第2話 と、薄情なハーミー(こんな本を渡したトゥモが悪いのよ:ハーミー談)
王都ドンドン発プールリバ着各駅停車。
トゥモとハーミーが乗っている汽車です。
ドンドン駅にて喜び勇んで特急券を買いに行こうとするハーミーの肩を、トゥモがグイッとつかみました。
「何、無駄遣いしようとしてるんだ?」
「えっ。プールリバまで行くのだから、特急に乗るのが当たり前…」
なぜ制止されるのか理解できないハーミー。そんなハーミーの両肩をトゥモはつかんで、じっとハーミーを見据えます。
「その特急券買うのに、いくらかかると思ってるんだ?特急で行っても、各駅停車で行っても、どうせプールリバで一泊しなければならないのは同じなのだから、わざわざ特急で行く意味なんか無いだろう。つまらん無駄遣いしようとするな」
「えーっ!個室で優雅にティーサービス受けたかったのに!」
長旅を楽しくすごそうと考えていたハーミーは、ブーブー不満を垂らしました。
トゥモは、ハーミーをまるで穀潰しのように見下して、右人差し指でハーミーの額をグリグリしました。
「何だと。お前、どれだけ無駄なことをしでかすつもりだったんだ?そんなつまらんサービスを受けても、1ミリも健康に貢献しない。逆に不要な糖分を摂取することで、健康を害する恐れすらある。そんなの絶対に許さん」
「なによ。けち。あんただって、プールリバまで鈍行に乗ったら、絶対ヒマになって、特急に乗らなかったことを後悔するんだから」
「後悔なんぞしない。ヒマになって退屈するのは、お前のような考えなしだけだ」
「考えなしですって!天才科学者の私に向かって!そんな失礼なこと言うんだったら、このカバンの中身、ぶちまけてやるんだから!」
ハーミーは、肩から提げている無限収納カバンのクチを広げて、手を突っ込もうとしました。慌ててトゥモは、その手をつかみます。
「そう、そう、そう。お前は天才科学者だ。考えなしなんかではなかったな。そんな天才科学者のお前に、とっておきの本がある」
トゥモは背負い袋を床に下ろすと、中から一冊の本を取り出しました。
「錬金術師サム・ドリルの秘伝の書だ。つい最近、所在が確認されたレア本だ。天才科学者のお前だったら、興味があるのではないか?」
「ええっ!幻の本じゃない!!何であんたが、こんな本を持ってるの?」
「それは、ヒミツだ」
「まあ、いいわ。汽車に乗ってる間、読ませてもらうからね」
すでにルンルン気分になったハーミーは、それを暖かい目で見守るトゥモが、こいつ、ちょれーって心の中で舌を出しているなんて、思いもよらないのでした。
朝に乗車して、夕方に終着プールリバで降車した二人は、当面の宿を探します。駅員にお勧めを聞き、そこへ向かっている途中、道の脇でうずくまっている男の子を見つけました。誰もその子に目を向けません。ハーミーもその一人です。だが、トゥモはおもむろに、本を読みつづけるハーミーに近づくと、ハーミーの無限収納カバンに手を入れて、中からパンを2つ取り出しました。サラダがぎっちりつまったコロッケパンと、近くからでも香り漂うカレーパンです。それをトゥモは、うずくまっている男の子に与えました。
トゥモを見上げた男の子は、2つのパンを受け取ると、がっつくように食べます。それを見たトゥモは、男の子の隣に座ってニヤッと笑いました。
「クソうめェだろ」
……「パクリだな…」
「おい、ハラーヘッター。なんか言ったか?」
「作者は耳が遠いんだな。俺の声が聞き取れないとは。病院へ行って耳とアタマを診てもらったらどうだ?」
「ほお。そんなこと言うのか。何なら、この話の題名変えて、お前の出番を無くしてもいいんだぞ」
「うわ。横暴だ。パワハラだ。表現の自由の侵害だ!!」
「やかましい。話が進まなくなるだろうが。とっとと出ていけ!」
「パーワハラ!パーワハラ!……」
すみません。とんだジャマが入りました。
パン2つでお腹を満たした男の子は、ペコリとアタマを下げました。
「おいしいパン、ありがとうございました。勇者さまですよね。僕の名前はフェル。どうか僕を従者として、側に置いてもらえないでしょうか」
「は?何で俺たちが勇者だって、知っているんだ?」
トゥモは、その辺にいる一般人の服装。ハーミーは、ホグホーグ魔法学園の支援魔法使いの制服。端から見たら、とても勇者とは思えません。フェルはニコッと笑いました。
「これでも僕、神官なんです。聖女さまをお助けする勇者さまのことを、教会から聞いていました。どうしても勇者さまのお手伝いをしたいと思って待っていたのですが、日にちを間違って1ヶ月早く来てしまって。恥ずかしくてこの町の教会にも言いに行けず、困っていました。見つけてくれて、ありがとうございます」
再びフェルはトゥモにアタマを下げました。人数が一人増えるなんて想像すらしなかったトゥモは、少しばかり頭をかくと、深いため息をついて男の子を見ました。瞳をキラキラさせて無邪気に見つめられると、答えはひとつしかありません。
「事情は分かった。これから、よろしく頼むよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
さっきから本の世界にどっぶり浸かってこちらを見向きもしないハーミーを、二人はガン無視して話を進めたのでした。
トゥモは、いきなりハーミーから本を取り上げました。
「何するのよ!」
おたのしみを邪魔してきたトゥモに、ハーミーは怒りの声を上げました。それに対して、トゥモはさらに大きな怒りの声を上げました。
「何するのよ~って、それはこっちのセリフだ。さっきから部屋をどうするか聞いているのに、さんざん無視しやがって。宿に泊まるのが嫌なら、お前だけ野宿するか?」
「えっ?ここ、どこ?で、その子、だれ?」
キョロキョロ周りを見渡した挙げ句に、トゥモの側にいる男の子を見て、不思議そうにするハーミー。宿のロビーで、盛大にため息をつくトゥモとフェルでした。
いつの間にか第2話できてしまった。
構想も何もないのに、つづく…のか?
「はあ?構想がない?まさか、俺の設定、全くないなんて言わないだろうな?」
「い、いや、ハラーヘッター。お前の設定、ある……よ…きっと」
「おい、作者。目が泳いでるぞ」
「いやいや、泳ぐのはたいやきくんだ」
「なにごまかしてんだ。じゃあ言えよ、俺の設定」
「いや、それ言っちゃうと、今後の展開に問題が…」
「俺、主人公なんだよな。何でまだ出てこないんだよ」
「それも、企業秘密だ」
「おい、作者。逃げるな。逃げずにちゃんと説明しろ~!!」
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