第4話 姫騎士の裸
湯に濡れ、いつも以上に輝く黄金色の髪。泉のように蒼く、それでいて底知れぬ意思の強さを秘めた瞳。すらりと長い脚、括れた腹部。そして、豊かな胸――その全てが俺の前にあった。
「なっ……おまっ……!」
俺は慌てて目を逸らす。
「お前!なんで裸なんだよ!」
「ファルツバルト王族は入浴の後はしばらく裸で過ごすと決まっているのでな」
俺の視界の端でゆさっ……ゆさっ……と豊かな胸を揺らしながらリーゼロッテはこちらに近付いて来る。目を逸らしていても分かるなんという存在感……!
「嘘つけよ!魔王討伐の旅では風呂の後も裸で過ごしたりしてなかっただろ!」
「あの旅ではそのような悠長な事をする余裕がなかったのでな。しかし、今ならば構わないだろう。それよりも……」
リーゼロッテが俺の視界の先に移動する。俺は、また慌てて視線を逸らした。
「何故視線を逸らす?ひょっとして……え、エッチな気分になっているのか?」
「は、はぁ!?」
「私のこの、おっきな……お、おっぱいを見て、その……え、エッチな気分になっているのではないかと言っている……っ」
「いや、なってねーけど……!」
「それなら何故目を逸らしている。エッチな気分になっているから逸らしているのではないのか?」
「ぐっ……!」
魔王討伐の旅では、リーゼロッテの裸を目にするなんて機会はなかった。何しろこいつはいつも鎧を身に纏っていたし、入浴せずとも体の汚れを浄化する魔術があの世界には存在した。だから、俺の前のリーゼロッテは基本的に鎧姿かマントを羽織った騎士服だった。しかし、いざ脱げば――その肉体は凄まじい。そう、凄まじいとしか言いようがない。何が、とは言わないが……デカい。
「ほらほらどうした?私でエッチな気分になっているのではないか?ふふ、私の事など結婚の対象として見れないなどと言っていたが……本当は、このおっぱいを好き勝手したいのではないか?」
俺の前で、豊かな双丘をゆっさゆっさと揺らすリーゼロッテ。くそ……調子に乗りやがって……!
「おっぱいおっぱいうるせえ!それでも王族かよ!そんなに見て欲しいなら見てやるよ!」
俺はリーゼロッテの方へ視線を向けた。その瞬間、飛び込んで来る豊かな胸。濡れた髪がちょうど胸にかかっているために、胸の中央部分は見えない。それと、ちゃんとパンツは履いていた。しかし、それ以外は全て見える。リーゼロッテの全てが。
「……」
「……」
俺もリーゼロッテも、しばし間の無言だった。しかし徐々に、リーゼロッテがプルプルと震え出す。そして、もう限界とばかりに自身の胸を両腕で隠した。
「き……貴様!ジロジロ見るな!スケベ!」
「お前が見ろって言ったんだろ!」
「くっ……こんな姿、父上にも見せた事がないのに……。初めて男に裸を見られてしまった……っ」
赤面し目に涙を浮かべるリーゼロッテ。
「おい、私は被害者です、みたいな口ぶりで言うなよ!見せたのはお前の方だからな!」
「しかし、王族たる私の裸を見た以上は責任を取ってもらうぞ……」
「どう責任取れって言うんだよ」
「わ、私と結婚しろ……っ!」
「だから嫌だって!それよりさっさと服着ろ、服!」
俺はリーゼロッテを脱衣場に追いやった。しぶしぶ戻るリーゼロッテ。しかし、途中でリーゼロッテが振り返る。
「アキト」
「な、なんだよ」
と、慌てて視線を逸らしながら答える俺。
「よくよく考えれば私の持って来た服はこの世界に馴染まないものばかりでな。貴様の服を貸して貰えないか?」
「あー……それもそうか」
リーゼロッテが持っている服と言えば、騎士服か……さもなければ王族が着る豪華絢爛な衣装だろう。そんなもの、たしかに現代日本には相応しくない。
「それじゃあ、洗面所の横の棚に俺のTシャツが入ってるから好きに着ろよ」
「承知した」
「はぁ……」
俺が頭を抱えながらため息をつく。これからしばらくの間、こんなハチャメチャな奴と一緒に暮らす事になるのか……。
そんな俺の悩みなんて知らないとばかりに、しばらくして再びリーゼロッテがリビングに戻ってきた。今度はちゃんと服を着ていたが……しかし。
「うっ……」
リビングに戻って来たリーゼロッテを見て、俺は思わず呻く。リーゼロッテの着ているシャツの中央部分が、その胸に押し上げられて伸びきってしまっていたからだ。
「な、なんだ?また私のおっぱいをジロジロ見て……」
「いや、別に見てないし。ただ、俺のシャツが伸びて嫌だなと思っただけで……」
「一度生のおっぱいを見たから、もっと見せ貰えるとでも思っているのか?」
「そんな事思ってないし」
「私と結婚すればこのおっぱいを好き勝手出来るな、それなら結婚してもいいかもしれない……などと妄想しているのだな?」
「だから!んな事思って思ってないから!」
「そうか……思ってないのか」
リーゼロッテは、がっくりと頭を垂れてうなだれた。
「せっかく恥を忍んで裸まで見せたというのに……私の体は……魅力がなかったのか……」
意気消沈するリーゼロッテ。テンションの振れ幅が大きいな、こいつ……。魔王討伐の旅ではそんな事なかったはずだが。いや……でも考えてみれば、これが素のリーゼロッテなのか?あの旅では常に気を張っていたからな……。くそ、仕方がない励ましてやるとするか。
「あー……まあ、そんなに落ち込むなよ。別に、その……お前の体に魅力がなかったとかそういう訳じゃないから」
「なにっ!」
リーゼロッテの瞳がきらりと輝く。
「本当か!?」
と、リーゼロッテはキラキラと目を輝かせながら俺の顔を覗き込む。
「その……まあ、魅力的だとは思ったよ」
「そうか……いやらしい気持ちになって、私の体中を舐め回したいと思ったのだな……!」
「だから!そこまでは言ってないだろ!調子に乗るなよ!」
「ち、ちなみに……どこが魅力的だと思った?」
「え?そりゃあ……って、言うかよ!」
「恥ずかしがらず言ってはどうだ!?や、やはり……おっぱいか?おっぱいだろう?」
「あー!もうおっぱいおっぱいうるせえ!」
そんなひたすらに不毛な言い合いを続ける内に、夜は更けていくのだった。
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