タロン傭兵団③

 

 タロン傭兵団と雇用契約をしたあとは、村で小休憩させて貰うことにした。ベルナデットは護衛のニア、オリヴィエと共に村の公会堂の中に入って、ベンチに座ることにした。他の隊員たちも同じように各々休憩している。

「ベルちゃん、お水いる?」

 ニアは昨日と同じように水筒を差し出した。

「ありがとうございます。いただきます」

 ベルナデットはちょうど喉が渇いていたので、遠慮なく受け取る。すぐに蓋を開けてあおった。

「…それにしても、ここで傭兵を雇うことになるとは思わなかったわね」

「こんなに早く戦力を増やすことが出来たのは良いことだな」

 ニアとは反対側に、ベルナデットの隣に座るオリヴィエがそう答えた。

「あら、じゃあオリヴィエは賛成派だったの?」

「ああ。今は何よりもまず戦力だろう? 見たところ、ミゲルも他の団員も戦い慣れている様子だったからな。都合が良すぎるくらいだ。ニアは反対だったのか?」

「実は私も賛成よ。まあ色々心配な点はあるけれど、あなたの言う通り兵士が増えるのは良いことだし、ベルちゃんが言った通り、最低限の人の心は持ち合わせているようだから、大丈夫だと思ったのよね」

 ニアはそこまで言ったとき、公会堂の扉が大仰に開かれた。何事かと思い、ベルナデットら中にいる者たちは一斉に扉の方を見た。

「よお、ベルナデットっていう嬢ちゃんはいるかい?」

 入ってきたのはミゲルと副団長のダリウスであった。突然の指名にベルナデットは驚く。そして、ミゲルとベルナデットは目が合ってしまった。大股でミゲルたちはベルナデットに近付いて来る。ベルナデットたちも立ち上がった。

「どうやら、あんたがベルナデットのようだな」

 ミゲルが話し掛けると、ニアとオリヴィエはベルナデットより少し前に出る。

「何か用?」

 ニアはやや語気を鋭くして尋ねた。

「おいおい、今は仲間だからそんな身構えることねえだろ? さっき王子様に色々訊いたら、この中にまさか聖剣の使い手がいるって知ってよ。挨拶しておこうと思ってな」

 ミゲルは先程と変わらぬ調子で話した。

「別に挨拶なんて良いでしょ? どうせお金だけの関係なんだから」

 ニアはベルナデットに近付けさせまいと威嚇した。

「そう冷たいこと言うなよ。割と人情味もあるんだぜ?」

 ミゲルはそう返し、ニアは睨む。このままでは埒が明かない、とベルナデットは口を開く。

「ニアさん、私もミゲルさんたちに挨拶したいです。…初めまして、ベルナデットです」

「おお、嬢ちゃんの方から挨拶してくれるとは思わなかったぜ! 改めて、タロン傭兵団の団長・ミゲルだ。よろしくな!」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 ミゲルが右手を差し出したので、ベルナデットも右手を差し出して握手をする。大きくてマメだらけの硬い手だ、とベルナデットは心の中で呟いた。その後はダリウスとも握手を交わした。

「それにしても、こんな小柄で細い嬢ちゃんが聖剣の使い手とはなあ。ちゃんと戦えるのかい?」

 ミゲルは茶化す、というよりは本気で心配しているように言った。

「大丈夫です。聖剣が私に力を貸してくれるので、昨日初めて戦うことが出来ました」

「聖剣ってそんな力もあるのか!? まあ不死の兵…こっちでは屍兵って言ってんだっけ? それは嬢ちゃんに任せるしかなさそうだが、それ以外の戦いならオレたちに任せな」

「はい、頼りにしています」

 ベルナデットにとってはたとえ今の言葉がミゲルの方便であったとしても、助かることに変わりはなかったのでそう返した。

「嬢ちゃんは素直で良いねえ。そういう素直なところが、聖剣に気に入られたのかもな」

 ミゲルはそう言ったあとに、これ見よがしにニアを見た。ニアは更にきつくミゲルを睨んだのであった。

 ――こうして、リシャール隊はタロン傭兵団10人を仲間として雇い、総勢30名となった。村で休憩を終えた隊の面々は、村を発ち再びグリシアの街を目指すのであった。



                           ―第二部 第四章 終―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る