魔王「お前達は増えすぎたのだ、だから我が間引いてやるのだ…」勇者「ああ、もうやっといたわ」

東タイキュウ

 

魔王「我が城に単身乗り込んで来たのは見上げた勇k…」


魔王「…え、今なんて言った?」


勇者「だから、もう間引いたっつーの」


魔王「…は?」


勇者「とりあえず千人な」


魔王「…いや…んん? 嘘だろ?」


勇者「ちょい待ってろ…」スマホポチポチ



———————————————————



勇者「ほれ、証拠画像」


魔王「ヒィッ!」


勇者「千人分の指と自撮りしたった」


魔王「お、お前…何て恐ろしいことを…」ガクガク


勇者「なんならこの指、全部お前ん家に着払いで送ろっか?」


魔王「い、いらぬ!」


勇者「そっか…」



———————————————————



魔王「何でそんなことを…」


勇者「いや、お前だってやろうとしてたじゃん? 『増えすぎたから』って」


魔王「我は魔王だが、お前は勇者じゃないかっ!?」


勇者「何お前、魔王のくせに『人を殺しちゃダメ』とか言うのか?」


魔王「そ、そんなつもりは…」


勇者「分かったか、ん? それならいいわ」


魔王「はい………」



———————————————————



勇者「じゃあ、もういいよな?」


魔王「え、何が?」


勇者「これ以上、間引く必要ないよな?」


魔王「い、いや…その…」


勇者「足りないか? もう千人イッとくか?」


魔王「やるな! やらんでいい!」


勇者「えー、だってお前今、不服そうな顔したじゃん」


魔王「違う、そういうことじゃない!」


勇者「じゃあ、オッケーだよな?」


魔王「え、えっと…」


勇者「必要ないよな?」


魔王「あ、はい…」



———————————————————



勇者「そっか、じゃあ用は済んだしオレ帰るわ」


魔王「…え、戦わないのか?」


勇者「だって、もう戦う理由ないじゃん?」


魔王「それはそうだが…」


勇者「俺っちのロインID教えとくから、何かあったら連絡しろよ」

(※ロイン:ラ〇ンのこと)


魔王「え…ちょっと待…」


勇者「そんじゃな〜」バタン


魔王「………」


魔王の手下「………」


魔王「アイツ絶対おかしいよ…」


魔王の手下「おかしいですよね、着払いは」


魔王「お前もおかしいよ…」



( ~ 数日後 ~ )



魔王「………」ゴロゴロ


魔王「…やることがなくて暇だ」


手下「魔王様」


魔王「!」ムクッ! ガバッ!


魔王「む、何だ手下よ?」キリッ


手下(ゴロゴロしてたのバレバレなんだよなぁ…)



———————————————————



手下「勇者からロインが来てました」


魔王「何で登録してんだよ、我は敢えてしなかったのに…」


手下「なんでも…『王様に指の件で詰問されているから、

   魔王の名前を使う許可をくれ』とのことです」


魔王「ハァっ!?」


魔王「だめだ駄目だダメだっ、許可など出せん!」


魔王「そもそも我、やってないですし!?」


手下「では、そのように返信いたします」ポチポチ


手下「………」ピロリン


魔王「どうだ?」



———————————————————



手下「『もう使っちゃったわ、ワリィ(笑)』との返答が…」


魔王「あんのクソガキィっ!!」


魔王「こういうのは事後承諾! 事後承諾って言うんだ!!」


手下「ええ知っています、だから落ちついて下さい」


魔王「落ちついていられるかっ!」


手下「!」ピロリン


魔王「なんだ、また勇者か?」


手下「ええ…『王様が魔王に激おこでバリくそウケるw』とのことです」


魔王「ちっとも面白くないわ!」



———————————————————



手下「それと魔王様…」


魔王「何だ?」


魔王「!」ティロティロティロン


魔王「な、何ごとだ? 我のスマホが沢山鳴っておるぞ!」


手下「『SNSで拡散しちったわ』とのことです」


魔王「何だと!?」


(ティロティロティロン!!)


魔王「あわわわ、鳴り止まんっ!!」


手下「スマホを失礼…これは…」


魔王「な、何だ! 言ってみろ!」


手下「…炎上してますね」


魔王「   」


手下「内容は…」



———————————————————



『魔王軍のコンプラどうなってんの?』

『指を集めるとか古くてダッサ~~~』

『ジョジョのパクリ? 勃起してんのか?』

『千人分の指(笑) 中二病は15歳で卒業しとけ』


手下「こんな感じです」


魔王「あば、あばばばば…」


手下「勢いヤバいですね…トレンド一位になりそうです」


魔王「   」



———————————————————



( ~ 一方その頃 ~ )



王様「魔王め…なんということを…許すまじ…」


勇者「ヤベー奴っすよね」


勇者「ん?」ティロリン


勇者「お、魔王から連絡だ」


王様「な、何だと!」


勇者「うっす、魔王元気ぃ?」


王様(…魔王と距離近くない?)


魔王「勇者ぁーーーーっ!!!」


勇者「お、元気じゃん、どうした?」


魔王「どうしたもクソもあるか!?」


魔王「指の件だ! どうしてくれるんだ!!」


勇者「良かったじゃんバズって」


魔王「良くない!!」


魔王「お前のせいで我は『変態指野郎』とか

   『14歳』って呼ばれているんだぞ!?」


勇者「うわーカッケー、二つ名って奴じゃん」


魔王「違うわ!!」


勇者「今さ、王様と一緒にいるんだよ」


魔王「大体お前は…んんっ、王様と?」


勇者「話したことなかったよな、代わるわ」


王様(代わるの?)


魔王「え、ちょ…」


王様「…もしもし、どうも、王様と申します」


魔王「え、あ、はい…魔王です」


王様「今回の一件、これは一体どういうことですかな?」キリッ


魔王「いや、これは違うんだ」


王様「違うんだ?」ギロリ


魔王「あ、ひゃい、しゅいません! ち、違うんです!」アタフタ


勇者(敬語になっててウケるわぁ~)


王様「勇者から聞きましたよ」


魔王「な、何をですか?」


王様「貴方、笑いながら指を一本一本切り落としたんですって?」


魔王「!!?」


魔王「そ、そんなことはやってない、神に誓って!」


王様「神に…?」


魔王「ひゃっ、違います! ま、魔神! 魔神に誓って!!」


魔王「ちょ、ちょっと手下と相談をさせて下さいっ!!!」


魔王「待たせると悪いので折返します!!」ガチャ


王様(折返すの?)


