第6話 僕の名前は魚魚業‼️
「律儀なもんだな、あのおっさんも」
岩瀬雄の願いを叶えた後、新道啓は直った自転車を押しながら小川シュウと共に帰路へ着いていた。
啓達が彼の妻を探している間、当人は自身が壊してしまった啓の自転車を直していたらしい。
別れ際、彼は「きっと役に立つ」と、ある小さな石をシュウに、そして直した自転車を啓に渡した。
「にしてもこの1週間色々あったねー」
渡された石を見つつシュウが声を掛けてくる。
「…ああ」
本当に沢山の事があった。
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1月30日、たまたま怪物が何も無い所から出てくるのを発見。直後その場所を調べた所、謎の世界と繋がっている事が発覚。
これを裏世界と呼称する事にし、残りの日数はその調査に当てた。
この調査にあたって裏世界の住人は怪物であるが、その殆どは非交戦的であり多くの怪物が言語を話す事、そして夫と死に別れた事を後悔する女性がいる情報を掴んだ。
しかし全てが上手くいった訳ではない。
言語を話せない者、非交戦的ではない者といった例外との連続戦闘により、啓は自身の無力さを痛感したのか進んで前線へ立つ事はなくなった。
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「…このままじゃダメだ」
啓の独り言に対し、シュウは無言で下を向く。
「…シュウ!明日からまた修行だ!!」
そう言うと啓は自転車にまたがり走り去った。
1週間後(2月9日)
フットワークを鍛えてる啓を横目にシュウは石を眺めていた。
「それ、結局何なのか分かったのか?」
質問に対しシュウは苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「うんー、多分これ怪物が近くにいると光る様になってるんだと思う」
「…へー、じゃあこれからは見つけるのが楽になるんだな」
「いや...それが怪物と対面しても本当にちょっとしか光らないんだよ」
そう言うとシュウは啓に石を渡した。
「だからさ、敵が近くに居るくらいじゃ全然気付けな...」
説明を続けようとするシュウの口が止まる。
啓の手から光が漏れ出していた。
「まぶし」
石から出る光は少なくともスマホの明かり程はある。
どんどん勢いを増してく光から目を逸らす為啓は顔を上にあげた。
「なんだあれ」
何か魚の様なものが空を飛んでいる。
その魚が啓の上空を通り過ぎようとした時、石の光は最大に達し、離れていくにつれて光も徐々に小さくなった。
啓の口が緩むのが見えた。
「シュウ!!あれ追うぞ!!」
啓は素早く自転車を持ってくると魚の飛んでいく方向へ向かって走り出した。
シュウもそれに続く。
魚の様な何かが移動する速度は啓達の追う速度とおよそ差はない。
しかし障害物が多い地上に対し空中には動きを妨げる物など存在しない為だろう、段々と距離を離された後、遂には啓が足を止めた。
「見失った」
そう呟く啓の声は少しつまらなさそうで何か声を掛けなきゃいけないと思った。
「慰める訳じゃないけどさ、多分あれと戦っても俺らに勝機はなかったよ」
「さっきも言ったけどさ本来は怪物が近くに居てもあの石は少ししか光らないんだよ?なのに見失ってもこうして光が強く...」
自分で言っていてその違和感に気付いたのだろう。
「強くなっている...」それはおかしな筈だ。
離れてったら光は弱くなる筈なのに今もどんどん強くなっている。
「啓!ここから逃げろ!!」
慌てて来た方向へ戻ろうとしたシュウが何かにぶつかり尻餅をつく。
大きな目玉がシュウを見下ろしていた。
その体はまるで漫画に出てくる様なデフォルメ化された魚でニョキっと生えた筋骨隆々の足が異形さを際立たせている。
「こんにちは‼️初めまして❗️」
甲高い声で異形の存在が言葉を紡ぐ。
「僕の名前は魚魚業‼️」
「…?」
「魚魚業だよ‼️」
困惑するシュウに対し自身を魚魚業と名乗り続ける魚は敵意がないのか、元気よくジャンプしている。
「…戦う意志はないのか?」
「ないよ‼️」
恐る恐る問いを投げかける啓に対し魚魚業は元気よく答えた。
「お兄さん達が僕を追ってたから気になって来ちゃった‼️」
"怪物達の中には良い奴らもいる"
それはここ1週間で知っていた事だった。
少なくともこの魚の言葉から悪い奴だとは思えない。
「…そうだったのか、嫌な思いをさせちまったみたいで悪かったな」
「ううん‼️全然気にしてないよ‼️」
間髪入れずに返答してくるせいで微妙に緊張感が薄れてくるが、まだこの魚が極悪人である可能性を否定出来た訳ではない。
それを確かめる為啓は一つの質問を投げかけた。
「なあ、さっきは何で空なんて飛んでたんだ?」
「泳いでたの‼️僕泳ぐの好きなんだ‼️魚魚業だよ‼️」
素直に答えてくれるのは嬉しいが何度自己紹介をするのだろうか。
言葉に詰まる啓に代わって黙り続けてきたシュウがいよいよ口を開けた。
「魚魚業さん、貴方の為に一つ言わせて貰います。」
「なにー❓」
「空を泳ぐのを辞めてください」
開口一番淡々と要求を口にしたシュウに対し魚魚業の態度は露骨にイラつきを見せた。
具体的に言えばジャンプする事を辞め、先程の元気が良かった口調とは打って変わって静かなものとなっている。
