第34話 西部都市セイタ

 バルチ帝国の北西に位置するガルタ王国がきな臭い動きをしだしてきた。

 皇帝によれば、急激に兵士を国境付近の町に集結させているらしい。


「セイタの町の常設軍が5千。帝都からも1万5千の応援を向かわせているのだが、バルチ側は5万の兵士を集結させつつあるらしい。」


「籠城戦とはいえ、この戦力差は厳しいですね。」


「だが、他の町の戦力を移動する訳にはいかんのだ。北のノストラに東のイーラどっちも動かない保証はないからな。」


「でも、戦力差をどうにかしないと侵略されてしまいますよ。」


「今、冒険者ギルドに掛け合って、冒険者の動員を依頼しているところなんじゃが。」


「冒険者を集めても、せいぜい500人いるかどうかじゃからな。」


「とは言っても、俺が戦に直接関与してしまうとバーランダーから変な横やりが……」


「でしたら、戦隊モノではどうでしょう?完全変装してればバレませんよ。」


「レイ……マジで言ってる?」


「はい。白タイツモッコリのニクマンジャー、赤タイツモッコリのアンマンジャー。個人的には黄色のカレーマンジャーが好きですけど。」


「チュウカマン戦隊か……マジでやるの?」


「はい!」


 チュウカマン戦隊というのは、子供にうけた戦隊シリーズの中でも低予算だったために、単なるタイツ姿で額の部分に具が飾られているというよく分からないコスが逆に受けたTV番組だ。

 レイたちは当然DVDで見たのだろう。

 予算が低い分、ギャグに特出しており、変身シーンも何故か試着室で着替えるというポンコツなところが受けたようだ。

 それを更にパロディー化した動画も数多く作られ、AV業界にまで影響していた。

 悪の帝国側は全員が黒タイツ着用という徹底ぶりで、色でしか敵味方を識別する事ができない。


 コスチュームはコスプレ用に市販されているので簡単に購入できた。

 

「ちょ、ちょっと、流石にこれは恥ずかしいわよ。」


「あらっ、紫のピザマンダーいいじゃないですか。とってもお似合いですよ。」


「しょうがねえな。ほらオプションのヒラヒラスカートもつけてやる。」


「だ、だって、体形がモロじゃないのよ!」


「大丈夫ですよ。ちゃんと絆創膏で上も下も隠したでしょ。」


「目のところに黒いカバーがついているから見えづらいし……」


「大丈夫。すぐに慣れますよ。」


 こうしてロンドたちは西の町セイタまで飛んだ。

 途中で移動中の1万人の兵団を追い越したが、とりあえず追い越していく。

 帝都からセイタまで約150km。

 大勢の兵士たちが進めるのは、1日でせいぜい20kmが限界だ。

 しかも、日が暮れる前には野営の準備を始める為、行動時間も限られている。

 つまり、約1週間の行軍なのだが、ただ歩く訳ではない。

 途中で魔物とも遭遇するし、先頭集団が魔物と対峙すれば、後続は徐々に停止して再度動き出すまでに相当のタイムロスが生じてしまう。


「上空から見ると、如何にムダな動きをしているか、よく分かりますね。」


「あれも、訓練の一環なんだってさ。戦闘中に各自がバラバラに動いたら、軍としての力が発揮できないらしいよ。」


「そういうところが、人間を理解できないところなのよね。」


「まあね。でも、集団体集団の戦では、個人プレーよりも集団をどれだけ思い通りに動かせるかかっているらしいよ。」


「知っます!それってヘーホーってヤツですよね。サンゴクシーちゃんってアニメで見たことがあります。」


「何か、アニメ凄いな……」


「ケクヨークの陣とか、色々あるんですよね。」


「多分、鶴翼の陣だな。だけど、鶴翼の陣は諸刃の剣でもある。兵力が分散してしまうため、一点に集中して中央突破されると脆く崩れてしまう……たしか、そんなふうにゲームで説明されていたハズ。」