王様「…電話、切れちゃったよ」


勇者「きっと魔王も色々大変なんすよ」



( ~ 魔王城 ~ )



魔王「て、手下よ、どどど、どうする!?


魔王「王様すごい怒っていたぞ!?」


手下「落ち着いて下さい魔王様、そんな奴は怒らせてナンボです」


魔王「はっ! そうだった…そうであった…」


魔王「我くらいの立場になると普段怒られることないから、

   つい動揺してしまった…」


手下「意外とメンタルが弱いんですよね」


魔王「弱くない!」


手下「失礼、繊細な心をお持ちなんですよね?」


魔王「一緒、言い換えただけ! 意味同じ!!」


手下「とりあえず、指の件は…」


手下「調査中の旨を魔王軍の公式サイトにアップしましょう」カタカタ、ターンッ!


魔王(は、早い! なんという華麗な指捌き!)


手下「それと、王様はどうやら勇者に言いくるめられているようですね」


魔王「う、うむ…」


手下「急いで勇者が王様に伝えた内容を確認しましょう」


魔王「そ、そうだな…」


魔王(そういえば…スルーされたな、さっきの我のツッコミ…)



( ~ 王様のお城 ~ )



勇者「…そんでぇ、魔王城は断崖絶壁にあってぇ」


王様「うむ…」


勇者「崖にはキラキラ光る貝がいてぇ、焼いて食ったら馬鹿ウマでぇ」


王様「そうであるか…」


勇者「まぁ、ちょっとしか取れなかったし、

   中に丸くて黒いゴミが入っていたのは邪魔だったけどなぁ」


王様(む? それはもしや…)


勇者「ん、王様ナンか言いたげじゃね?」


王様「そのようなことはない」


勇者「お?」ティロリーン


勇者「ロインっす、ちょっとすんません」


王様「よかろう」


王様(…勇者、早く帰んないかなぁ)


勇者「ん~、魔王からか…」


勇者「『お前は王様に何て伝えたんだ、説明を要求する!』だって?」


勇者「…ウッザ、アイツ俺の上司か何かかよ」


勇者(色々盛って王様に伝えちまったしなぁ…)


勇者(ラインに起こすのはドッチイわ…)


勇者「王様そんじゃ、オレっち用が出来たから帰るわ」


王様「うむ、よかろう」


王様(やっと帰るよ…)



———————————————————



勇者「おーい、賢者ぁ」バターン!


バキッ! ドカーンッ!!


賢者「ひぃっ!」


勇者「おー、開いた開いた」パラパラ…


賢者「いつも、いっつも…」


賢者「ドアを蹴り破るなって、言ってますよね!」


勇者「鍵を掛けとくオメーが悪いわ」


勇者「しっかしオメェ…そんな態度取っていいのかアァン?」


勇者「このサキュバス女装コスプレ写真、ネットにバラまいちまうぞ?」スマホポチ


賢者「それは貴方が無理矢理着せて、勝手に撮ったんでしょう!」


勇者「お、反抗的だなぁ…とりあえず一枚目行っとくかぁ?」


賢者「ひぃ! やめろっ!!」


勇者「あぁ〜、今にも指が滑っちまいそうだぜぇ〜」スイッ! スイッ!


賢者「分かった! 言う事を聞くから、やめてくれぇ!!」


勇者「チッ、最初からそう言っときゃいいんだよ」


賢者(コイツ…いつか絶対に酷い目に合わせてやる…)


賢者「…それで、今度は何をすればいいんですか?」


賢者「この間、私が作った指の偽造画像…あのような物がまた必要なんですか?」


勇者「おお、アレはいい出来だったぜ」


勇者「おかげでよ、魔王も王様も世間もすっかり騙されちって…」


勇者「クックックッ…今じゃ魔王のSNSは絶賛炎上中だぜ?」


賢者「そうですか…」


賢者(…コイツ、本当に勇者なのか? 詐欺師の間違いじゃないよな?)


勇者「だがよ、今必要なのは写真じゃねぇ」


賢者「画像は必要ない? それでは今度は一体何を…」


勇者「おう、今必要なのはな…」



( ~ その日の夜 魔王のお城 ~ )



魔王「………」ソワソワ


魔王「むぅ…勇者からの返事、まだ来ないな…」


手下「ロインしてから結構時間が経ちましたね」


魔王「クソ…勇者め、返事もよこさず一体何をしているんだ…」


???「たのもオ゙ォ゙ォ゙ーーーッ!!!」


魔王「!」ビクッ


魔王「な、何だ? 牛型モンスターが悲鳴でも上げているのか?」


手下「城門に誰か来たみたいですね」


手下「私は手が離せないので魔王様見てきて貰えますか?」


魔王「えぇ…仕方ないなぁ…」



( ~ 城門のお外 ~ )



魔王「誰だこんな時間に、静かにせい」ギィィ…


???「これは失敬ィッ!!!!

    大きな声を出すのは我輩のモットーでなぁっ!!!!

    分かったッ!!!!! 声量を落とそうッ!!!!!!」


魔王「!!!」耳キィィィンッ!!


魔王(コイツ、分かってない!)


魔王「あの、だから…」


???「ああ、我輩かッ!!!?

    我輩は『東方より昇りし明けの明星、偉大なる栄光の聖騎士』という者

    だぁッ!!!!」


魔王(ひぇっ…)


聖騎士「ここに千人の指を切り落とした極悪な魔王がいると聞いて

    馳せ参じた!!!! 

    悪辣非道な悪漢は我が剣の錆にしてくれようぞッ!!!!!」


魔王「………」


魔王「少々お待ち下さい…」パタン


聖騎士「取り次を頼むぞおぉぉ、お嬢ちゃんっ!!!!」


聖騎士「ハアァーーッハッハッ!!!!!😄」



———————————————————



魔王「手下ぁっ、なんか変な奴が来たぞっ!?」ダダダッ


手下「ここまで聞こえて来ましたよ…お引き取り願って下さい…」ゲンナリ


聖騎士「ここかアァァァーーーーーーッ!!!」バゴーン!


