急な報せ

「何だ、敵襲か!?」

 ローランは鋭く、少し焦った声を出した。

「いえ、突如我が軍が所有していない伝書ガラスがやって来まして、この手紙を足に括り付けていました」

 兵士は肩で息をしつつそう話すと、折り畳まれた手紙をローランの元へ持ってきた。ローランはそれを受け取ると、急いで手紙を広げる。

「・・・殿下、これを!」

 ローランは手紙の内容を読んで目を大きく見開くと、すぐにリシャールの元へと駆け寄った。今度はリシャールが手紙を受け取る。手紙を読み進める度に、リシャールの表情は驚きのものへと変わっていった。手紙を読み終えると、リシャールは元の真剣な表情に戻っていた。

「・・・皆、この手紙にはセルジュのいる場所について書かれていた。セルジュは今、先程の報告にもあった通り、王国南東部のカルタとの国境に近い“ピサン村”に潜伏している、と書かれてあった」

 リシャールが手紙の内容を明かした直後、軍議の間は今までで一番ざわめきの声が大きかった。それを遮ったのは、オリヴィエの一言である。

「殿下、この手紙は罠である可能性もあります。情報を持っているという点においても、未だ帝国側が有利です。殿下やベルナデット殿の居場所を知っている上で、あえて誘い出すためにこの手紙を送ったということも考えられるのではないかと」

「確かに、その可能性も考慮すべきだろうな・・・」

 リシャールは目を伏せて、思案しながら呟いた。

「・・・だが、罠だとしても行く他はないのではないか? 罠であれば応戦か回避、手紙に書かれてあることが真実ならば良し。こちらが尻込みをしている余裕はないはずだ」

 強気な意見を出したのはジョセフィーヌであった。傍で聞いていたベルナデットにとっては、オリヴィエとジョセフィーヌ、どちらもあり得ると思えた。あとはリシャールがどう判断するかである。

「ジョセフィーヌの言い分も分かった。・・・オリヴィエの懸念も尤ももっともだが、ここはジョセフィーヌの言う通り、積極的に動いて、手紙の場所へ赴くしかないだろう。ただし、この為に多くの兵士は動かせない。機動力を重視して、少数精鋭でピサン村へ向かおうと思う。異議がある者はいるか?」

 リシャールの問いに対し、オリヴィエも含めて異議を唱えるものはいなかった。

「では、急ではあるがピサン村への人員編成を行うとしよう。・・・その前に、捜索隊に俺も加えて貰えないだろうか?」

「殿下を、ですか?」

 ローランは驚いたように聞き返した。

「ああ。セルジュ本人かどうかを確かめる人間が必要だろう。それに、カルタとの国境近くがどうなっているのかも見ておきたい」

「・・・本当は弟が心配だが、そうとは言えないのが王の辛いところだな」

 ジョセフィーヌは隣にいるベルナデットにしか聞こえない声量で、苦笑しながら呟いた。つられてベルナデットもくすりと笑ってしまう。その間に、ピサン村へ向かう人員が決められていく。リシャールの他にはガストンとローラン、ミゲル、念話の出来るニアも捜索隊に加えられた。その他にも数人の兵士の名前が呼ばれたところで、捜索隊の隊員はそこで決まった。ベルナデットは、その捜索隊に自分が含まれていないことに気が付いた。

「あの、捜索隊に私は加わらなくても良いんですか?」

 ベルナデットは挙手と同時に、リシャールに尋ねた。

「今回は軍として動くわけではないからな。今日のこともあって疲れているだろうし、ベルナデットと聖剣の力に頼りきりというのは、ベルナデット一人に負担を掛け過ぎている。そういう理由で今回は隊には入っていない。明日はゆっくり休んでくれ」

リシャールはそう言うと微笑んでみせた。

「・・・分かりました」

ベルナデットは軽く頷いて答えた。――捜索隊に加わるのかと身構えていたが、そうでないことが分かると少しだけ安堵してしまった。さすがに冥府の門での出来事は、ベルナデット自身が思っていた以上に体力も精神も消耗していたようである。

 その後は砦側には特に異状はなかったことをガストンが報告し、臨時の報告会は終了したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る