第3話 呪蝕
「すこぉおおお……すこぉおおお!」
客間に案内されたユンソは、老婆が用意した煎茶とかりんとうを気持ち程度口に運んだ後、スマホを手にしたままちゃぶ台の上に突っ伏して爆睡していた。
芸能界での多忙さに加え、いつ襲ってくるか分からない『発作』のせいで、連続した睡眠時間など皆無に等しかったのであろう。
それを知っていた老婆が毛布を携え客間に入ってきたところ、丁度
「旦那様…」
ずっと穏やかだった老婆の表情が曇る。
「呪蝕だ
……まだ『水走り』の段階だがな」
「やはり…そうでしたか
熱いものを冷たい
冷たいものが熱い
……奥様の時と同じです」
甚九が出した結論に対し、老婆が神妙な面持ちで返答する。
「死なせたくはねえ」
甚九は懐の数珠を握りしめると、自分に言い聞かせるように独りごちた。
―――翌朝
「『結界から出られない』ってどういうこと!?」
ユンソが三杯目のごはん茶碗片手に、今後の自身の処遇についてありったけの疑問を甚九にぶつけている最中だった。
「5メートル四方だ
呪いを遠ざける空間をお前の故郷に作る
しばらくはそこで……ゆっくりしてろ」
縁側でキセルをくゆらせている甚九が答えた。
「しばらくって……どれくらい?」
「……お前が寿命を全うするまで」
ユンソは空になったごはん茶碗をテーブルに置くと「ふぅ」と一息だけつき―――
「絶・対・に・イ・ヤ!」
そう抗議した。
人生の最も華やかな時間を監獄で過ごせと言われているようなものだ。当然の反応であろう。
が―――
「90日
……結界なしで人としていられる限度だ」
甚九は包み隠さず言う。
「……90日過ぎたらどうなるの?」
「お前自身が『呪い』になる
つまり呪いの被害者ではなく『呪いを発する加害者』になるわけだ
……もっともその時にゃ自我なんざ失われてるがね」
―――証明できる?
そう口にしかけたユンソであったが、以前、彼女が吐き出した邪悪な液体が
「あたしさ……
アイドルで生きてく人生しか考えられないんだ」
自嘲気味にユンソは語り出す。
「『MayHeaven』で私の人生始まったなって感じ?」
「歌はそんな得意じゃないけど、ダンスだけは絶対の自信あるし」
「うちにさ、ラナってインドから来たメンバーがいるんだけど
これまた笑っちゃうくらい完璧な子なんだよ」
「ダンスはもちろん歌唱力もピカイチ
それでいて超が三つ付くくらい頭の良い学校通ってるの
お前はバケモノかよってwww
あっ、もちろんフォロワーもラナが一番w」
「でもね……そんな超バケモノと私が同じステージに立ってるんだよ?
信じられる?
何も持ってなかった私がだよ?」
甚九がキセルの雁首をひっくり返し、それを手首に打つと「ポッ」と音とともに灰が散った。
「結界に閉じこもってるなんてイヤ」
「呪いになって自分がなくなっちゃうのは、もっとイヤ」
「だからさ……」
「私をステージに立たせてよ」
「90日経ったその時は」
「私を殺してもいいよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます