第8話 それぞれのスタート

 佐々木家の朝食は、それぞれが食べたいものを勝手に用意して食べる。


 皆、面倒なので食パンが多い。

 パンと珈琲だけで、ササッと出て行く。

 いつも元気な佳浩が静かなな為、佐々木家の朝は、最近どんよりとしている。


「なぁ、佳浩、俺が送ってやろうか?」

 明浩の提案に、佳浩は首を振る。


「明兄、仕事遅刻しちゃうじゃん。それに、家族の送り迎えなんて恥ずかしいよ。」

 話すのもかったるそうに、佳浩が呟く。


 明浩は、貴浩を見るがそれ以上は止めとけとばかりに首を振る。




 京崎家は、家の事はお手伝いさんがやってくれる。

 朝は、ご飯と味噌汁と決まっている。

 小皿が色鮮やかに並べられていて、食の細い京崎も食べやすい。


まもる?」

 母親の呼ぶ声に、京崎はびっくりする。


「護、上の空で食事をしないでちょうだい。作ってくれた人に失礼よ。」


「すみません。お母さん。」


「悩んでいるようですが、お友達の事ですか?」

 母親は、ナプキンで口を拭き、皿を片付けるよう伝える。

 皿が片付けられると、温かいお茶が新たに置かれた。


「あなたが悩んでいる事は、本当にお友達の為になっているのかしら。」

 母親の言葉で、京崎は俯いていた顔をあげた。


「あなたは、この家の稼業について思い悩んでいるのでしょう。わたくしは、ビジネス面も考えなければなりませんが、あなたはまだ自由に出来るでしょう?見習い中なのだから。わたくしだって、別に人助けを悪くは言いませんよ。」

 母親が、お茶をゆっくり飲む。


「友達を巻き込みたくない。」

 京崎が、また俯く。


「知られたくないの間違いでは?……怪しい稼業と嫌がる人もいるでしょう。でも、お友達は今危険ではなくて。」

 母親のまっすぐな視線に目を見張る。


「護、人はね、苦しい時や辛い時は、注意が散漫になるの。世間では、霊が呪い殺すとか言われるけど、霊が直接殺す訳では無いわ。人の弱くなった心を押すの。お友達は今、そんな状態ではなくて?何を怖がる事があるんですか。親の稼業ぐらいで嫌うような子があなたのお友達なんですか?」


「……行ってきます。」

 京崎は、立ち上がり、急いで学校に向かおうとした。


「護、これを持って行きなさい。」




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