第3話 ≪職業≫
「だいぶ話が脱線したが…質問はこれくらいにして、探索者支援センターについても話しておこうか…もう知ってる人も多いと思うが、一応聞いておいてくれ」
まず、ダンジョンの側には必ず探索者支援センターの出張所があり、ダンジョンの管理をしている。
ダンジョンには基本この出張所のゲートを通らなければ入れない。
入るにはダンジョンカード(Dカード)が必要で、ランクによって入れるダンジョンが決まっている。
ランクはA~Fまで。
Fが初心者、Eで半人前、Dで一人前、Cでベテラン、Bで一流、Aは超一流、という感じ。
特にAランクは一国に数人しかいない文字通りの超人達で、国家のバックアップを受けて超高難易度のダンジョンに挑んで、希少な資源を採集してくる人達だそうだ…僕らには遠い世界だな。
ランクを上げるには、センターにダンジョンの宝物を売る、センターで依頼を受けてクリアする等、センターからの評価を上げる事でランクアップの通知が来る。
Dランク以降は昇格の為に試験を受ける必要がある。
ランクアップするとセンターからの支援が厚くなり、様々なサービスを受ける事ができる。
センターでは探索者がダンジョンで見つけてきたお宝を買い取って貰うこともできる。
と言うか、基本的にダンジョンお宝はセンターでしか売れないし、持ち出せない。
これはダンジョン産のアイテムが犯罪等に使われるのを防ぐためで、探索に使う武器や防具、その他道具については、その都度センターに預ける仕組みになっている。
「まあ他にも色々あるが、わからないことは勝手に判断せず、センターに問い合わせてくれ。どの出張所にも最低一人は職員が居るから、仲良くなっておけば色々便宜も図って貰えるぞ…内緒だがな」
「それと…これも一応注意しておこうか」
そう言って虎岩さんが出したのは野球のボール位の金属の球だった…あれって確か…。
「そう、撮影用のカメラだ。最近は若い探索者達の間で、こいつを使ってダンジョン内で様々な配信を行う…何だっけ?」
「Dチューバーですよ、虎岩さん」
名前をド忘れしたらしい虎岩さんにサリエさんのフォローが入る。
「そうそう、それだ。まあ止めはしないし、そういう稼ぎ方もアリだとは思うがな…くれぐれも安全に気を付けてやれよ?最近、撮影中に事故ったDチューバーの救出依頼とか多くてな…攻略に差し支えるんだよ」
そう言いつつ虎岩さんが球体を何か操作すると、球体の側面から虫の羽根のような物が展開され、激しい羽ばたきと共に球体が空中にフワリと浮かび上がる。
(カシャ…ピピピ!)
球体の前面が音を立てて開くと、そこから出てきたのはカメラのレンズだ。
(ピピピ…ピピピ)
球体は会議室の中を飛び回る、小鳥みたいでちょっと可愛いかも…。
「さて…それじゃあそろそろお待ちかね、≪職業≫の取得といこうか」
「おおっ!待ってました!」
虎岩さんが指示すると、他の職員さんが取手の着いた金属製の箱を持ってくる。
教壇に置かれた箱の前面には電子ロックが着いており、サリエさんがそこに数字を入力すると蓋がゆっくりと開き、その中に納められた半透明の球体があらわになる。
「これが、"オーブ"だ。これもダンジョンから産出された物で、これに触れる事で各自に合った"職業"を得ることができる」
「一応言っておきますが、これ一つで50億位するものですので…くれぐれも丁寧に扱って下さいね?壊したら弁償ですからね?」
サリエさんがそんな事を注意してくる。
顔が笑ってるから冗談だと思うけど…50億!?…そう言えば聞いたことがある。ダンジョンのお宝の中でもオーブは特に希少且つ高価で、その中でも何回も使えるもの、特に≪職業≫や≪スキル≫を与えられるものにはとんでもない値がつくんだとか。
「ははは、まあそうは言っても簡単に壊れるような物では無いから安心してくれ…それじゃあ、整理番号の若い順から並んでくれ。触れたあとはDカードを受け取って、再度元の席に着いて待っててくれ、Dカードの使い方をレクチャーするからな」
虎岩さんに促され一列に並んで順番にオーブに触れて行く。
前の人達を見ている限り、触れると一瞬オーブが光るだけのようだ。
「テンション上がって来たー!」
「だりいな…騒ぐんじゃねえよ…」
僕の前に並んでいた勇人と敦がそれぞれオーブに触れて、いよいよ僕の番だ。
簡単に壊れるような物じゃないと言われても、少し緊張するなあ。
(…スッ、ペタ)
(フォン…ジジ…ジジジ)
…ん?今何か変な音がしなかった?
手を振れると、オーブが一瞬光を放つ。
よく見ると、オーブの内部では魔方陣の様なものが幾つも絡まり合って複雑に回転したり、連結したり離れたり…思わず見惚れていると、
≪こちらDシステム…適性確認中に…ステータスの一部にerrorを確認…修正…error…修正…error…修正の為、○○✕○○▲■を付与します…実行…complete…それでは…よい冒険を…≫
「え?ちょっと?何…」
「どうした奏?」
「奏ちゃん?」
「…あん?」
(ブウウン…パリッ!)
