第四章 

タロン傭兵団①

 レザール砦を出発したリシャール隊は、四人の兵士を先頭に置き、リシャールはその後に馬に乗って続いた。ベルナデットはニアとオリヴィエが護衛につく形で、殿より少し前の位置で行軍について行く。鎧で歩くのには少しだけ慣れただけだが、何としても行軍に遅れまいとする気合いで、重さに負けまいと歩いていた。

「ベルちゃん、大丈夫?」

 昨日と同じことを、ニアは訊いてきた。

「大丈夫ですよ、昨日よりも大分慣れました!」

「ということは、昨日は大変だったのね?」

「うっ! …ま、まあ昨日は初めて着ましたから!」

 ベルナデットはぎくりとして答えた。ニアはそこで苦笑する。

「ごめんごめん、でもやっぱり昨日は無理してたのね?」

「…はい」

「やっぱり。今度から何かあったら無理せず言うのよ? これからは助け合うことが重要になってくるんだから!」

「もう十分助けられてる気がしますけど…分かりました、困っているときは頼らせて貰いますね」

「うん、良い返事!」

 ニアは満足げに言った。

「ニア、ベルナデット殿が心配なのは分かるが、あまり過保護すぎるのも考えものだぞ。ベルナデット殿も覚悟を持ってこの戦いに参加しているんだ。自分の限界も心得てるさ」

 今まで沈黙を貫いていたオリヴィエが、ニアを注意した。

「それは分かってるわよ。でも、ベルちゃんは負担が大きいのに辛いことも我慢しちゃうっていうのが、今の話で分かったから。それでも心配しちゃうわよ」

 ニアの言葉を聞いたベルナデットは、申し訳ないという気持ちもあるが、自分の辛さを知ってくれていることに安心もした。本当に、頼れる仲間がいてくれて良かった、と噛み締めたのであった。



「あれは…村だな」

 リシャールは遠目に見えた複数の建造物や柵を見つけ、そう呟いた。

「あの村に寄られますか?」

 ガストンはリシャールに尋ねる。

「そうだな、帝国が占領しているかどうかも気になる。もし何もなければ、村で休憩させて貰おう」

「では、偵察を出します。偵察兵! 向こうの村へ偵察に向かってくれ。くれぐれも慎重にな」

 ガストンが指示すると、偵察兵数名が馬に乗って村へと駆けて行った。その様子をベルナデットはじっと見つめる。

「…レザール砦から逃げた帝国兵もいる可能性があるな」

 オリヴィエがそう呟き、ベルナデットはオリヴィエを見た。

「確かに、この村に撤退していてもおかしくはないわね…もしそれで住民が被害を受けていたら…」

 ニアはそこで言葉を止めた。守るはずの民たちを自分たちのせいで危険に晒したくはない。逃がした帝国兵がここに逃げ込んでいないことを、皆は祈った。

 しばらくして、偵察兵たちが戻ってきた。特に負傷した者はいないようであり、偵察隊の隊長が結果を報告する。

「村に住民はいませんでした。ただ、その代わりに“タロン傭兵団”と名乗る者たちが村を占拠しておりまして…矢を射って来て威嚇されました」

「傭兵団? 何故あの村に居座っている? …他に何かあったか?」

 リシャールは矢継ぎ早に尋ねた。

「所属を訊かれました『相手が敵かどうか分からぬ以上、身元を明かすことは出来ない』と答えると今度は『貴様らの大将を呼んでこい』とのことです。話にならないのでこうして一旦引き上げてきました。どういたしますか?」

 隊長がリシャールに伺いを立てる。リシャールは額に手を当てて少し考えたあと、

「分かった。ここは相手の言う通りにしよう。賊ならば討つ、それだけだ。…皆、あの村に行ってみよう。交戦の可能性もある。気を引き締めろ」

 隊の皆にそう通達した。



 リシャール隊が村の入り口付近にまで接近すると、リシャールは馬から下りた。そして、

「タロン傭兵団! 俺はリュヴェレット王国第一王子、リュヴェレット・リュヴェレット・スルースだ! 先程の偵察隊も含めた小隊の隊長を務めている。お前達の要望は聞き届けたぞ! そちらのことを教えて貰おうか!」

 村の中にいる傭兵団に向かって、大声で名乗った。ベルナデットは先程聞いたように、矢が飛んでこないかとヒヤヒヤする。すると、村の入り口のすぐ近くにある家から、大柄で顔中に傷がある男が、仲間を三人ほど引き連れて出てきた。顔に傷のある男は、背中に大剣を背負っている。

「おう、随分と威勢の良い大将だなあ!」

 傷顔の男は愉快そうに大笑した。

「出て来い、と言うから出て来たまでだ。それより、俺の質問に答えろ」

 リシャールは少し不愉快そうに言った。

「まあそう睨むなよ。オレたちはそっちの偵察連中にも言った通り“タロン傭兵団”…国を問わず集まった傭兵よ」

「国を問わず?」

 リシャールは気になる部分を繰り返した。

「ああ。オレと副団長のダリウスはブロシュタル出身だが、団員の中にはリュヴェレットはもちろん、セラシアにアルディア出身の奴もいるぜ」

 “アルディア”と聞いた隊の皆は身構えた。それを見越していた傷顔の男は、すぐに話を続ける。

「まあそう怖い顔すんな。この傭兵団の連中は国の主義だとか思想だとか、そんなモン全く気にしたことがない。要は飯が食えりゃあ良い、ついでに余った金がありゃあもっと良い、っていう単純な野郎ばかりだ」

「つまり、敵では無いと言いたいのだな?」

 リシャールは確認するように尋ねた。すると、傷顔の男は少しバツの悪そうな顔をする。

「あー、まあそうなんだが、少し事情があってな。…長くなりそうだ、帝国に見つかっても厄介だし、村の中で話そうぜ」

「何故貴様が仕切っているんだ…まあ良い。この村の住人についても訊かせて貰うぞ」

 リシャールがそう話すと、傷顔の男は踵を返し、隊の皆を村へと案内した。

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