「じゃあ、ヘーホーって意味ないのですか?」


「そうとも言えないけど、結局地形や兵士の力量に大きく左右されるし、兵士の士気とかも重要な要素だよね。」


「士気を高める方法とかあるんですか?」


「そうだなぁ、今回のケースで言えば、バルチ軍は敗れれば町が占領されてしまうから必至に抗戦するだろうね。」


「はい。」


「じゃあ、ガルタはどうかというと、倍以上の兵力があるから、気持ち的に楽だろうね。」


「それって……」


「舐め切って油断してくれれば、奇襲しやすくなったりするから、バルチに有利なように働く可能性もあるけどね。どっちにしても、下見して作戦を立てないとね。」


 ロンドたちはセイタの町を通り過ぎ、友利な戦闘の出来そうな場所を捜した。

 国境となっているのは、街道の一番高くなっている場所だと聞いており、町から約10km程の距離があった。

 地形的には国境から9km程はなだらかな下り坂となっており、一番低い場所を川が流れている。

 川は北から南へと流れており、そこから1km程の位置にセイタの町がある。


「国境から3km程のところが一番平地部分が狭いから、あそこで迎え撃つのが一番いいんじゃない?」


「広さからいったらそうなんだけど、陣地を構えた時に向こうが高い位置になるだろ。一気に来られた時に、勢いを止められなくなったら総崩れになっちゃうよね。」


「あなたはどう考えているんですか?」


「町からは近くなっちゃうんだけど、やっぱり川の手前で迎え撃つのが一番なんじゃないかな。」


「それは、危険すぎるんじゃないの?」


「だから、川の東側、つまり町側に擁壁を作って迎え撃つ。」


「擁壁?」


「そうだな、高さ8mで幅5m。川の西側を掘り返して川を広げて、その土で擁壁を作ればいいんじゃないかと思ってる。」


「でも、そうしたら山を登ってくるんじゃないの?」


「少なくとも騎士は止められるし、破城槌やバリスタなんかの大型兵器は使えなくなるだろ。それに、山にも対応策を施しておけば大丈夫だよ。」


「どんな策を考えているの?」


「擁壁近くの木を切り倒して隠れられないようにしたうえで、油を撒いて火責めにする。」


「油って……」


「流石にガソリンはヤバいから、灯油にしておくよ。」


「ガソリンは四駆の燃料よね。灯油って?」


「ガソリンみたいに爆発はしないけど、要はランプで使っている獣脂みたいなものだよ。」


「まさか、焼き殺しちゃうの!」


「まさか。戻れないようにして、降伏を促すんだよ。」


「それならいいけど……」


「さて、それじゃあ、サンプルの擁壁を30m分作っておこうか。階段付きで。」


「どうしてサンプル?」


「だって、決定は町の警備隊長と領主だからさ。俺は提案するだけだよ。」


 ロンドたちは川の西側を拡張し、東側に高さ8mの擁壁を30m分作った。

 擁壁の中央からはT字型に伸びた階段が敷設されている。

 そして、擁壁の西側上部はデコボコの壁面となっている。

 これは鋸壁と呼ばれる構造で、背の高い部分に身を隠しながら、低い部分で攻撃をする構造なのだ。


 この世界においては、最近取り入れられた構造みたいで、ロンドもまだ一部でしか見たことがない。


 そうして、ロンドはセイタの町へ入り領主サドラ・ド・ラーシュ伯爵に面会を求めた。 


「ほう、貴殿が噂のロンド君かね。」


「今、1万の軍勢がこちらに向かっていますが、陛下が気にかけておられるので一足先にまいりました。」


「いや、君一人が来たところで大勢に影響はないだろう。」


「えっと、先に下見させていただいて、対策を考えてみたのですが。」


「いや、どう対応するかは帝都のガール将軍が到着してから決める。戦の経験もない君に頼ろうとは思わないよ。」



【あとがき】

 まあ、16才の小僧に何かを期待しろという方がムリがありますね。

 チュウカマン戦隊はそうなるのか、乞うご期待。


We Are The World:https://www.youtube.com/watch?v=KRhyb2RRRb8



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