「…ひゃっ?」
オーブに触った瞬間、頭の中に奇妙な声が響く。何というか、まるで機械の合成音声の様な、感情を感じられない不思議な声だ。
そしてこちらの疑問に答えることなく、一方的に何かを告げて声は終了を告げる。
そして一瞬、手とオーブの間に火花の様なものが走り、チクリとした痛みを感じて、慌てて手を引っ込めて手を見るが…なんとも無い。
「奏!怪我は?」
慌てて駆け寄った勇人が僕の手を開かせて、怪我の有無を確認してくる。
ちょっ、恥ずかしいってば!
「だ、大丈夫、ちょっとピリッとしただけ」
「今のは…初めて見る現象だな?」
「どうしたのかしら…オーブに特に異常は無いみたいだけど…」
サリエさんがオーブに手を翳して、空中で何かを押したり、指でなぞったりと何か操作しているが、特に異常は見つからないようだ。
「どうしましょうか…一応病院に…」
「い、いえ、何とも無いですから!」
サリエさんがそんな事を言い出したので、慌てて手を振って平気だとアピールする。
これ以上僕の為に≪職業≫の取得を止めるのは悪いよ…まだまだ後ろに並んでるのに。
「大丈夫ですから、次どうぞ!」
「秋繰女史、後ろもつかえている事だし、先に≪職業≫の所得を済ませてしまおう…何なら、講習修了後にで病院に行って貰ってもいい」
(…ざわざわ)
(お~い、まだかよ)
「う~ん…仕方ないですね。何かあったらすぐに言ってね?ここにも医務室はあるから」
多少の(?)ハプニングはあったものの、その後は問題無く進み…そして全員が≪職業≫の取得を完了して席に戻ると、再び虎岩さんが壇上に立って話し始める。
「あ~、さて、それでは皆にDカードともう一枚のカードは行き渡ったな?では各自、Dカードの黒い面に指を触れて数秒待つ…すると」
(…あっ)
オーブに触れた後に手渡されたのは、片面が白、片面が黒になったシンプルなカードともう一枚、こちらは青地に迷宮省のロゴマークと9桁の数字、僕の名前がローマ字で書かれている。
黒いシンプルなカードに指で触れて数秒待つと、ゆっくりと文字が浮かび上がって来た。
Namu:繰生 奏
Job:ぬいぐるみ使い
skill:クリエイト リペア トイボックス ※△■
(………んん?)
「カードの表面に文字が浮かび上がって来たかね?それが君達の職業とスキルだ」
(…ざわざわ)
「あの、すいません」
皆自分のDカードを表示させたのだろう、会議室が騒がしくなり、そして前列に座っていた人が挙手する。
「あの…名前と職業、それにスキルしか載って無いんですけど…」
「うむ、皆拍子抜けしたと思うが…実はDカードには本当に最小限の情報しか表示されないのだよ」
(…そうなの?)
てっきりもっと色々…STR(筋力)とかINT(知力)とかSAN(正気度)とかあるものとばかり思ってたのに。
「おそらく皆、ゲームのようにちからが100とか、かしこさが50とか、そういう数値で見れると思っていたと思うが、残念ながらそういう機能は無い」
「そもそもDカードの仕組みについては謎が多くてな、ダンジョン側の何らかのシステムによって動いているのは間違いないが、人間側からはそのシステムにアクセスできない以上、いかんともし難いわけだ」
そんなよくわからないシステムを利用して大丈夫なのかな?
「まあ…謎の多いシステムなのは間違いないが、実際、これで所得した職業やスキルはちゃんと機能するし問題はない…ということになってる。それに…」
何やら意味深なことを言うと、虎岩さんはもう一枚のカードを掲げる。
「…それ以外の部分、例えば探索者ランクやポイントの管理、パーティー機能といった便利な機能はこちらの青いカード…Labyrinth(迷宮)management(管理)development(開発)Ministry(省)カードこと、LMDMカードで行うから、Dカードを出すことはほぼ無いな、というか、職業はともかく、余り自分のスキルは人に見せ無い方がいい」
「それは…何故ですか?」
今度は横の勇人がそう質問すると、虎岩さんが答える前に横の敦がボソッと呟く。
「…決まってんだろ」
「…なんだよ」
「…お前らみてえなお人好しばかりじゃねえってことだよ」
それは…つまり…
「ええと…?他の探索者と喧嘩になるようなこともあるってこと?」
「…喧嘩で済みゃいいがな」
「そこの彼に殆ど言われてしまったが、まあそうだな。職業についてはパーティーを組む時、自分に何が出来るのかを説明するのに必要であるから良いとして、スキルについては必要以上には教えない方がいい。一応注意しておくが、世の中には≪職業≫や≪スキル≫の力を私利私欲を満たすために使うような馬鹿者もいる」
「特に、希少な…所謂"ユニークスキル"と言われるような、悪用されたら大変な事になるようなスキルを得た場合は特にな。犯罪に巻き込まれないように、くれぐれも注意するんだ」
「補足しますと、センターにも自分の≪スキル≫全てを公開する必要はありません。ありませんが…もし何か悪用されたら不味そうなスキルを得た場合は相談して下さい。個人情報を漏らさない誓約をした上で、ご相談に乗らせて頂きます」
「それと、もし≪スキル≫を使って犯罪に当たるような行為をしている輩を見つけたら、直ぐ通報するようにな」
サリエさんと虎岩さんがそう言ってるのを聴きながら、僕は自分のDカードを見る。
色々突っ込み所はあるけど、職業がぬいぐるみ使い?トイボックス?クリエイト?それにこの…文字化けしてるっぽい「※△■」というスキル………どう考えても厄ネタじゃないですか?。
相談…するべきかなあ。
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