第33話 ファーラリア

 リーガ店長の妹エリッサは、栗色の髪をショートに斬り揃えた活発な女性だ。

 普段はおしとやかなイメージがあるのだが、切れると怖いらしい。


 エリッサはエルフと会うのが楽しみだったらしい。

 まあ、残念エルフではあるのだが……


 この世界のエルフは、おとぎ話に登場するような存在だが、婚活中のエルフはごく稀に見かける事がある。

 そんなエルフに、メリッサは憧れを抱いていたようだ。


 当然、エルフと対応するエリッサには、言語変換のアクセサリーが渡された。


「これを身につけていれば、エルフの言葉がりかいできるし、あなたの言葉もエルフ語に変換されて伝わります。」


「あっ、やっぱりエルフは言葉が違うんですね。」


「ええ。俺は勇者として召喚された時に、スキルとして言語変換の能力を授かったみたい……」


「えっ!ロンド様は勇者様だったのですか!」


「えっ?店長から聞いていなかったんですか?」


「お兄様はとても忙しくされていて、最近はあまり話しをしておりませんでしたので。」


「あっ、もしかして俺が口止めしてたからかな。」


「何で口止めされたんですか?もっとアピールすれば、大勢から尊敬されますよ。」


「そりゃあ、勇者だって言えばチヤホヤしてくれるだろうけど、期待も大きくなるよね。勇者なんだから助けてくれるのが当たり前とかさ。」


「そうかもしれませんけど……」


「だいたい、勝手な都合で無理やり召喚しておいてさ、国の為に働くのが当然とか勝手すぎると思わない?」


「えっ?」


「自分たちじゃムリだから、代わりに国を救ってくださいって、無責任なんだよ。まあ、バルチで召喚されたわけじゃないけどさ。」


「えっ?バルチで召喚された勇者様ではないのですか!」


「そうだよ。俺を召喚したのは海の向こうのバーランドって国で、あまりにも身勝手な事をいうから飛び出してきた。」


「……私にはよく分かりませんけど……」


「まあ、そんな事情だから俺が勇者だっていうのは、内緒にしてくれると助かるな。」


「はあ……承知しました。」


「まあ、そんな訳で俺には言語変換のスキルっていうのがあるんだけど、同じ事を魔法で実現させたのがこの魔道具なんだよ。」


「そう聞くと、勇者様と同じ能力を得られるって、凄いですね。」


「まあ、俺の師匠ってのがとんでもない人でさ。本人は23才とか言ってるけど、多分300才くらいなんじゃないかな。」


「えっと、外見的にはどうなんでしょう?」


「20代後半くらいに見えるかな。」


「ロンドさんの師匠っていうだけでも、凄い人なんでしょうね。」


「そうだね、とんでもない人だと思うよ。師匠がいなかったら、俺はあの国でピエロにさせられていたと思うくらいにね。」


「うふっ、こき使われているロンドさんも見てみたいですわ。」


「もしかして、エリッサさんってエスなの?」


「はて、エスとは何でございましょう?」


「……いい、忘れてください。」


「もしかして、サディスティックの事でしたら、私は嗜虐的な性癖はございませんと表明させていただきます。」


「知ってんのかよ!」


「そういう意味ですと、お兄様はエムの傾向が強いと断言させていただきます。」


「実の妹にエム扱いされるリーガが気の毒すぎる……」


「ですが、言葉攻めされると結構喜びますわ。」


「ああっ……やっぱり、そういう兄弟なんですね……」


「言葉のニュアンスが、エルフ語でどう伝わるか楽しみですわ。」


「お、お願いですから、子供たちには変なことを教えないでくださいね。」


「ですから、私にそのような性癖はございませんから大丈夫ですわ。」


「それで、お兄さんは侯爵令嬢の婚約を聞いて大丈夫だったんですか?」


「平気な顔をしていましたけど、枕を濡らしてたんじゃないですかね。」


「なんか、やっぱり貴族社会ってイヤだな。」


「うちも貴族ですけど、それなりに必要な制度だと思いますよ。」


「何でですか?」


「貴族がいなくなったら、みんな身分の事しか考えなくなりますよ。」


「えっ?」