魔王「うぴゃあっ!!!」


手下「!!」


魔王「ななな、なに勝手に入って来てんだっ!?」


聖騎士「我輩の邪悪センサーを頼りに城内を辿ってみればァッ!!!

    ここには悪い魔王のニオイが充満しておるぞぉッ!!!!」


手下(うわぁ…城門からここまでの壁、全部穴が空いてる…)


聖騎士「むむむ、そこなるお前ッ!!!

    お前から濃い邪悪な気配を感じるぞっ!!!!


手下「…え、私ですか?」


聖騎士「貴様が残忍で非道たる極悪の魔王かっ!!!!」


手下「違いますけど?」


聖騎士「なぬっ!!!?」


手下「こちらのちんちくりんが魔王様です」


魔王「!!?」


聖騎士「なんだと、そのチビッ子が魔王であるとっ!!!??

    先程は我輩を騙したのかッ!!!!?? 卑怯者めッ!!!!!」


魔王「チビッ子言うな! お前が勝手に勘違いしただけだろっ!!」


聖騎士「ぬぅ、これは困ったぞおォッ!!!!

    我輩には弱い者イジメをする趣味はないのだッ!!!!!」


手下「………」カチン


手下「無礼者が…あまり魔王様を舐めないで下さい…」


手下「繰り出す攻撃は目にもとまらぬ速さで、

   モンスター達からは”閃光の魔王”と畏怖されているんです!」


魔王「!」


魔王「そ、その二つ名は出すな! 恥ずかしいんだ!!」


聖騎士「む…? 変態指野郎が二つ名ではないのか…?」


魔王「違うっ!!」



———————————————————



魔王「ってい!」ビュン


聖騎士「ぐわあぁぁぁッッ!!!!」ドカァンッ


手下(あ…初代魔王様の肖像画が…)


魔王「とりゃあっ!」ビュン


聖騎士「ぬぐわあああぁぁぁッッッ!!!!」バリィン!!


手下(ああ…今度はシャンデリアが…)


魔王「ふむ、まるで赤子の手をひねるようだな」


魔王「なぁ、聖騎士と言ったか?

   弱い者イジメをしたくないのは我も同じだぞ?」ニヤニヤ


聖騎士「っクッソオォォォッッッ!!!!!!」


手下(いちいち声がうるさい…)


聖騎士「グゥゥゥッ!!!! これで我輩に勝ったつもりかアアァッ!!???」


魔王「む、負け惜しみか?」


聖騎士「断じて違うッ!!!」

    全てにおいて貴様が勝っているように見えるがッ!!!!!

    我輩に負けていることが一つだけあるッ!!!!!!」


魔王「なに…?」


聖騎士「それはッ!!! 声の大きさだッ!!!!!!!」


魔王「…手下、早くコイツつまみ出して」


手下「御意」



( ~ 数日後、魔王のお城 ~ )



魔王「うぐぐ、勇者からの返事がまだ来ないぞ…」


手下「来ないものは仕方ありませんよ、夕餉にしましょう」


魔王「そうだな…」


魔王「…ん?」


魔王「手下よ、これは?」


手下「カレーうどんです」


魔王「カレーは嫌いじゃないが、昨日もカレーだったじゃないか…」


魔王「今日もカレーなのか…」ショボン


手下(カチン)


手下「…魔王様のせいですよ」


魔王「え?」


手下「先日、閃光の魔王サマがその御威光を十二分にご発揮され、

   城内を壊しまくったからです」


魔王「うっ!!」

   

手下「節約をする必要があるんです」


魔王「す、すまん…」


手下「………」ズルズルー


魔王「………」モグモグ


魔王「はぁ………」


魔王「炎上は止まらないし…変な奴は来るし…手下には怒られるし…

   勇者はずっと既読スルーだし…」


手下「魔王様、食事中にスマホを触るのは止めて下さい」


魔王「くうぅ…勇者のせいで我は散々ではないか…」


手下「落ち着いて下さい、カレーうどんの染みができますよ」


魔王「…我の存在意義って何だ?

   カレーの染みよりもこの世に痕跡を残せていないんじゃないか?」


手下(うわぁ…魔王様、メンタルがザコ過ぎぃ…)


手下(もう面倒だからテレビでも付けよ…)ピッ


手下「…ん? 魔王様、勇者がテレビに出ていますよ」


魔王「な、なに?」


魔王「アイツは我のことを無視して何をやっているんだ!」


手下「え~と…本を出版するとのことで、その宣伝のようですね」


魔王「下らんな!

   そんな暇があるなら我に言い訳の一つでも寄越すべきだ!!!」


手下「タイトルはええと…」


手下「『魔王城と千本の指 ~魔王はどうやって指を狩ったのか?~』??」


魔王「ブッフォオオオッ!!」(噴飯)


手下「ひぃっ!」


魔王「ななな、なんだとぉっ!!?」


手下「染みがっ! 私の服にカレーの染みがっ!!」



( ~ 勇者のお家 ~ )



勇者「お~、賢者に徹夜で書かせた本は無事に出版されるみたいだな~」


勇者「あ〜、ネットで人を煽りながらアオる酒はサイコーだわぁ」グビグビ カタカタ


(プルルルル!!)


勇者「お、魔王から電話だ」


勇者「おーっす魔王」


魔王「おーっすじゃない!」


魔王「今お前がテレビに出てて本を出すって…

   一体どういうことなんだ!?」


勇者「あぁん?」


勇者「オメーが王様に説明したことを説明しろって言ったからさぁ…」


魔王「あぁ、それは言った!」


勇者「それを本にして出版したったんよ」


魔王「それは言ってない!!」


魔王「お前のせいでスマホが低周波マッサージ機みたいになっとんじゃあ!」ブルブル


勇者「通知切ればいいじゃん?」


魔王「え?」


魔王「な、何だ手下よ…こうすればいいのか?」ゴソゴソ


魔王「…と、とにかくお前のせいでな、てんやわんやだ!」


勇者(今、通知切ってたな…)


勇者「まぁ、王様に説明したことは本に書いてあっからさぁ、読んどけよ~」


魔王「貴様、何だその言い草はっ!?」


勇者「そんじゃなー」


魔王「あ、オイ待て!!」


勇者「ポチッとな」ピッ!


