第4話 ≪スキル≫
虎岩さんによる講義は続く。
「≪職業≫は大雑把に分けて3つに分類される。つまり≪前衛職≫≪後衛職≫≪特殊職≫の3つだ」
≪前衛職≫はその名の通り、前衛に立ってモンスターと近接戦闘を行う職業だ。
戦士や格闘家といった職業がこれに当たり、この職業に就くと、身体能力が大幅にUPする。
人間離れした怪力を発揮したり、アスリート顔負けの身体能力を発揮したり…といったことができる。
≪後衛職≫は後衛から魔法や飛び道具を用いた遠距離攻撃を行う職業だ。
魔術師や僧侶といった魔法を使う職業や、射手のような飛び道具の使い手がこれに当たる。
≪特殊職≫は前衛でも後衛でも戦える職業、例えば獣使いや虫使い等のテイマー職がこれに当たる。
また、戦闘能力は無いが、様々な武器や防具、便利な道具を産み出せる生産系の職業…例えば鍛冶師とか、錬金術師もここに当てはまる。
「パーティーを組む時は、3種類の職業でバランスよく組むのがセオリーだ。まあ、うちみたく全員が前衛なんて無茶なパーティーもいるにはいるが…あまりお薦めはしないな」
「特に生産系の職業はレベルの低いうちは本人に戦闘能力が無いのが殆どだからな、最初の内はパーティーを組んだ方がいいぞ」
「でも、戦闘能力の無いやつと組むメリットあります?普通に足手まといっていうか…寄生になるんじゃ?」
前の列の人がそう質問する。
まあ…確かにそうかも。
て言うか僕も~使いってついてることを考えると、特殊職っぽいんだけど。
「そう思うのも無理は無いがな。だが特殊職…特に生産系の職業が使えるスキルの中には、攻略組や専業探索者には必須のものがあるからな、育てておいて損は無いと思うぞ」
(必須のスキル…?何だろう?)
「必須…?」
「うむ。皆も聞いたこと位はあるんじゃ無いか?所謂アイテムボックス系のスキル、『保管庫』徒か『ストレージ』とか言われるスキルのことだ」
「探索者の稼ぎとはつまるところ、ダンジョンの産物を売り払う事で得られる儲けなわけだが…当然それらを売るにはまず持って帰らないといけないわけだ」
話ながら、虎岩さんはホワイトボードに書き込みならが説明していく。
「だが、リュックやらコンテナやら持ち込むにしても、人間一人に持てる量などたかが知れてるだろう?」
「嵩張るような物ならどうしても動きを阻害して戦闘の邪魔になるし、そもそも長期の探索となれば食料や水、生活用品、予備の武器…とにかく探索と荷物の問題は切り離せない問題なんだ」
「だが、ここに容量の大きいアイテムボックスの持ち主が一人いれば、殆どの問題が解決する。攻略組の端くれとして言わせて貰えば…見つけたら何がなんでも囲い込むべきだな。というか…」
ふとDカードを見ると、そこにはトイボックスと書かれている…ボックス?ひょっとしてこれもアイテムボックス系のスキル?
