第35話 戦略

 領主は結局、警備隊長にもロンドを会わせなかった。


「まった、あの領主は何を考えているのでしょう。」


「別にいいよ。ガール将軍が到着すれば具体的に動けるだろうからさ。それよりも、ここのギルドに顔を出して、何もなければ町の様子でも見て歩こう。」


 ロンドたちは冒険者ギルドを訪れて冒険者証を提示した。


「Aランクのロンド様ですね。帝都ギルドから連絡は入っています。実績は足りないけれど、間違いなくSランクの冒険者だと。」


「帝都のギルマスが大袈裟なだけですよ。」


「いえいえ、帝都のギルマスは、体力こそなくなっていますが、瞬発力では帝都でも指折りの実力をお持ちです。そのギルマスが手も足も出なかったと聞いております。」


「あはははは。」


「レイ様だって間違いなくAランクで、ファラ様もBランクは間違いないと判断されたとか。すぐにギルマスに取り継ぎますのでお待ちください。」


 ロンドたちは待たされることなくギルド長の部屋に通された。

 セイタのギルマスは、クマのような大男だが、片目を眼帯で覆っている。

 それが原因で引退したようだ。

 簡単に挨拶を交わした後で本題に入る。


「町の様子はどうなんですか?」


「逃げ出すヤツこそいないが、相当怯えてるな。」


「確かに倍以上の戦力差ですからね。不安になるでしょう。」


「で、具体的にはどうするんだ?」


「それが、領主には会いましたけど、具体的な相談はさせてくれないんですよ。警備隊長にも会わせてくれないし。」


「ったくタヌキオヤジが!何を考えているんだ。」


 そこへドアがノックされ、若い事務員が入ってきてギルマスに耳打ちしていった。


「なあ、西から戻った冒険者から報告があったんだが、川のこっち岸に10m近い高さの砦みたいなのが出来てたらしいんだが……お前らの仕業かい?」


「ええ。川幅を50mくらいまで広げて、擁壁を川沿いに建てれば倍以上の相手でも互角以上に戦えると思いましてね。とりあえず、サンプルで30m分作ってみました。」


「そいつから言うには、昨日の朝、出発した時にはそんなもの無かったというんだが、何をやったんだ?」


「土魔法ですよ。川幅を広げるために掘った土を固めて塀にしただけですよ。」


「だけって簡単に言うが……待てよ、ジョゼはSランクだと言っていたが、そういう事なのか……」


「川を広げて擁壁をつくるだけなら、1日あればできますから、まあ、帝都からガール将軍がこっちに向かっていますから、到着してから相談しますよ。」


「擁壁ってのは、どれくらい作る気なんだ。迂回されてしまったら結局野戦になっちまうだろ。」


「両脇の山まで作りますよ。さっき見てきたらだいたい8kmですね。」


「8キロの擁壁を作るつもりなのか!」


「山の中まで伸ばすから実際には12キロきらいですかね。」


「そんなもん間に合わねえだろう……」


「大丈夫ですよ。3人でやりますから。」


「3人って……まさか、そっちのお嬢ちゃんも……」


「ファラも土魔法はマスターしてますから大丈夫ですよ。」


「……そうすると、平地部分には50mの川があるから、船とかを用意しないと渡れん……となると、山側からの攻撃か……」


「でしょうね。だから擁壁の近く、そうですね50mくらいは木を切ってしまって、隠れる事ができないようにしてやります。」


「た、確かに丸裸の山ならば隠れる事ができないし、戦闘も難しいな。」


「こっちは、足場のしっかりした擁壁から矢を放てますし、矢がもったいないので、もっと簡単な攻撃手段も考えてありますよ。」


「矢だと数に限りがあるし、向こうに武器を与えてしまうからな……。」


「まあ、俺にある程度任せてくれれば、被害を最小限に抑えてガルタを壊滅状態に追い込めるんですけどね……」


「領主と警備隊長と将軍次第って事か……」


「皇帝の前では、協力してくれるって言ってたんですけどね。」


「警備隊長は領主に逆らわないだろうし、将軍も昔ながらの規律を重んじるひとらしいからな、何を考えているか俺たちには予想もできねえよ。」


 それから3日が経過し、将軍の率いる1万の兵士がやってきた。

