第2話 白い雲のような自由

 急いでいるのは、〈ミンミ〉が所持している食料と水に、限りがあるのが大きな理由だ。


 それとは別に、俺のかんがもう少しで見つかるとささやいてくるんだ。

 だから俺は、怪しい場所を目がけ、幾多いくたのアンデットを蹴散けちらして猛進していく。


 そして、ついにそれはあった。


 淡い光をはなっている、優しい光だ、あははっ、やっと見つけたぞ。

 希望の光そのものだ、俺にまた青空を見せてくれる、一足早いお日様ひさまの光なんだと思う。


 「ほぅ、ありましたね。 本当に良かった。 これさえあれば、必ず救われます」


 「はははっ、〈ミンミ〉が手伝ってくれた、おかげだよ。 俺が人間に戻っても、聖なる宝玉を見つける手助けを、必ずするよ。 だから心配しないでね」


 「ふふっ、その心配はしてませんわ。 水と食料がきかけていますので、早く迷宮から出ましょう」


 「そうしよう」


 俺は少しでも早く、秘物〈竜骨〉を使用して、元の人間に戻りたかったんだけど。

 途中で出現するゾンビへの対抗として、ダンジョンの出口が近くまで、このままでいる事にしたんだ。


 骸骨人間にとって、ゾンビはザコだけど、人間にはやっかいなものだからな。


 「〈ザギイ〉さん、そこに空いている穴をのぞいてください」


 「えっ、この穴かい。 これは有名なトラップだよ。 間抜けな新人冒険者でも、引っかからない見えいた罠だ。 たしか、骨なしのスライムになってしまうらしいな」


 「くっ、私の想い人は間抜けではありません。 間抜けなのは、〈ザギイ〉、お前だ。えぃ」


 「あっ、何をするんだ」


 〈ミンミ〉は体全体を使い、覗きこんでいた俺を、渾身こんしんの力で穴の中へ突き落した。

 不意をつかれた事もあるが、女性が出せるとは思えない、すごい力だったため、俺は穴へと落ちてしまったんだ。


 「あははっ、骨と秘物〈竜骨〉が一度にそろったわ。 完璧だね。 愛しい〈ダロダ〉を元に戻す事が出来たわ」


 助けてやったのに、俺を裏切った〈ミンミ〉へ、俺は一言でもいいからののしってやりたかった。

 でも穴に落ちた瞬間、トラップと秘物〈竜骨〉が同時に発動したんだ。


 〈ダロダ〉という間抜けが、俺の骨と秘物〈竜骨〉で、人間へ戻ろうとしている。

 くそっ、もう少しで人間に戻れたのに、残念でならない、死んでも死に切れないぞ。


 〈ダロダ〉が俺におそいかかってくる、だけどコイツは、ぬめぬめとしたスライムだ。


 最弱だよな。

 俺は百年修行した剣豪だよな。


 ずんと、俺は〈ダロダ〉スライムを突き刺した。

 〈ダロダ〉はスライムのため、声を出せないが、「あぴょ」と寂しく鳴いたと思う。


 それだけで勝負がついてしまった。

 さすがは最弱だけはある、ある意味潔い良いさぎいい。


 その後、まばゆい光に包まれて、俺は人間に戻った。

 〈ダロダ〉の肉体と秘物〈竜骨〉の奇跡で、復活をげたんだ。


 感動よりも、驚愕だ、思考停止だよ、運も良かった。


 「あぁ、愛しい〈ダロダ〉。 私のために蘇ってくれたのね」


 「はぁ、バカが、違うよ。 俺はお前が裏切った〈ザギイ〉だ。 絶対に許さないぞ」


 「私は許してあげるわ。 中身が誰であっても、素敵な顔の〈ダロダ〉なら、それで充分よ。 問題なく愛せるわ。 中身なんか関係ない、外見だけが重要なのよ」


 「けっ、どうしてお前の方が許すんだよ。 おかしいだろうが」


 「ぐすん、怒らないでよ。 何でもするし、一生尽くすとちかうわ。 えへっ、私の愛しい人」


 なんだコイツは、かたよった考え方が、すごく気持悪いぞ。

 顔が良いのなら、何でも良いのか、俺と〈ダロダ〉は全くの別人だぞ。


 それを分かっているのに、平気で愛を語るのか、もはやこの女は化け物だ。

 外見至上主義(ルッキズム)のモンスターにしか見えない。


 こんな女に関わるのは、恐怖でしかない、早く逃げよう。



 俺は急いでダンジョンから、抜け出した、百年ぶりだよ。

 どこまでも青い空とかぐわしい空気が、俺を「こんにちは。お久しぶりですね」と歓迎してくれている。


 俺は嬉しくて、このまま空にけて、消えても良いと思ったくらいだ。



 だけど、俺はダンジョンに百年間も潜っていたんだ、家族も友人も、とっくの昔に亡くなっている。


 一人ぼっちだ。


 〈ダロダ〉の知り合いが、俺に話しかけてくるけど、全てがちんぷんかんぷんだ。


 「俺は〈ダロダ〉じゃない、〈ザギイ〉だ」

 と言うしかない、それが真実だからだ、嘘をいてもしょうがない。


 嘘は吐きたくないし、吐く理由も俺にはない、それに直ぐバレる嘘になる。


 だけど外側は〈ダロダ〉そのものだ、だから徐々に俺は変人扱へんじんあつかいをされ始めた。

 今では、狂ってしまった、と思われているらしい。


 「あはっ、私の愛しい人。 心配しないでね。 私だけは決して、あなたを見捨てないわ。 一緒に住みましょうよ。 その方が暮らしに余裕が出来るでしょう」


 百年もダンジョンに潜っていたから、皮肉な事に、俺はダンジョンで素材を集める仕事しか出来なくなっていたんだ。

 百年の時が過ぎて、世の中が大きく変わってしまった、俺は取り残されたんだ。


 生活はいつもギリギリなので、裏切った憎い女だけど、仕方なく受け入れる事にした。


 もうかまってくれる人は、この女しかいなくなった事もある。

 俺の事を〈ダロダ〉と呼ばないから、まだマシだと思うようにもなってきた。


 この女は〈ダロダ〉を愛してはいなかったんだ、この顔を愛しているんだな。

 だったら、今はこの顔の俺を愛している、と思いむ事にしたんだ、あきらめだよ。


 あの白くて丸い尻に、思い切りかぶりついて、みたかったのかも知れない。

 俺は色んなものに、えていたんだろう。


 「あん、私は聖女なのよ。 うふん、結婚するまでは純潔じゅんけつでいたいのに。 いやぁん、恥かしいわ。 はぁん、そんなところんじゃダメ」


 憎い女だから、俺は構わずガンガンといた、少しでも復讐ふくしゅうがしたかったんだ。


 「うふふっ、あなたの子供をさずかったわ。 きっとすごく可愛い子供よ。 頑張って二人で育てましょうね」


 うわぁ、生でやりまくったからな、当たり前か。


 俺は骸骨人間の呪いからは、何とか逃れられたけど、代わりにこの女の呪いを受けた気がする。


 どこまでも青い空を見上げて、「はぁー」と溜息を吐くしかない、あの白い雲のような自由は俺にはないんだな。


 人生は罠と呪いに満ちている、と思う。



  ― 完 ―

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呪いで骸骨人間になった、呪いは俺を一生離してくれない 品画十帆 @6347

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