勇者「…さて、煽りの続きをやるかぁー!」カタカタ


『魔王ってマジでアホだよなぁw』

『魔王に失望しました、ファン辞めます』

『魔王が14歳ってマジ?』


勇者「あー、酒がウメェー!!」



( ~ 魔王のお家 ~ )



魔王「信じられん、アイツ切りおった…」


魔王「クソが、もう一回掛けてやる」


(プルルルル…プルルルル…)


魔王「………出んし!」


手下「いいように振り回されてますね」フキフキ


魔王「…手下は何で半裸なんだ?」


手下「魔王様に服を汚されたからですよっ!?」(怒)


魔王「ひっ、怖ぁ…」


(プルルルルル!!)


魔王「お、勇者からか…」


魔王「…じゃない、取引先のダンジョンからだ」ピッ!


魔王「もしもし、今忙しいk」

ダンジョンのボス「テレビとネット見ましたよぉ、どうなってんですかぁ!?」


魔王「!?」


ボス「指の炎上の件ですよぉ、魔王様もご存知でしょう!?」


魔王「し、知っている! 知っているのだが詳細は分からんのだ!!」


ボス「かーっ! 魔王様もそんな感じなんすか!」


魔王「なにぶん勇者が勝手にやったことでな、我も困っておるのだ」


ボス「そうは言いますけどねぇ…」


ボス「ほら、ウチはマグマ系のダンジョンじゃないっすかぁ」


魔王「…む、そうだな」


ボス「ワシは『洞窟内を炎上させた方が、冒険者を楽に始末できますよ』って

   言ってたじゃないですかぁ?」


魔王「うむ…」


ボス「でも、魔王様は『炎上はさせるな』って言ってたじゃないっすかぁ!?」


魔王「そ、そうであるな…」


ボス「その魔王様が炎上させちゃって…どないするんですかぁ?」


魔王「ぐ、ぐぬぬ…そ、それは…」


ボス「まぁ、このままだと契約解除ですな」


魔王「な、それは困る!」


ボス「我々もモンスター達(に冒険者)を食わせていかなアカンのですよ」


ボス「悪評が立って冒険者が来なきゃオマンマ食いあげやで、ほいでな」


魔王「ま、待ってくれ!」


(ピッ!)


魔王「…切られてしまった」


(プルルルルル!!)


魔王「また電話だ、今度は毒の沼から…」


(プルルルルル!!)


手下「あら、私の方にも電話が来ましたよ?」


魔王「あわ、あわわわ…」


(プルルルルル!!)


手下「電話止みませんねぇ…

   魔王様、これは何かしら手を打つ必要がありますよ?」


魔王「ん、んあぁぁぁぁ…」


(プルルルルル!!)


手下「どうしますか?」


(プルルルルル!!)


魔王「…ねぅ」


手下「は?」


魔王「スマホのでんげんきって、ねる!」


手下「はぁっ!?」


(ピッ!)


魔王「おやすみっ!!」


手下「…」


手下(現実逃避した…)



( ~ 王様のお城、深夜 ~ )



衛兵(夜間の見回りは少し怖いな…)


衛兵(次は玉座の間か…)


衛兵(昼間は賑やかだが…今はこんなにも静まりかえって、不気味だな…)


(ゴソッ)


衛兵(誰かいる!?)


衛兵「そ、そこにいるのは誰だっ!?」


王様「私だ」


衛兵「お、王様!? いらっしゃったんですかっ!!?」


王様「…眠れなくてな」


衛兵(不審者じゃなくて良かった…)


衛兵「夜はまだ寒いのでお体に障ります

   ささ、私めが寝所へ案内します…」


王「うむ…」


衛兵(王様はきっと、指の件で胸を痛めているのだ…お労わしや…)


王様(…魔王からの折返し、まだ来ないなぁ)



( ~ 翌日、魔王様の寝室 ~ )



魔王「………」チュチュン…チュンチュン…


魔王(起きぬけにスマホの電源を入れ直したら、エライことになっているな…)


魔王「…炎上の 悪しき夢から まだ覚めぬ by魔王」


手下「一句読んでる場合ですか」


魔王「うわぁ!」ガバッ


魔王「手下よ、いたのか!? ノックをしろ、ノックをっ!!」


手下「何度かしましたよ、魔王様が一句読むのに夢中で気付かなかっただけで」


魔王「ぬ、それはすまぬ…」


手下「…はぁ、朝からクソポエム聞かされるこっちの身にもなって下さい」


魔王「ぴぇん…🥺」


手下「それよりも魔王様、今朝ポストにこんな物が入っていましたよ」


魔王「む、なんだ? …な、これは!」


魔王「『魔王城と千本の指』ではないかっ!?」


手下「献本ですね」


魔王「はっや! 本が出来るの早過ぎるだろ!!」


手下「今の世の中、こんなにも爆速で本が出来るんですねぇ~」


魔王「感心している場合か!」


魔王「…まぁ良い、これでやっと勇者が王様に話した内容の確認ができるな」


(ペラリ…ペラリ…)


魔王「むむむ…」


魔王「何だこの内容は、手下はもう読んだのか?」


手下「はい、一通りは」


手下「まさか魔王様があんな過激な下着を身に付けているとは…

   手下めは知りませんでした」


魔王「嘘っぱちだ!

