骨折り損のくたびれもうけ

鹿嶋 雲丹

第1話 とある海底にて

 キャスト紹介

師匠…年くったタコ

一番弟子…クラゲ。真面目

二番弟子…ウニ。ボケ担当


 ここは、深ぁい深ぁい海の底。

 年老いた一匹のたこが、まだ幼さの残る年若い海月くらげ雲丹うにの前で声高に叫びました。


「お前たちは最近たるんどる! 骨のあるやつはおらんのか!」

 ってね。おやおや、暗い赤色をしていた蛸の体が、今はすっかり血の巡りが良くなって鮮やかな赤色をしていますよ。おいしそうですね。


「はい師匠! 師匠も僕たちも、全員骨がありません!」

 一番弟子の海月が、元気よく触手をゆらめかせます。半透明でとても幻想的です。きれいですね。


「えっ! おいら、骨ないの!? 知らなかった……」

 二番弟子の雲丹が、がっかりと黒のトゲトゲをしなびらせます。今なら、さわっても痛くないかもしれませんよ。


「あのな、ワシはそういう話をしとるんじゃない。もうちっと気合いを入れて、修行に励めと言うとるんじゃ!」


「気合い? そんなもの、どこに入れるの? おいらの服、ポケットがついてないんだけど。君のはどうだい、海月君?」

「違うよ雲丹君。気合っていうのは、つまりは気骨のことだよ」

「へぇ! さすが海月君は物知りだ! ということは、えーっと、つまり体に骨を入れるってことなんだね? じゃあ少し中身を捨てないと入らないな……うんとこしょっ」


「ああ、雲丹、よさんか! もう、お前らには何を言っても骨折り損のくたびれもうけじゃ!!」

「大丈夫! 師匠は骨がないから、折れるものがない! 心配いらないよ!」

「雲丹君、まったく君の言う通りだ! 良かったですね、師匠!」


「「あっはっはっは!!」」


「海月、雲丹、笑うな!! くそぅ、わしゃあ心がバキバキじゃわい!」


 今日も鹿嶋海の底は賑やかです。

 良かったら、また遊びに来てくださいね。では、またいつかお会い致しましょう。さようなら。

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