第四章 ~旅行~

30話 旅の計画から

 いつもより、強い日差しで、目が覚める。


 肌触りの良いシーツをかき寄せながら、ぼんやりした頭で思い出す。

 ここは、首都ヴァイツの宿。ダンジョンから出た翌日。今は、もう、お昼。

 ぱちぱちと目を瞬く。どうやら、疲れて寝過ごしたみたい。

 今日は、これといった用事は無いかなと、考えながら起き上がる。


 ベッドから足を下ろすと、足裏にカーペットではない肌触りを感じる。

 膝の横から見下ろすと、ベッドの下からはみ出た、シルクとリルが見上げていた。

 足を上げると、するりスルリと順番に、ベッドの下に潜り込んでいった。

 ちょっとしたイタズラだろう。くすくす笑いながら「おはよ」と声をかけて、立ち上がり、欠伸をしたら少し体を伸ばす。


 体を流して着替えたら、ルームサービスで食事を頼む。

 仲間と旅の話しをするために、テーブルに地図を広げて声をかける。すると、ベッドの下からひょこヒョコ出てきて、私の両隣に集まって来る。


 地図を指さしながら、それぞれの説明から始める。

 私達がいるのは、大きく4つの地域に分かれた、グラナース大陸。

 東西に広く、南が尖って、北が丸いダイヤ型をしている。


 中央から東にかけて、大陸で一番、緑豊かなグラントール王国。

 今いる場所が、大陸中央にある首都ヴァイツ。その北東に都市アインがあって、さらに東に行くと開拓村。これが今までの旅の経路。

 開拓村の東には森がある。その森を東へ抜けると海に出て、さらに東に進むと、豊かすぎて危険な植生の列島がある。


 北の氷雪地帯のフローゲア。過酷な環境のため、人が住んでいる場所は少ない。

 雪に紛れるためか、毛皮が白く、もふもふしている野生動物が多い。その毛皮と、綺麗な水氷資源の産地。

 海には流氷が漂っていて、普通の船で進むことは難しい。砕氷船というものがあるらしいが、漁業や物流が主な用途だそう。

 そのため、ここには寒いことと、長期間の移動を覚悟して、陸路で行くことになる。


 西の高山地帯、メタリカ共和国。鉱物資源の産地で、鍛冶の国。

 大陸西部から南西部にかけて、長い山脈が連なっている。鍛冶の流派がいくつもあって、その代表達が国を纏めている。

 身の丈が低い草が生えている。野生馬や羊などが群れて生息していて、鍛冶の革素材になるらしい。なお、記憶に新しいワイバーンの主な住処もここ。


 最後に南の熱帯地域、ポルピカ公国。甘くて水分の多い果物と、温泉の観光国。

 街道が整備されていて、きちんと道に沿って移動したほうが良いと推奨されている。その分、旅行の日程も安定する国。

 理由は、道を外れると密林や沼が多くて、毒をもった蛇や大きな虫の魔物の生息地になっているから。 

 あと、ずっと南に海を越えていくと、とても大きな火山があって、周囲の海水が煮立っているらしい。この国が暑いのはそのためだとか。


 次の目的地はポルピカ公国するつもり。そう伝えると、お風呂好きなシルクは南のポルピカ公国行きに大賛成で、くるくるくるりと回りだす。

 リルは西のメタリカ共和国が気になった様子だったけれども、30日で戻るから、あまり見て回る時間がないよと話をしたところ、くるくる回るシルクをチラリと見て、ポルピカ公国行きに切り替えた。


 次に向かうのは、ポルピカ公国でもグラントール王国に近い、温泉街のアミータ。

 辻馬車を乗り継いで、片道6日ほどかかる計算。初めて国外への旅行になる。

 そう話を締めると、シルクとリルはバスルームに飛んでいった。待ち切れないらしい。


 窓の外を見ると、日差しが少し和らいでいて、ぽかぽかとした陽気。

 今日は、このまま部屋で過ごしてしまおうと、観光誌を取りに本棚に向かった。

 


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