   お前はいつも洗っているから知っているだろう!?」


手下「ええ、スライム柄の奴ですよね?」


魔王「わざわざ言わんでいい!」


魔王「大体、過激な下着を身に付けているのは手下の方じゃないか」


手下「ウフン♡」クネリ


魔王「…うわ、怖っ! お前それ、我の前で二度とやるなよ」


手下「………」


魔王「しかし、勇者のクソボケ野郎…嘘八百ではないか」


魔王「これでは我も動かぬ訳には行かぬな、ククク…」


手下(おお、とうとう魔王様が…)



( ~ 王様のお城 ~ )



衛兵「王様、大変です!」


王様「どうした?」


衛兵「ま、魔王が手下と共にこの城に!」


王様「何だと! それでどうした!?」


衛兵「手土産を渡されたので…」


王様「ほう…」


衛兵「応接間にお通しして、お茶を出しました」


王様「気が利くね」



( ~ 王様のお城、応接間 〜 )



手下「王様が来たら立って挨拶して下さいね」


魔王「分かっておる!」


手下「緊張してませんか?」


魔王「し、してない!」ブルブル


手下(…これはしてるな)


(バタン)


魔王「!」ガタッ


王様「ようこそお出でになった」


魔王「い、忙しい政務の間に暇を頂いてすまぬ!」


王様「遠路はるばるお疲れだろう、そちらのソファーにかけてくれ給え」


魔王「お、お気遣い感謝する」ボフリッ


手下(何か面接みたいですね、これ…)


王様「…それで、本日はどのような要件で?」


魔王「他でもない、指の件だ」


王様「ほう…」


魔王「勇者が出版した本の内容はデタラメだ、我の認識とは齟齬がある

   真相をつまびらかにしたい」


王様「そうか…」


王様(…勇者はあの大雑把な性格であるからな、さもありなん)


王様「それで? いかんとする?」


魔王「……」チラッ


手下「……」コクリ


魔王「会見を開きます」


王様(開いちゃうの?)


手下「こういうのは初動と誠意が大切だと伺っております」


王様(こいつら倫理観しっかりしてんなぁ…)


魔王「そこで、王様には力添えを頂きたいのだ」


王様「…そうは言ってもな、我々は敵同士だ」


魔王「手下よ」


手下「こちらをどうぞ」スッ


王様(袋?)


手下「王様に示すことが出来る、我々の誠意です」


王様「衛兵よ、中身の確認を」


衛兵「は!」


(ゴソゴソ)


衛兵「う、磯臭くてキラキラしている…これは?」


手下「ダイヤモンド・マカイです」


王様「!!」


魔王「わが居城の崖に生息していてな、

   魔界三大珍味として食されているんだ」


王様(…そ、その貝は!)


手下「魔王様が今朝、手ずから収穫した物です

   品質と鮮度は保証します」


手下(自ら動くってこういう意味だったんですよねぇ…)


衛兵「ナマモノを貰いましても…」


王様「…魔王殿が額に汗をして獲った品か、大儀である」


衛兵「お、王様?」


王様「結構じゃないか、交渉に応じよう」


衛兵「えぇっ!?」


魔王「それでは、協力して貰えるのか!?」


王様「うむ、どうやら行き違いもあったようだしな…

   良きに計らおう」


魔王「やったな、手下よ!」


手下「ええ、やりましたね」


王様「このことは私から勇者にも伝えておこう」


手下「では、詳細に関しましては後日改めてご相談させて頂きます」


王様「ああ、そうしてくれたまえ」


衛兵(国の一大事がこんな感じに決まって…本当にいいのか?)



( ~ お城からの帰り道 ~ )



魔王「ふぅ、とりあえず話が上手くまとまって良かったな」


手下「そうですね、まぁ、これからが大変ですけど…」


魔王「王様からお返しに美味しいお菓子も貰えたし、むぐむぐ…

   グルメは異種族間の架け橋になるな!」ボリボリ


手下「美味しいものと言うよりかは…」ボソッ


魔王「ん? 手下よ、どうかしたか?」ムシャムシャ


手下「何でもありません」


魔王「それにしても、このお菓子は本当に美味いな!」


手下(まぁ、魔王様に教える必要はないか…)



( ~ 王様のお部屋、深夜 ~ )



王様「…衛兵は下がらせたし、周りには誰もいないな」キョロキョロ


王様「それでは戦利品の確認をするか」ゴソゴソ


王様「おぉ、素晴らしい!」


王様「何という大きさの貝だ…」


王様「中にある黒い玉を取り出し、ヤスリで磨くと…」ゴシゴシ


王様「美しいっ! 何と上質な魔石かっ!」


王様(この魔石が欲しいから勇者へ『魔王を討伐せよ』と命じていたとは、

   皆には伝えられんよな…)


王様「それにしてもこの量…フフフフ…

   魔王殿とは仲良くせんといかんなぁ…」



( ~ 翌朝、勇者のお家 ~ )



衛兵「―という訳です」


勇者「はぁっ!?」


勇者「王様が魔王とマブになって和解し、王城で会見を開くだとっ!?」


衛兵「…端的に言えばそういうことですね」


衛兵(勇者様のこの感じ、苦手だなぁ…)


勇者「王様がバックレるなんて、原因は何なんだよッ!?」


衛兵(そういう口の利き方ですかねぇ…)


勇者(クソッ…!)


勇者(あと少しで魔王を社会的に抹殺して、

   王様から褒美を貰えるハズだったのに…)


勇者(魔王はチョロいメスガキだから、

   賢者に作らせたフェイク画像で脅して嵌めれば、

   ラクショーだと思ったんだが…)


衛兵「王様からの言伝は以上です、私はこれにて失礼」


勇者「あっ、オイ、ちょっと待てよ」


衛兵(うへぇ…)


衛兵「…何でしょうか?」


勇者「使者サンを手ブラで返すのは俺っちの流儀に反するからな、

   手土産をやる」


衛兵「はぁ…」


勇者「オラァ、受け取んな!」ブンッ!


衛兵「ぐはぁっ!」バァンッ!


衛兵「貴様、何を投げて…ぐ、これは『魔王城と千本の指』!!」


衛兵「勇者殿、使者である私への暴力は王への反逆と見なすぞ!?」


勇者「使者サンよぉ、魔王の抹殺を命じたのは王様だぜぇ?

   それを反故にしたのはソッチだってこと、忘れんなよ?」


衛兵「ぐぬ…」


勇者「あばよ、その本は餞別に持ってけや」(塩撒きドバー)


勇者(クソが、このままじゃ本の売れ行きにも影響しちまう…)


勇者(王様と魔王め、このままおめおめと引き下がる俺じゃねぇぞ!)