「アイテムボックス系のスキルがあったらダンジョンの外でも一生食いっぱぐれはないからな…まあ収納容量を広げるにはダンジョンに潜ってレベルを上げる必要があるから、ダンジョンに潜らなくてもいいということにはならないが。ちなみに、先程話した悪用されたら不味いスキル第一位でもある。もしこの中に持っているものがいた場合は、よほど信頼できる相手以外には話さないようにお薦めしておく…後でこっそり秋繰女史に相談しろ」
…あ、あまり人には見せないようにしよう。
相談も…まず自分で色々試してからでいいかな。
僕はそっ…とDカードの画面を消して、鞄に仕舞い込んだ。
「…おっと、もうこんな時間か」
その後、しばらくの質疑応答の時間の後、終了時間が来たようだ。
「最後にもう一度言っておく。"判らないことは知っている人に聞け"これは探索者としての基本だ。このセンターにも資料室はあるるし、職員に聞けば大体の事は教えてくれる。真偽のはっきりしないネットの情報など鵜呑みにして、大怪我などしないように…では、いずれダンジョンで出会えることを願っている…解散!」
「「「ありがとうございました!」」」
講習会が終了し、僕と勇人と敦は会議室を出る。
「おし、奏!どっかでお互いの≪職業≫と≪スキル≫確認しようぜ」
「そうだね、あ、あの、あっちゃ…敦もよかったら…」
勇気を振り絞って敦も誘ってみるが、
「…だりい…俺は一人でやる」
そう言ってさっさと何処かに歩いていってしまった。
「うう…」
「まあ、その内どっかで逢うだろ。同じ学校で家も近所なんだから」
それはまあ…そうなんだけど。
とりあえず近くのファミレスに入った僕らは、お互いのDカードを見せ合う。
「今さらだけど、別に職業とスキルを教え合うだけでもよかったのでは」
「ん?別に俺はかまわないぞ?」
「虎岩さんに信用してる人にしか見せるなって言われたでしょ…」
「信用してるし、奏以外に見せる気は無いから大丈夫だ」
そ、そう言う恥ずかしいことを言い切るなというのに…これだから陽キャは。
ともかく見せてくれるというなら見せて貰おう、パーティーの役割分担とか考えないといけないし。
勇人のDカードの内容は、
Namu:神屋 勇人
Job:剣士
skill:剣術 魔剣召喚(炎) 身体強化
僕のDカードの内容は、
Namu:繰生 奏
Job:ぬいぐるみ使い
skill:クリエイト リペア トイボックス ※△■
となっている。
「勇人の職業は…剣士か」
「奏のこれは…何だ?ぬいぐるみ使い?」
こうして見ると僕のぬいぐるみ使いが異彩を放ってるな…普通に魔法使いとかでよかったのでは?
「俺の剣士は…完全に前衛職だよな?剣術と身体強化は判るとして、魔剣召喚(炎)ってのは何だ?」
「字面からすると…炎の魔剣を召喚できる…かな?いやでも、いきなりそんな強そうなスキル来る?いかにもユニークスキルって感じがするけど…一度、一通り使ってどんなスキルなのか確かめないとね」
「それを言うなら、奏のスキルもだいぶ謎だろ、クリエイト…ぬいぐるみを作るのか?壊れたらリペアで治して、トイボックスつまり玩具箱に仕舞うのか?」
「ううん?確かに字面だけ見るとそう読めるよね…ん?ねえ、この文字化けしてるのって、勇人にも見える?」
「え?文字化け?………いや、何も見えないけど、何かあるのか?」
あれ、勇人には見えないのか。
だとすると、サリエさんにも見えないのかもな…どうしたものか。
「じゃあ………スキルってどうやって使うんだ?」
そう言いながら勇人があれこれポーズを取ってみたり、呪文みたいなのを唱えようとしているのを慌てて止める。
「ちょっと!ダンジョンの外でスキル使ったら駄目って言われたでしょ!いきなり燃える剣とか出てきたら通報されるよ!」
「お、おう。わりい…」
まったく…浮かれるのは判るけど、勇人は迂闊すぎるよ。
とは言え、スキルの効果を確かめるには何処かで一度使ってみないと…こういう時はどうすればいいんだろう?
