オーパーツにはロマンが宿る

黒糖ラスク

プロローグ

オーバーテクノロジー。

その時代では実現不可能とされる技術や産物の総称であり、浪漫の塊でもある。

私の持論だと、世界に存在する未知なんて限られているんだから興奮できるときにしておかないと損だろう?

冷静沈着に謎に挑む姿もクールで悪くないが、自分を抑えてまでやりたいかは微妙なところ。


ただ、ちょっと先進技術持ち宇宙人と交信に成功したんじゃないか疑いたくなる代物を唐突にポンッとお出しされた場合。

興奮や驚愕、また困惑を通り越して何も感じないらしい。明らかに感覚が麻痺してる。


「ほ〜ん。………ほ〜ん」


まず私の語彙が死んだ。

これでも、そこそこおしゃべりな性格を自負してる私の語彙が死んだのだ。大惨事である。

アイデンティティの崩壊は大体自我の崩壊と同義。いや、流石に過言か。


「なんなんだろうな、これ」


少し湿気たクッキーを頬張りながらだと、それはクッキーだという幻聴が聞こえてくるが、本題はそこじゃない。

まあ、そこも本題ではあるが。……正直ややこしいな。


重要なのは、この場所。

現在■■■■年■■月■日、存在しない土地。というより、ゲームの中。

以前から空想上の物事として親しまれ、熱望されていたフルダイブVR技術の完成は、あまりにも過程を無視していた。


もちろん理屈では分かる。

脳波に干渉してアレコレ。感覚を誤魔化してナニソレ。

だが、そんな高度に脳を弄り倒す方法が研究されていたら知らないはずがない。

つまり0がいきなり1になった。創造神かな?光あれ。


「クッキーウマウマ」


焼き立てカリカリなクッキーも好きだが、なんなら数秒水に浸して意図的に形を崩したクッキーも好き。

なので湿気ていることはマイナス評価にならない。普通に美味しい。

でも知らない味だ。

露悪的に解釈すれば記憶にないデータを無理矢理ぶち込まれてるんだよね、これ。

大丈夫?危なくない?


まあ、ワンチャン危ないから私にテストが回ってきたと考えるなら辻褄は合うのか。

一応は名誉教授ですし、おすし。

未知の探求や研究の犠牲者にはピッタリだね。自分で言って悲しいけど。


「というか、ゲームとしては不親切極まりないな」


チュートリアルどこ?ここ?違います。

プレイヤーキャラクターの容姿と名前だけ決めてさっさと現地に放り出される仕様はクレーマーの餌食では?


いや、現状にクレームつける馬鹿は流石にいないか。

参加者全員テスターなわけで、身分も所属もしっかり運営側に把握されてる中だよ。

VR技術そのものが夢か幻かって話なのにゲームシステムにも文句つけたら一生終わらないデスマーチの始まり。エンジニア殺す気ですかってこと。


「このクッキーも回復アイテムだったりするのかね」


直感的な操作でストレージなる機能は開けたけど、中身の説明は当然なし。

だからクッキーが入ってたことは分かるが、何故入ってたかは不明。

とりあえず初期位置から15歩くらいで辿り着いた噴水前のベンチに腰掛けて完食である。


ほんとに回復アイテムだったら凄い非効率だ。

でもHPの表示もないから、結局変わらない気がする。

死んでから、あっHP減ってたのか!は遅すぎるでしょうよ。


「他のプレイヤーに話を聞きたいな。無理だけど」


だって物理的にいないから。

NPCらしき人々は見える。でもPCらしき人が全然なのは、真昼間からテスターしてる私が悪いんだろうか。


仕事を回してきた人物曰く、特定の選考基準を突破した限られた人材に声をかけたらしい。

つまりPCの絶対数はおそらく少数。しかも私が特別暇なだけで、他の人は研究やら論文やらと大忙しだと予想できる。仕方ない話だ。


専用掲示板?なんだ、私に独り寂しくゲームの感想を書き綴る作業をしろとでも?

まあ吝かではない。ただ、今ではない。


「さて、町の散策でもするか」


ズボンについたであろう砂埃を軽く払いながら立ち上がり、噴水前を後にする。

目指すは……何処だろう。何も分からない。ちょっと手探りすぎるな。

でも、これはこれで楽しい。

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