( ~ 数日後、早朝の魔王のお城 ~ )



手下「…ということで、炎上後の経緯は以上です」


ダンジョンのボス「電話での報告、助かりますわぁ〜」


ボス「はぁーしかし、エライ災難でしたな」


手下「ええ、その通りですがご安心下さい」


手下「事態は既に沈静化に向かっています

   後日、魔王様が会見に臨みますのでボス殿も是非ご覧下さい」


ボス「分かったわ、今後もよろしゅうなー」


手下「ええ、こちらこそ」ピッ


手下「…ふぅ、各所への根回しはこんなところでしょう」


手下「あとは…今日の王様との打合せが無事に済めば万全です」


魔王「う〜〜〜ん…」トイレコモコモ


手下(魔王様のトイレ長いなぁ…)


手下「魔王様、まだですか?」コンコン


魔王「ちょっと待ってくれい…」


手下「そろそろ出ないと、王様との打合せに間に合いませんよ?」


魔王「あと少し、あと少しなんだ…」


手下「もう…王様から貰ったお菓子を気に入って、

   私に内緒で大人買いして爆食いしているからですよ」


魔王「次からは気を付けるから、今は静かにさせてくれぇ…」


魔王「………」


魔王「…ふぅ」ジャー


手下「終わりましたか、手はちゃんと洗って下さいね?」


魔王「あっ」


手下「どうしました?」


魔王「第二波が…」


手下「ホント早くして下さい」



———————————————————



魔王「…さて、スッキリしたし出発するか」


手下(全然少しじゃなかったし…)


手下「はぁ、こんな調子では”閃光の魔王”の二つ名が泣きますよ?」


魔王「いや、光の速さで何でも出来る訳じゃないんだが?

   手下だって苦手なモノはあるだろう?」


手下「はいはい、そうですね…」


手下「…でも、次に同じ理由で時間ギリギリになったら、

   トイレから引きずり出してオムツ履かせますからね?」


魔王「そういうプレイが好きなのか?」


手下「………」ブチッ!


手下「あははは、面白いことを言いますね、

   本当に好きだったらどうしますか?」


魔王「え?」


手下「魔王様も好きになるよう、調教してよろしいんですか?」ゴゴゴゴ


魔王「ごめんなさい」


魔王(本気の目をしてる、怖っわぁ…)


手下「ほら、手配したドラゴンタクシーが待ってますよ、

   ちゃっちゃと乗って下さい、ちゃっちゃと」


ドラゴンタクシー「ケェーーーーッ!!!(鳴き声)」


魔王「手下って怒ると、我の扱いがぞんざいになるよなぁ…」


手下「だったら怒らせないで下さい」


魔王「はい」


魔王「はぁー、やれやれ…どっこいしょ」


手下「………!」


魔王「ほれ、手下も早く乗るがいい」


手下「……………」


魔王「どうかしたのか?」


手下「何でもありません、魔王様は先に行って下さい」


魔王「…おこなの?」


手下「は?」


魔王「一緒に乗るのが嫌なくらい、おこなの?」


手下「違いますから、さっさと先に行って下さいっ!」


魔王(うわぁ、怒ってる…)


魔王「トイレ長くてごめんね、機嫌直してね?」


ドラゴンタクシー「ケケェーーーーッ!!!」バッサー! バッサ…バッサ…


手下「…いや、そんな理由でそんな怒らないし!」


手下「はぁ…魔王様はポンコツですねぇ…」



———————————————————



(ゴソゴソ)


賢者「…ふぅ、やっと行きましたか」


賢者「いくら勇者の命令だからと言って、

   何で私がこんなことを…」ブツブツ



( ~ 賢者の回想(数日前) ~ )



勇者「賢者ぁー、いるかー!?」バリーン!


賢者「ひぃっ! 窓がっ!!」


賢者「だから、いつもいつも…止めろと言ってるでしょう!?」


勇者「ドアは無事じゃん?」 


賢者「壊すのを止めろと言っているんですっ!!」


勇者「そんなことよりさ、話があんだわ」


賢者(窓を壊しておいてそんなこと呼ばわり…)


勇者「王様がケツまくって魔王の味方になるみたいなんだわ」


賢者「何ですって?」


勇者「衛兵が報告に来たぞ、追い返してやったけど」


賢者(…王様が裏切った? 私の雇い主は王様なのに?)


勇者「これはさー、王様と魔王に分からせる必要があると思わねーか?」


賢者「な、何をですか?」


勇者「この勇者様を侮った罪の重さをだよ」


賢者(ダメだ、コイツには付いていけない…)


勇者「賢者ぁ〜、オメーは俺を裏切らねぇよなー?」


賢者「わ、私は…」


勇者「まぁ、お前はマブダチだもんな」スマホポチポチ


賢者(うっ! それは私のコスプレ写真…!)


勇者「そんね訳ねぇよな、なっ!?」スマホグイー


賢者「え、ええ、もちろんです…」


賢者(あれが勇者の手の内にある限りは従うしか…)


勇者「よし、じゃあダチとしての頼み聞いてくれるよな?」


賢者(う、ううぅ〜…)

 


( ~ 回想おわり ~ )



賢者「それにしても、

   『魔王城に忍び込んで強迫の材料を掴んで来い』だなんて…

   無茶振りにも程がある…」


賢者「念の為、サキュバスの格好をして魔物に認識される魔法もかけたが、

   バレたらただじゃ済まないだろうな…」


賢者「…さて、勇者が書いた城内の地図もあるし、

   魔王のいぬ間に城へ侵入するとするか」



———————————————————



賢者「うひぃっ!」ザシュッ


賢者「はぁはぁ…壁から槍が…」


賢者「地図通りに来ているのに、罠に掛かるのは3度目じゃないか!!」


賢者「本当にこの地図は合っているのかっ!?」


賢者「…あの勇者が書いた地図だ、信用しない方がいいかも」


賢者「とりあえず、地図に書かれているこの『セーフティーゾーン』に退避して…」


ガコッ!


賢者「…えっ?」


賢者「お、落とし穴っ!?」


賢者「あああぁっ!!

   信用しないって決めたばっかりだったのにぃーーーっ!!!」ヒューーー



———————————————————



賢者「ううぅ…」


賢者「…あれ、ここは?」


手下「お目覚めですか?」


賢者「!!」


手下「ここは私の私室です

   罠に掛かった貴方を介抱してあげたのですよ」


賢者(しまった、気を失っていたのかっ!?