「あ、そうか」
「ん?」
「勇人、一度戻ってセンターで聞いてみよう。"判らないことは聞け"ってこういうことでしょ?」
「ああ、成る程な」
そういうわけで、一度センターに戻って来た僕らは先程と同じ受付に向かうと、そこには丁度、サリエさんが仕事をしていた。
「あら奏ちゃん…どうかしました?」
「サリエさん、えっと、ちょっと聞きたいことが…」
僕らはサリエさんに訳を話して、こういう場合はどうすれば良いのかを聞く。
しばらく黙って僕らの話を聞いていたサリエさんだったが、話を聞き終わると深く頷いて、
「…はい…はい、ええ、良くできました二人とも(ニッコリ)」
「えっ?」
「因みに、講習会終了後にそれを聞きに来たのはあなた方を含めて5人だけです」
5人?講習会をた受けてたのは確か…20人くらいいたと思うけど。
「…はあ、まったく、虎岩さんがちゃんと言ってくれてたでしょうに、"判らないことは誰かに聞け"と」
そう言ってやれやれ…と言いたげな仕草をするサリエさん。
「あー、成る程」
「…どういうことだよ?」
「多分、ちゃんと講習聞いてて、ここに聞きに来るまでが講習…ってことなのかな?」
「はい正解です。正解したお二人には特典として、初心者向けダンジョンの地図と、試供品の回復ポーションLV1を差し上げますね」
まあ大した物じゃありませんけどね~、と笑うサリエさんから蒼い液体の入った小さなビンを受け取る。
「これがポーションかあ…LV1だとどのくらい治るんでしたっけ?」
「切り傷や擦り傷、軽い打撲くらいなら綺麗に治ります。まあLV1なら安い物ですから、幾つか買っておいた方が良いですよ~お店の場所は…こちらのパンフに載ってます」
サリエさんに貰ったパンフを開いて見ると、そこには街中にある幾つかの店の場所が地図と一緒に載っていた。
へえ~、あ、あの店ってポーション類の店なんだ。あ、クーポン券が付いてる。
「とりあえず、先ずは…そうですね、この店がお薦めです。その店に行って、初心者セット一式を買っておけば間違いないと思います。初心者向けのダンジョンもそこから徒歩で行ける所にありますからね」
「その上で、殆ど危険の無い、初心者向けダンジョンの1階でスライム相手に使ってみると良いでしょう」
「成る程、そういえば、スキルってどうやって使うんですか?」
「一度ダンジョンに入って、その中に満ちているエネルギー…"魔素"とか"マナ"とか呼ばれるものですね…に触れれば自然と分かります。どうしても判らない場合は、Dカードに表示されたスキル名に触れながら使うと良いそうですよ」
フムフム…Dカードに触れながらね。
≪職業≫についても聞いておこうかな?いやでも、勇人が早くダンジョンに行きたそうだし…。
「それと…ひょっとして、職業やスキルについて載ってるデータベースみたいなものって…」
そう聞くと、サリエさんがまたまた笑顔になる。
「勿論あります。LMDMカードとスマホかPCがあれば、何処からでも見れますよ、操作は…」
成る程…判って来たぞ。
聞けば何でも親切に教えてくれるけど、そもそも何を聞けば良いのかは自分でちゃんと考えないといけない。
このやりとりも含めて、"初心者講習"なんだ。
「て言うか、来なかった奴らはこういう情報を得られないってことなのか?」
「うふふ…いえ、そのパンフ自体は講習終了後、一週間程したら郵送されます。なのでほんの少しアドバンテージを取れるだけですね。まあ?そのほんの少しが後々大きな差になってくることもある…そういうことです」
と言ってサリエさんが笑う。
そりゃそうか、ギルドも別に意地悪がしたい訳じゃないだろうし…情報収集は大事っていう教訓を与えたいってことなのかな。
「よし、じゃあとりあえずこの店に行って…それからダンジョンにいってみようか」
「そうだな」
「あ、それと奏ちゃん、本当に身体に異常は無いんですね?何なら念のため、ポーション1本飲んどきます?余ってるから2~3本持っていっても良いですよ~?」
「い、いえ、本当に大丈夫ですから」
尚もポーションを進めて来るサリエさんを振り切って、僕らはまず、必要な装備を求めに向かうのだった。
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