 町に入ってきたのは、将軍を先頭にした50騎の騎士たちだ。

 それ以外の兵士たちは、城壁の外で野営の準備に入っている。


 ロンドは一緒に将軍を出迎えたいと領主に申し入れたが、断られてしまった。

 そして、夜の歓迎の宴にも招かれない。


「まったく、何を考えているのかしら。」


「いいよ、俺たちは兵士と話しをしておこう。」


 ロンドは城壁の外にいる兵士に声をかけたのだが、驚いた事に将軍に代わって指揮をとる人間は野営地に残っていなかった。

 中隊長以上は全員騎士として領主邸に向かったのだという。

 仕方がないので、全小隊長に集まってもらい、1万人分の牛丼を取り寄せた。


「これは陛下からの差し入れです。足りなかったら言ってください、追加で取り寄せますから。」


「おお!ロンドさんの用意してくれた食事とは、陛下も粋な計らいを!」


「感謝しかありませんね。」


 小隊長68人は、ロンド達と一緒に牛丼を食べた。


「ロンドさん達は、どうやってここまで来たんですか?」


「俺たちは飛行魔法を使って、空を飛んで来れるんだよ。だから、先に下見をしておいたんだが、準備もあるから早く将軍と打ち合わせをしたいんだ。」


「それは心強い。セイタは初めてだという兵士も多いですからね。」


「それに、土地勘のある警備隊とも打ち合わせをしたいんだよね。」


「警備隊ですか……」


「どうかしましたか?」


「いえ……何でもありません。」


 ロンドには、兵士が何を言いたいか想像できていた。

 城の人間から聞いて、ある程度はガールという将軍の人物像は把握してあったのだ。

 それによると、ガールという人物は、自分の思い通りに進めないと気のすまない性格をしており、他人の意見など全く聞かない人間だという。

 それに加えて、戦功は全て自分のものとして報告し、不具合が起きれば下の者や外部のせいにする。

 だが、上に取り入るのがうまく、将軍になった時も、宰相を始めとする閣僚を見方につけていたからだという。

 ざっくり言ってしまえば、皇帝もその一人だ。


「まあ、俺も多少の情報は持っているよ。だけど、向こうは5万でこっちは2万なんだ。正面からやりあったら勝ち目はないと思うよ。」


「ですが、将軍がおっしゃるには練度はこちらが上だから、自分の指示通り行動すれば負けるハズがないと……」


「ったく、軍が負ければ、町に被害が及ぶんだぞ。」


「ご自身には神の加護があるのでと……」


「何だよソレ。自分だけ良ければいいってのかよ……」


「……将軍は、兵士を消耗品としてしか見てないんだって、みんな言ってます……」


「しょうがねえな……」


 ロンドは小隊長たちに自分の戦略を説明し、具体的にどう動くか打ち合わせを行った。

 そして全員にスリングショットを持たせ、中隊長以上に見つからないように練習しておくよう指示を出した。

 その夜、将軍たちは帰らず、翌日昼頃になって二日酔い状態で帰ってきた。

 当然、その日は小隊長以下の訓練で終わってしまう。


 即日には、町の有力者との会食とかで、上層部はまた町に出かけ、夜は戻らなかった。

 その間、ロンドは何度も将軍を訪ねたが、取り巻きに取り次いでもらえなかった。


「いい加減にしろ!俺は陛下から依頼されてここにいるんだぞ!」


「し、しかし、町の要人との打ち合わせも、重要な職務なのです……」


「お前ら、本当に戦争が迫っているという危機感を持ってるのかよ!」


 ロンドの怒りが爆発した。



【あとがき】

 さて、そろそろ動きがありそうですね。


 さて、ホイットニーヒューストンの代表作といえるI Will Always Love You。

 アルバムにしゅうろくされているこっちのリミックスの方が気に入ってます。

I Will Always Love You(Hex Hector Radio Mix):https://www.youtube.com/watch?v=ipMp49_6ikk

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