   コイツは確か魔王の手下じゃないか!!)


賢者(…どうする、既に私が勇者の仲間だとバレているかっ!?)


手下「おかげで予定を反故にしてしまいました、感謝して下さいね」


賢者「す、すいません…」


手下「それにしても落とし穴に掛かるなんて、お間抜けなサキュバスですね」


賢者(…これは、バレてないのか? 良かった、どうやら誤魔化せそうだ)


賢者「すいません、魔王城に来るのは久しぶりで迷ってしまって…」


手下「はぁ…仕方ありませんね、出口まで送りましょう」


賢者「えっ」


手下「えっ?」


賢者(このままでは送り返されてしまう…)


賢者「ちょっと待って下さい」


手下「何ですか?」


賢者「『魔王様に届けるように』と、人間から密書を預かっています」


手下「はぁ…」


賢者「確実に届けたいので、魔王様のお部屋までご案内してくれませんか?」


手下「ふぅ〜ん…そうですか…」


賢者「そうなんです」


手下「全く困ったものです」


賢者「?」


手下「穏便に済ませようとする私の気遣いが、

   全く伝わっていないんですもの…」


賢者「…なっ!」


賢者(バレているのかっ? 逃げなければ!!)ダッ!


手下「遅い」シュタッ!


賢者「ぐっ!!」ポワワワ


賢者(…こ、これはよもや、誘惑の魔法かっ!!?)


手下「身の程知らずも甚だしい」


賢者(そ、そんな、この手下はまさか…)


手下「サキュバス相手にサキュバスのフリなど、愚かの極みですね」


賢者(くっ! ま、魔法に…逆らえないっ!!)


賢者「う、うわあああぁっ!!!」



———————————————————



賢者「………ぅ」


賢者「ぐ…ここは…?」


賢者「魔王城の…外…?」


賢者「…あれ? 確か魔王城に潜入して…落とし穴に落ちて…それから…」


賢者「………どうなったんだっけ???」


賢者「ん…? 何か手に持って…」


賢者「なっ、これはっ!?」


賢者「魔王が王様にお金を支払っている帳簿じゃないか!!」


賢者「中に書かれているお菓子代…

   金額の大きさと頻度から言って、賄賂の隠語に違いない!」


賢者「やったぞ、私はやり遂げたんだ!」



———————————————————



手下「………ふぅ」ゴソッ


手下「誘惑の魔法と、その後にかけた記憶操作の魔法も上手くいったようですね」


手下「そして魔王様がコッソリ付けていたこの『お菓子の取引帳簿』を見つけて、

   写しを渡せたのも良かったです」


手下「ふふふ…これを裏帳簿と思ってしまうなんて、可哀想な人…」


手下「………」パラッ


手下(…いや、でも多いな)


手下(お菓子の代金なのにケタが三つくらい多いな…)


手下「これは裏帳簿と思われても仕方ないかも…あとで魔王様のこと叱らなきゃ…」



( ~ 王様のお城 ~ )



魔王「ぶぇっくしょいっ!」


王様「む、大丈夫であるか、魔王殿」


魔王「うむ、息災ない、

   きっと誰かが我のことを噂しているだけだろう」


王様「ははは、そうに違いないな」


魔王「はっはっはっ!」


王様「ははは………」


魔王「………」


(シーン…)


魔王(話題がない…手下、早く来ないかなぁ…)



( ~ 一週間後 王様のお城の会見場 ~ )



(ガヤガヤ)


王様「…ふむ、打合せ通りに会見場は無事セッティング出来たようだな」


王様「新聞社や魔法TV局の面々もこぞって集まっておる」


王様(あとは満を持して魔王殿の登場を待つのみだ)


王様(今回の会見は…

   『騒動に対する謝罪をした後、事態の真相を説明する場』

   だと聞いておるが…)


王様(勇者は不穏な動きをしている模様だし、果たしてどうなることやら…)



( ~ 会見場の天井裏 ~ )



ねずみ「チューーー!」ゴソッ


賢者「うわっ、服の中に何か入ったぁ!」ドタバタ


ねずみ「チュチュウ!?」ジタバタ


勇者「おい、静かにしろ!」ブンッ


賢者「あいたぁっ!」ポカッ


ねずみ「チュウッ!」ダッソウ


勇者「…俺らは王様の許可を得ずに忍び込んでるんだぞ、バレたらどうすんだ?」


賢者(バレるも何も、貴方が無理矢理連れ込んだんでしょう…)ボソッ


勇者「…何か言ったか?」


賢者「いえ、何も…」


勇者「いいか、天井の隙間からしっかり見張っていろよ」


勇者「今回の会見で魔王は王様と仲良しアピールをするそうだ」


勇者「その瞬間にお前が魔王城から持ち出した裏帳簿と、

   捏造した『賄賂を送っている画像』をバラ撒くぞ、いいな?」


賢者「分かりましたよ…」


賢者(クソッ、一人でやってろよ…)



( ~ 舞台袖 ~ )



魔王「て、手下ぁ…人がたくさんいるぞぉ…」


手下「当たり前ですよ、そのように手配したんですから」


魔王「そうなのか…?」


手下「もうすぐ出番ですよ、準備は出来ていますか?」


魔王「…きてない」


手下「はい?」


魔王「…出来てなぁい」ガタガタガタ…


手下(めっちゃ緊張してる!)


魔王「ううぅ…吐きそう…」


手下「魔王様、しっかりして下さい!」


魔王「今すぐ帰りたぁい…」


手下(本当メンタル弱いなこの人…)


手下「帰ったら魔王様の好物を作ってあげますから、今は頑張って下さい!」


魔王「ほんとぉ…?」ガクガクブルブル…


手下「はい、だから今は原稿の確認をして下さい!」


魔王「うん…」


手下「それでは、帰りにスーパーに寄って…」メモメモ…


魔王「…」ゴソゴソ


魔王「………」


魔王「…て、手下ぁ」


手下「今度は何ですか?」


魔王「………」モジモジ


手下「どうしたんですか、早く言って下さいよ?」


魔王「…原稿忘れちゃった」


手下「は? 噓でしょ!?」


手下「いやいや…な、内容は!? 内容は覚えてますよね!?」


魔王「…それも忘れちゃった」


手下「ワァッ!」


手下「このポンコツ魔王!!!」


魔王「ぴぇん」


手下「今急いで要点をメモにまとめますから!

