第4話

 朝、目が覚めると、修治はもう大学に行っていた。私は眠い目を擦り階段を降りた。

 母が朝食を準備してくれていた。ご飯に味噌汁に目玉焼き。もうこの先食べることのない、母の味。温かい味噌汁が体に沁みた。父は、もう食べ終わっていた。

 私が食べ終わる頃には、父は仕事の支度を済ませて出るところだった。父を見送るためについていくと、父は私に言った。


「もっと帰ってきてもいいんだぞ。ここはお前の家なんだし。じゃあ、行ってきます」


「いってらっしゃい」


 父は少し寂しそうな顔をしていた。


 さて、そろそろ私も出よう。身支度を整え、玄関に向かう。


「お父さんも言ってたけど、もっと帰ってきていいんだよ。辛いことがあった時、嬉しいことがあった時、別に何もない時でも」


 母にそう言われた時、心の奥から熱いものが込み上げてきた。堪えきれず、涙がこぼれたが、母は何も言わず、優しく抱き寄せてくれた。


 自分の家に帰ると、テーブルには縄が置かれていた。今日、私は首を括って死ぬ。

 天井から縄を吊るし、輪っかを作る。あとはここに頭を入れるだけだ。急に、私はこの数日間のことを思い出した。もう走馬灯を見ているのだろうか。辻島のこと、中原のこと、家族のこと——。

 怖くなった。死ぬことが怖くなった。皆んな優しかった。そんな人たちと会えなくなる。それが堪らなく怖くなった。結局、私の決心なんてものはこうも簡単に揺らいでしまうらしい。けれども、それで良かった。ほっとした。また、ここから、もう少しだけ生きてみようか。

 私は天井に吊るした縄を下ろし、ゴミ袋に入れた。


 さようなら。死にたい私。

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さらば 悠犬 @Mahmud

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