復讐
和田口禾
復讐
彼は何かに怯えている
彼と出会ってから一年以上経っているが未だに素性が分からない。一体何者なのだろう。
出会って最初の三ヶ月間は趣味が合うということで何度か彼と二人で出掛けた。私も彼も異性には慣れておらずなかなか敬語が抜けなかったが三ヶ月後、交際をすることになった。
今思ってもどうして私に告白してくれたのかすら分からない。
付き合い始めて私達は会う回数が増えた代わりに二人きりで遊びに行く回数が減った。冬だったからあまり動くことが出来なかったのだ。そんなこと今はどうでもいい。
交際する中で彼と彼の友人とが話しているのを見かけたが、私に接する態度とはまるで違っていた。不気味なまでにテンションも口調もトーンも表情も何もかも。私は怖かった。彼の本性が分からなかった。常に飄飄としているようで何も考えていないようで、しかし時折見せる賢さのようなものは本物のようにも思えて。
彼に対して一番恐怖心を覚えたのは私に対する異常なまでの愛情だ。矛盾しているように感じるかもしれないが、交際期間中彼は私のためだけに時間を費やしているようであった。実際のところなど知る由もないのだが、きっと間違いであると私は信じているのだが、それでも彼の言動は度を超えていたことは間違いない。私はストーカーと付き合っているのではないか、そう思う日も次第に増していた。例を挙げたってキリがないし、そもそも思い出せない、いや正確には思い出したくないのだけれど、特に多かったのは電車での出来事だったと思う。既存のルーティンを崩して毎朝始発に乗ってくる彼。私を見つけてわざわざホーム内を走って同じ車両に乗ろうとする彼。彼の行為は出会って四ヶ月後から始まった。彼は何か勘違いをしていた。
私はこれらのちょっとした気持ち悪さに嫌気がさして彼と別れを告げた。丁度受験生になるということもあり、彼は軽く飲み込んでくれた。彼の声すら聞きたくなかった。
何ヶ月たったのだろう。ある日急に連絡が来た。ヨリを戻したいだとか忘れられないだとかそんな甘ったるい言葉ではなかった。単純に勉強の進捗を聞いてきたのだ。彼にはもう失望した。そんなことは他の友人に聞けばいいだろう。結局彼は回りくどく、何者か分からないように立ち回らないと落ち着かないのだ。くだらない。
冬は雪が降るから動けない。雪は獣だ。軽んじてはいけない。
二回目の冬になり電車で彼を見かけることもたまにではあったが、あった。その度に彼は独りであり、私と一切目を合わせてはくれなかった。送ってきた文章では進路に関して小馬鹿にしてきたくせに、現実では彼の正面を見せてはくれない。どうせ彼は地元の国立に進学するんだ。臆病な田舎者だ。
私は、どうなのだ。地元を捨てて上京しようとしている私は。彼に全てをさらけ出していたのだろうか。そんな訳が無い。私だって隠していた。過去を知られたくなかった。幻滅されたくなかった。
付き合って三ヶ月、出会って六ヶ月どうせボロが出て嫌われるものだと思っていた。思い込んでいた。違った。彼は一向に嫌ってはくれない。それと同時に、彼は何も、彼は一向に自分の素性を話してはくれなかった。どうして好意を寄せてくれているのか不明だった。怖かった。私が絶たなければならなかった。彼は既に壊れていた。私が壊してしまったのだ。何もしていないというのに。彼はどうして……。
彼は私以上に多才であった。だから苦労が垣間見えるはずだった。結局何も見せてはくれなかったのだが。
卑怯だ。彼のせいだ。彼が本性を見せないのならば私だってさらけ出す必要なんて、無いんだ。なあんだ、彼のせいじゃないか。浅薄で、臆病で、卑怯で。私が責任を負う義理は無い。彼が勝手に告白して勝手に壊れただけなのだ。私が心配する必要なんて一切合切無いのだ。
彼は勝手に生きていくんだ。それが
和田口禾という男の人生なのだ。
いいのだ、私は過去を捨てるのだから。
復讐 和田口禾 @wadaguchi_ine
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