帝国四将


『参加するのは出られる者だけで良い』とリシャールが話していた報告会に、ベルナデットは出ることにした。――結局夕飯もあまり食べられず、疲れも取れているわけではないが、聖剣の使い手として情報はなるべく直接耳に入れておくべきだと思ったからである。

 軍議の間にはリシャールが事前に通達していたように報告者以外は自由参加であるため、いつもよりも人は少なかった。

「ベルナデットも来たのか。顔色が良くなさそうだったが、大丈夫なのか?」

 隣の席に座っているジョセフィーヌが心配そうに声を掛けた。ジョセフィーヌとは反対側の席に座るシャルリーヌも、同じく心配そうな表情をしている。

「ええ、大丈夫。少し休めたし、他の部隊の情報も聞いておきたくって」

 ベルナデットはなんとか笑顔で答えた。

「ふむ・・・大丈夫なら良いが、あまり無理はするなよ?」

 ジョセフィーヌは憂色の濃いままにベルナデットに言った。そのあとすぐに軍議の間の扉が閉められ、リシャールが立ち上がった。リシャールの顔色も良くなかったはずだが、全くそのような素振りは見せていない。

「皆、疲れている中集まってくれて礼を言う。いち早く情報を共有したいと思い、この報告会を開いた。まずは俺のいた冥府の門を捜索・破壊する部隊からだ。オリヴィエ、報告を」

「はい」

 オリヴィエは椅子から立ち上がり、冥府の門部隊の顛末を説明した。冥府の門について詳細を話しているときは、あちこちから声が漏れ出た。言葉だけでもあの凄惨な光景が別部隊の兵士たちにも伝わったことが分かる。

「なんとも悍ましい・・・自国民をも門の為だけに殺すというのか・・・!」

 ジョセフィーヌは嫌悪感で顔を歪ませながら、怒り交じりに呟いた。シャルリーヌの方は硬い表情のまま無言を貫いている。きっと他の者も同じ気持ちだろう、とベルナデットは周囲の兵士を見回してそう思った。

「やはり、今の帝国は狂っている・・・我が国もそうだが、ブロシュタルやセラシア、カルタなどの近隣諸国も心配です」

 ガストンがそう言うと、リシャールは深く頷いた。

「俺もそれは懸念している。冥府の門は必ず全て破壊しなければならない。他国の状況も気になるところだ。・・・そこで、次は情報収集部隊の報告を聞きたい。担当者からの報告を」

「はい」

 立ち上がったのはローランであった。

「我々情報収集部隊は砦の周辺地域にて、聞き込みなどを行いました。王国北部と東部は帝国四将の一人“暴風のフォガース”が指揮を執っているとのことです」

 周囲の兵士たちがまたにわかにざわめいた。ベルナデットは初めて耳にする“帝国四将”と“フォガース”という単語に対して、内心首を傾げる。

「帝国四将か・・・この戦争以前から帝国の情報の一つとして把握していたが、やはり指揮を任されていたか。四将について一度情報共有をしておこう。オリヴィエ、説明を頼めるか?」

「承知いたしました」

 ローランが一旦座り、オリヴィエがまた立ち上がる。

「帝国四将は、帝国側の呼称であり、我々もそれに倣ってそう呼んでいる。文字通り四人の将の名称であり、軍の指揮では皇帝、皇太子に次ぐ権力を持っている。四将各個人の情報は限られており、真偽が不明なものもあるが・・・一人ずつ説明しよう」

 オリヴィエは一旦呼吸を置くと、再び説明を続ける。

「まず一人目は、今話題に上がった“暴風のフォガース”。本名はフォガース・クレック。出自は帝国の名門貴族であり、二つ名の通り風魔法を得意としている。また、槍の使い手でもあるそうだ。指揮能力は定かではないが、将と呼ばれるからには高く見ておいた方が良いだろう」

「そのフォガースが駐留している場所は分かるか?」

 オリヴィエの説明に一度区切りがついたところで、リシャールはローランに尋ねた。

「情報の裏がまだしっかり取れていませんが、フォガースは王都、ヴァリサント、ペルコワーズの三都市を定期的に行き来しているようです」

「ふむ・・・どこが本拠地かは不明、ということか。今後その都市を奪還するにあたって、フォガースの存在にも注意していかなければならないな」

 リシャールはローランの話を受けて、そう皆に話した。そのあとも、オリヴィエの四将の説明は続く。

 ――“赫炎のゴルディン”。本名はゴルディン・ベゾーロ。帝国貴族の中でも代々軍人を輩出してきた家の出身。二つ名の由来は炎の魔法を得意とするということもだが、それ以上にゴルディン本人が非常に好戦的であり、粗野で苛烈な人物であることから付いたものだという。大剣を軽々と振り回す巨漢でもある。

 “雷轟のフェディウス”。本名はフェディウス・アラクス。フォガース、ゴルディンと同じく帝国貴族出身。二つ名の通り雷魔法と剣技を得意とする。四将の中では比較的穏健派であり、あまり目立たない方である。

“霧の魔女シャルセッテ”。この者だけは性別が女であるということと、二つ名から魔術に長けている、という情報しか掴めていない。その他の情報としては、四将に選ばれたのは近年、という話もある。――

「以上が、四将についての情報です」

 オリヴィエはそう説明を締めた。

「フォガース以外の情報は掴めているか?」

 リシャールは再びローランに尋ねた。

「現在のところ、フォガースの動き以外は確認できておりません。まだ情報が足りておらず・・・申し訳ございません」

 ローランは立ち上がり、謝罪した。

「いや、一朝一夕で情報が簡単に集まれば、こちらは苦戦していない。気にするな。四将以外の情報は、何か得られたか?」

「はい、セルジュ王子の行方について、僅かに情報を得ることが出来ました」

 ローランの発言で、またのその場は少しざわつき、リシャールの眉が微かに動いた。

「王子は王国南東部、カルタとの国境に近い地域で王子に似た人物を見た、という目撃情報がありました。まだ真偽は定かではありませんが、南部地域はまだ我々も把握できていない村や町もあるので、王子がいらっしゃる可能性も十分あります。捜索隊を出しますか?」

 今度はローランの方からリシャールに尋ねた。

「ふむ、そうだな・・・」

「軍議中、失礼いたします! ご報告したいことがあり参じました!」

 リシャールが考えているところへ、兵士が飛び込んできた。

 

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