「…泳ぐのを辞めろ...? それってつまり僕の好きを奪うって事...?」
「…そんなの、そんなのってさ...酷いよ‼️‼️」
可愛い怒り方とは裏腹に魚魚業は乱暴にシュウへ向かって走ってくる。
魚なのにちゃんと走ってくる姿がシュール過ぎて些か緊張感に欠けるが恐らく相手は格上。
シュウに慢心はない。
「──変身」
様々なシルエットが四方に飛び交いシュウへと集結する。
バーコードの様な頭はディケイドを彷彿とさせるがよく見てみると色や姿が若干違う。
…今まで気付かなかったが体の装飾も無い。
もしかしたら今までの変身体も同じだったのだろうか。
観察をしているうちに魚魚業とシュウの戦闘が始まる。
真っ直ぐ突っ込んで来る魚魚業の体当たりを躱しシュウが側面から本気の右ストレートを打ち放つと衝撃が啓まで飛んできた。
「…まじか」
今までの敵ならば致命傷だった一撃を受けて魚魚業はぴくりともせず立っている。
「い...痛い‼️」
口ではそう言っているが見たところ外傷どころか拳の跡さえ残っていない。
間を空けずにシュウがもう一撃を入れようとするがその拳は不発に終わった。
魚魚業の姿が何処にもない。
「お兄さん強いから僕もちゃんとやる❗️」
上空からの声に気付いた時、強い風が啓に吹いた。それと同時にシュウが弾き飛ばされる。
先程まで生えていた足は消え、完全な魚の姿となった魚魚業が地面スレスレを浮いている。
上空にいた時は気付かなかったが全長2mはあるだろうか、その体格からしてシュウを弾き飛ばしたのは魚魚業自身である事が伝わって来た。
「大丈夫か!?シュウ!」
啓の声に反応してシュウが静止のポーズを向けてくる。どうやら心配は無用らしい。
どれ程時間がたったであろうか、辛うじて見える2人の戦いは常軌を逸していた。
攻撃をいくら喰らっても目に見えるダメージの無い魚魚業と全ての体当たりを避けつつ反撃をするシュウ。
しかしどちらも決め手に欠けている印象を受ける。
「…ジリ貧だ」
攻撃力は魚魚業の方が恐らく上。
このままいけば負けるのはシュウであろう。
その時だった。啓の予感は的中し形勢は最悪の形で変化する。
突如勢いを増した魚魚業の体当たりをもろに食らったシュウが大きく弾き飛ばされた。
「シュウ!!」
装甲が厚そうなベルト部分に当たったからか幸いシュウにそこまでダメージは見えない。
が、ベルトを攻撃されたからであろう、シュウの変身が解除されていく。
瞬時に脳裏に浮かび上がる最低最悪の未来
"親友の死"
この状況を打開しなければ。でもどうやって。
答えは出ない。
能力を使えない自分が出て行ったとして何の役に立つ...
「考えろ...考えて実行しろ」
脳をフルスロットルで回転させる啓の目には無慈悲にもシュウへ向かっていく魚魚業の姿がスローに映し出される。
「…動かなきゃ」
「があああああぁぁぁぁ」
親友を助ける為無我夢中で走っていく。
実のところ啓には打開策など何一つ無かった。
それでもただひたすらに前へ進む。
一歩、また一歩。
誰がどう見ても無茶で無駄な足掻き。そんな行動を見かねたのか、彼を認めたのか、未来へ抗う啓に今一度"力"が呼応する。
間に合うはずのなかった啓の右拳は魚魚業を確かに捉えた。
殴られた魚は間抜けな声を出しながら姿が見えなくなる距離まで飛ばされていく。
「…は、発動した」
誰よりも能力の開花に驚いたのは啓自身だった。
右手には謎の赤い手袋、左手には各指に一つずつ嵌められた指輪。
何より全身の感覚が研ぎ澄まされているこの感覚。
明らかな変化を目と体で感じることで初めて自身が能力に目覚めたのだと理解する。
「…そうか俺もやっとこの力を使える様になったんだ」
能力発動の鍵が何なのかはまだ分からないが、これで魚魚業を倒せる可能性が出来た。
奴は生きている。そして必ずここに戻ってくる。
初めてちゃんと発現した筈の能力なのに何故か啓はこの能力の使い方を本能的に知っている。
一直線で戻ってくる魚魚業を視認すると啓は左手親指についた荘厳な装飾が特徴の指輪を外した。
親指から離れた指輪は粒子になって啓の体へ消えると、同時に先程までとは比べ物にならないパワーが体の底から湧いてきた。
「倍返しだー‼️」
叫びながら突撃してくる魚魚業の頭を正面から捉えると今度は弾け飛ぶ事なくその場で静止した。
「ほんとにいたい‼️」
そう言うとこの魚はまた動きを再開させる。
「…まじかよ、これでもダメージないのか」
縦横無尽に不規則で加速する魚魚業を避けつつ啓は小指の指輪を外した。同時に速さが増す。
「だけどよ、悪いがお前とはここでさよならだ」
移動先を悉く潰した啓は渾身の一撃で魚魚業を空中へ蹴り上げると最後には力任せの右拳で彼を空の彼方まで殴り飛ばした。
「うああああああああ‼️‼️」
相変わらず間抜けな声を出しながら吹き飛んでいく。
地面に落としてた石の光がどんどん小さくなっていくのを確認してから拾い上げる。
魚魚業は先程の一撃で倒れたのか戻ってくる気配はない。
啓はひとりでに空を見上げると一言。
「…やっとだ。これでやっとスタートラインに立てる」
高らかに呟く啓の目には希望が溢れており、これから起こるであろう困難など何一つとして気にも留めてない様子は頼もしい事この上無いものだった。
BestEnd 小菅駿 @kosuge0925
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