「ロンドさんも言ったじゃないですか。国の為に働くのが当然とか勝手すぎると思わないかって。」


「それは勇者の事ですよ。」


「貴族に対する国民の考え方も同じですよ。貴族なんだから国の為に働くのは当然って事です。」


「それって……」


「だから、多少傲慢なところがあっても、国を動かしてくれるのだから仕方ないって事ですよね。」


「依存って事か……」


「そんな人民の中から、国を任せられるような人間が出る事は可能なのでしょうか?」


「えっ?」


「ロンド様が皇子と話していたのを聞いていた者がおりましてよ。」


「……まさか……」


「ご用心なさってくださいね。貴族の中で多少広まってしまったようですので。」


「……貴族の反発……ですよね。まあ、皇子に話したのですから、隠し通すつもりもないですけどね。」


「そういう先入観を持たない孤児達なら、貴族に対する依存もない。小さいうちから文字や計算を覚えさせれば、貴族の子も平民の子も違いはないと証明された。」


「そうですね。」


「その子たちに、町づくりをいちから教えていく。確かに効果的かもしれませんね。でも、人には欲がありましてよ。」


「それも理解しています。でも、俺の生まれた国では、15,000以上昔からお互いに支えあう村を作り、10,000年以上争いのない政治を行ってきました。」


「そのような村が本当に作れると思っているのですか?」


「人間なので欲を持つのは当たり前です。でも、個人の欲よりもみんなで思いやって暮らす方が優先されるような気持ちになれれば……」


「そんな夢みたいな事ができると、本気で思っているとしたら驚きですわ。」


「不可能じゃないですよ。その第一歩がシラスという統治方法なんです」


「シラス?」


「国を持つ王がいて、王は政治を代行する者を選んで、その代行者が政治を執り行う。国民は王から預かった財産だから、代行者は国民のための政治を行う。そんな感じです。」


「王は何で自分で政治を行わないのですか?」


「自分が独裁者にならないように、そういう方法を考えたみたいですよ。」


「その考えは……私には理解できませんが……」


「そうですね、現実的には、早速エルフなんて言う不確定要素が割り込んできましたからね。」


「となると、そのエルフも躾けてよいのですね。」


「まあ、お手柔らかにお願いします。」


 不確定要素といえば、このエリッサもそうだろう。

 一見お嬢様気質のように見えるものの、実は女王様タイプなのかもしれない。

 ロンドから見れば、師のアリシアと同類の女性ではないかと思えている。

 なにはともあれ、こうしてロンドの町づくりはスタートした。



 子供たちに教える魔法は、飛行魔法や障壁・瞬間移動までとして、バーター(物々交換)やアポート(物体引き寄せ)などは教えない事にした。

 必要なものがあれば、バルチ帝国の町へ行って購入すればいい。

 瞬間移動があれば困らないだろう。


 そして、エリッサとエマが急激に仲を深めていった。

 週に一度、店を開くときもエマを連れていくようになった。


「何だ、姉さんは子持ちだったのかよ。」


「そうですよ。この子は耳が聞こえない分、邪な事を考える人は分かっちゃうんですよね。」


「俺たちエルフは善人ばかりだぜ。心配はいらねえよ。」


「そうやって、自分が安全だってアピールする音が一番危ないんですよね。」


「そりゃあ、そうかもしれないな。」



【あとがき】

 町としての第一歩。


 クラシックも聞くんですけど、定番ともいえる「運命」。

 時々、無性に聞きたくなります。

 CDも相当数揃えましたけど、今はネットでいくらでも聞けるのでいいですよね。

 PC周りの場所が狭いうえに、モニターを2枚並べてあるので、スピーカーはモニターの後ろから鳴らしてます。

 だから臨場感は薄れちゃいますけど、今はONKYOのシステムからスピーカーだけ外して鳴らしてます。

交響曲第5番:https://www.youtube.com/watch?v=QVe9hz4GdTU

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