ。」


15分経過。

「ずっと思ってたけど

パスのスピード、球際の強さ、判断スピード、プレッシャーの速度。

どれをとってもレベルが高い。」

幕井はプリンスリーグのレベルの高さに脱帽する。


「これでまだ2部。

しかも、プリンスリーグ1部の上には、まだ、プレミアリーグがある。」

「実質3部。

このレベルでも、日本で見れば3部なのか。」

千葉は衝撃を受ける。


「だから言ったでしょ。

プリンスリーグもレベルが高いって。」

加藤が自慢げに言う。


18分経過。

試合が動く。

藤井寺商業高校ボール。

相手陣内でボールを持っている。

⑯左センターバックがボールを持っている。

「クソ、出しどころがねえ。」

⑪左サイドハーフが足元でボールをもらいに中に入る。

「そこか。」

そこに⑯の選手が出すが、

 パチッ

城壁高校の㉒右サイドバックがパスカット。

すぐにフォワードに縦パスを出す。

パスの受け手は岩井。

左足でトラップし、前を向く。


「おー、 岩井ってやつがボール持ったぞ。

レフティーで、前線の選手か。」

千葉が岩井について言う。


城壁高校の岩井が右サイドでボールを運ぶ。

ゴールまで40mはある。

すると、

「ここでしょ。」

 バン

岩井が相手の裏に左足でボールを蹴る。


そこに城壁高校の⑨フォワードの3年生、大谷潤が藤井寺商業高校の③センターバックの背中から走っていた。


「きたー。」

幕井達が席から立つ。


「完璧ー。」

大谷のランニングに合わせる、絶妙なパス。

大谷のスピードを落とさずにピンポイントでパスを出し、そのボールを大谷はアウトサイドでトラップし、ボールを前に運ぶ。

大谷が裏に抜け出す。 

キーパーと1対1

ゴールまで15m

藤井寺商業高校のキーパーが少し前に出る。

 ドーン


 ゴール


大谷が右足を豪快に振り抜き、ネットにボールを沈めた。


「すげぇー。」

千葉は、圧倒的な大谷と岩井の技術に驚くことしかできなかった。


「岩井は、華麗なプレーとその顔立ちから、俺たちの大阪の学年では、〈サッカーの貴公子〉って呼ばれてた。」

加藤が岩井について解説する。


「凄いのは、岩井もだけど、あの9番のフォワードもだよ。

あの人、センターバックの背中。つまり、相手の死角から裏抜けしてた。

完璧なオフ・ザ・ボールの動きだよ。」

(オフ・ザ・ボール・・・ボールを持っていない     ときの動き。)

幕井はまたも、脱帽する。


「流石、去年選手権ベスト4なだけあるぜ。」 

千葉は感心していた。


その後も試合は続き、前半が終了した。

ハーフタイムに入った。

0-1で城壁高校がリードしてる。


「何が異常かって守備だよ。

城壁高校、まだ1回も相手にシュート打たせてない。

守備が固すぎる。」

加藤は恐怖すら覚えた。


「加藤。 

さっき、BIG8って言ってたけど、他は、どこの高校なの?」

幕井が加藤に説明を求む。


「あーそういえば説明してなかったね。

じゃあ説明するね。

梅田産業高校

サイド攻撃が武器のチームで、『鋼の両翼』って呼ばれてる。


東大阪工業高校

とにかく、ハイプレスをしてくるチームで、ショートカウンターを狙ってくるチーム。


池田工科高校

選手権も1回優勝してる。大阪の古豪。


蒼天男子高校

名前のとおり男子校で、とにかくフィジカルが売りのチーム。


銀星高校

10年前まで女子校だったけど、共学になった。最近強くなった高校。


聖心高校

5バックで固めて、ロングカウンターを狙うカウンター型のチーム。

後の2つの高校は藤井寺商業高校と城壁高校。」


「なんでBIG8って呼ばれてるんだ?」

千葉が加藤に質問。

「まぁ、理由は色々あるけど、

この8チームだけがプリンスリーグに所属しているからかな。

1部には3チームで、2部には5チーム所属してるよ。」

「へぇ~。」

千葉は大阪の高校サッカーをどんどん理解するようになった。


 ピー

ハーフタイムが終わり、続々と選手がピッチに戻ると、審判が交代ボードを持っている。

城壁高校が交代するようだ。

〈7番out 24番in〉

24番の選手がピッチに入る。


「あっ、お兄ちゃんだ。」

「えっ お兄ちゃん?」

なんと交代した選手は加藤の双子の兄、加藤翔だった。

「確かに、顔は所々似てるな。」

千葉は加藤家の双子の顔を見比べる。

「お兄ちゃんのポジションは?」

「おまえと同じポジションだよ。」

「ってことはボランチ?」

「あぁー。」


ピー

後半がスタート。

藤井寺商業高校ボールでキックオフ。


後半になっても、藤井寺商業高校のシュートは0本。

しかし、チャンスが訪れる。


城壁高校ボール。

相手陣地で⑧ボランチがボールを持っていると、

「おらー。」

藤井寺商業高校の⑥ボランチがスライディングでボールを奪う。

  

カウンターのチャンス

城壁高校の守備は、センターバック2枚と右サイドバック1枚が余っている。合計3名

藤井寺商業高校はフォワード2名とボールを奪って運んでいる⑥のボランチ1人で、合計3名。

数的同数。


⑥のボランチがボールを運ぶ。

しかし、

「速い。」

幕井が、無意識で口から言葉を出す。


「うらー。」

奪われた城壁高校の⑧ボランチが後ろから追っかけていた、それだけじゃない。

相方のボランチの㉔加藤の兄、加藤翔や左サイドバック、そして、両サイドハーフまで、すでに帰陣していた。


先程まで、3対3の数的同数だが、今は攻撃が3人、守備が8人になっている。


「攻撃から守備までの切り替えが早すぎる。」

千葉も脱帽する。


「さっきの得点シーンだって、ボール奪取からの一瞬のカウンターだった。」

幕井は得点シーンを振り返る。


「そう。

城壁高校の最大の特徴は守備。

攻守の切り替えの早さが、相手のカウンターを封じる。

さらに、自分たちのカウンターでも最高の攻撃を発揮させる。

守備ブロックは横20m 縦29mの徹底されたコンパクトな守備ブロック。

このことから城壁高校は、〈関西のアトレティコマドリード〉って呼ばれてるんだ。」

加藤が説明した。




































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