異世界転生して料理魔法しか使えなかった話。
十八万十
第1話
桜井ここは、普通の女子高生だった。好きなことは食べることと、冒険ものの小説を読むこと。ただ、それだけ。だが、ある日突然、謎の光に包まれて異世界に転生してしまった。
目を開けた瞬間、彼女の目に飛び込んできたのは、壮大な景色。異世界と言われる場所だ。だが、目の前には巨大なドラゴンが堂々と座っていて、周囲には剣や盾を持った勇者たちがうろうろしている。ここは、間違いなくファンタジーの世界だ。
「君が倒すべき魔王は、我の部屋にいるんだ。」
その声に驚き、桜井ここは振り向いた。ドラゴンの声だった。
大きな体、赤く輝く鱗、火を吹く口から発せられたその言葉に、桜井ここはちょっと呆然となった。
「え、魔王が部屋にいるの?」
「そうだ。彼は我のペットの猫だ。」
ドラゴンはそれを誇らしげに言った。
桜井ここは混乱していた。
異世界に転生した上に、魔王がドラゴンのペットの猫だなんて。
しかもそのペットの猫は、すごくお腹が空いていて、すぐに食べ物を求めるらしい。
「じゃあ、倒すのはその猫…?」
桜井ここが尋ねると、ドラゴンはうなずいた。
「いや、まずその猫にご飯を与えてくれ。彼が怒ってるときは、魔王に変わってしまうんだ。だから、君には魔王の鎮圧を頼む。」
「…え?」
つまり、魔王を倒す代わりに猫を餌でおとなしくさせろ、というミッションが与えられたわけだ。桜井ここは少しため息をついてから、
「でも、私は戦闘スキルとか何もないんですけど…」
と告げると、ドラゴンはにっこりと微笑んだ。
「君のスキルはすごいんだよ。『完全料理魔法』だ。」
「…完全料理魔法?」
桜井ここは完全にポカンとしていた。完全料理魔法?それがどう魔王に関係があるのか、全く理解できなかった」
「そう、君には適切かつ完璧に料理をする魔法が使えるんだ。これで、魔王である我のペット、あの猫を喜ばせることができるだろう。」
ドラゴンは自信満々に言った。
完全料理魔法なんて、異世界で何の役に立つんだろうと思いつつ、桜井ここはそれを試すことに決めた。ドラゴンの部屋に案内され、そこには大量の食品があった。
桜井ここがその食品に手をかざすと、それぞれの食材に最適な料理方法が浮かび上がり、料理本のように表示される。
「うわ、すごい…これが完全料理魔法?」
桜井ここは感心しながら、指示通りに料理を始めた。
だが、どう考えてもこれが「魔王退治」に繋がるとは思えなかった。
猫を喜ばせるために料理を作っているだけだ。
数時間後、ついに完成した料理を持ってドラゴンの部屋に戻った。
そこには、まるでKINGのようにふんぞり返った白猫がいた。
その白猫は背中に翼が生えていて、鋭い爪と牙。さらには角まで生えていた。
「さあ、これでご飯だよ。」
桜井ここは料理を差し出した。
猫は目を輝かせ、すぐに食べ始めた。すると、驚くことに、
その猫の姿が徐々に普通の猫に戻っていった。
「す、すごい…!これが魔王を鎮める方法なのか!」
桜井ここは、あまりの展開に驚きつつも、満足げに微笑んだ。
猫が食べ終わると、ドラゴンがやってきて、桜井ここに向かって言った。
「ありがとう、君は本当に素晴らしい。君が倒すべき魔王はもういなくなった。」
「…でも、私、戦ってないんですよ?ただ料理しただけですけど。」
ドラゴンはにっこりと微笑んで言った。
「完全料理魔法こそが、魔王に対する最強の武器だったのだ。」
桜井ここは、なんだか不思議な気分になりながらも、こう心の中で思った。
『あれ?もしかして、異世界で一番役立つのって戦闘スキルじゃなくて、料理スキル…?』
そして、彼女は今後も魔王もといペットの猫に対して完全料理魔法を駆使して、世界を何度も救い、次第に異世界でも伝説となっていくのだった。
異世界転生して料理魔法しか使えなかった話。 十八万十 @pikomyou
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