   もうそれを読んで下さい!」


魔王「すまぬぅ…」


手下「ほら、これ!」


魔王「あっ…」ヒラヒラ~


手下「落とさないで! ほら、しっかり握って!」


魔王「う、うん…」



( ~ 会見場 ~ )



衛兵「皆のもの静粛に、これより魔王殿の会見を執り行う!

   それでは、ご登場願おう」


(ザワザワザワ…シーン………)


王様(いよいよか…)


(トコトコトコ)


魔王「み、みみみ、みなさま、ごきげんよう、魔王です!!」


魔王「よ、よろしくお願いします!」


魔王「あのっ…え~っと…」


魔王「あっ…あっ…」


魔王「………」


(シーン…)


王様(魔王殿…あんな状態で大丈夫かなのか…?)



———————————————————



魔王(…だ、ダメだぁ~~~!)


魔王(緊張で頭と口が回らないぃっ!)


魔王(…め、メモ! 手下から渡されたメモを読もう!)


魔王(………)コソコソ


魔王(…ん?)


記者A「…何だ? 黙ったままじゃないか」


記者B「仕方ない、こちらから質問するか」


記者A「魔王殿、質問よろしいですか?」


魔王「ひゃ、ひゃい!」


記者A「今回は勇者様が暴露本を出した訳ですが、

    その勇者に対してどのような感情をお持ちですか?」


魔王「え、えーと…」


記者一同「………」ゴクリ


魔王「ち、ちきん…」


手下(…は?)


王様(…魔王殿?)


記者A「ち、チキン!? 臆病者ですとっ!!?」


手下(もしかして…)


記者B「私も質問よろしいですか?

    本の内容を我々は真実だと思っていますが、

    魔王殿はどのようにお考えですか?」


魔王「ばたー…」


記者B「『バカ』ですと!?」


王様(聞いていた流れと違うではないかっ!?)


手下(魔王様に渡したの、私の買い物メモだ!!)


記者C「それは本の内容が真実ではないということですか!?

   勇者様が嘘を言っていると!?」


魔王「お、おにおん…」


記者C「『もちろん』ですと!?」


記者D「証拠の写真があるんですよ!?

   あれも偽物だと言うんですか!!」


魔王「いんげん…にんじん…」


記者D「『人間は信じん』と仰りますか…」


記者A「…これはどういうことだ?」

記者B「会見をするとは言っていたが…謝罪はしないのでは?」

記者C「なるほど、今回の会見は『徹底抗戦をする』と発表する場だと」

記者D「決意表明ですな」


(ザワザワ)


魔王「あわ、あわわわ…」


魔王(て、手下よ、本当にこれでいいのかっ!?)


魔王(…あれ?)


魔王「………カレールー」ボソッ


(ガタッ、トコトコトコ)


記者A「おい、魔王殿が袖に引っ込んで行ったぞ…」


記者B「…『帰る』だ! 『帰る』って言ったんだ!!」



( ~ 天井裏 ~ )



賢者「…何でしょうか、今の魔王は? とてもマトモに見えませんでしたね」


勇者(………)


勇者(…何だ、どういうこった?)


勇者(王様と仲良しごっこするんじゃないのか? 対立するつもりなのか?)



( ~ 舞台袖 ~ )



魔王「手下、これ買い物メモじゃないかっ!」


手下「そうですよ! 何で最後まで読んじゃったんですかっ!!?」


魔王「だって気付かなかったんだもんっ!!!」


手下「このおバカッ!!!!」


魔王「ひぃんっ!!!」


王様「魔王殿っ!」ダッ


魔王「お、おおお、王様っ!?」


王様「今のはどういうことか! 事前に聞いていた話と違うではないか!?」ハァハァ


魔王「え…えええっとぉ…」


王様「事と次第によっては、この場で貴殿とラストバトルが始まりますぞっ!!?」


魔王(どどど、どうしようっ!!!?)


手下「………」スゥー


手下「…ご安心ください王様、これも作戦の内です」キリッ


王様「さ、作戦だとっ!?」


手下「えーっ…私の掴んだ情報によりますと、この会場には勇者が紛れ込んでいます」


王様「なんだとっ!?」


王様「…いや、なんということだ、やはりそうであったか」シュン


魔王(そうなのか?)


魔王「手下、その作戦は聞いてn…」ゴリッ


魔王(いったあああああっ!!?)


手下「………」ニッコリ


魔王(手下が足踏んでるっ!!!?)


手下(黙ってて下さいっ…)ボソッ


魔王(…ひゃい)ナミダメ


手下「勇者は我々と王様が和議を結ぶことを良しとせず、

   邪魔をするつもりでしょう」


王様「…む、一理あるな」


手下「そして今は混乱しているハズ…

   『魔王は王様と対立するつもりなのか?』と」


王様「そうかもしれん…」


王様「…はっ、そうか! 手下殿はこの会見を囮にして、

   勇者を呼び寄せたのだな!?」


手下「…その通りです」ニコリ


魔王(そうなのか?)


王様「会見の内容も勇者を混乱させる為に、

   ワザと挑発的な内容に変えたのだな!!?」


手下「さすが王様、ご賢察です」ニッコォー


魔王(…何かそんな気がしてきた)ボソリ


手下(そんな訳ないでしょう)ボソリ


手下「さらに、ここからが大切です」


手下「王様、お耳を拝借」


王様「うむ」


手下「会場にいる勇者は―」ゴニョゴニョ


王様「ほう…」


魔王(………)ポツーン


魔王(我、蚊帳の外ッ!!!)



( ~ 会見場 ~ )



記者A「…魔王が袖に引っ込んでから、もう5分は経つぞ」


記者B 「一体どうなっているんだ?」


(ザワザワ)


衛兵「会場の皆様にお伝えします、

   魔王殿はやんごとなき理由により退場いたしました」


記者C「何だと、会見はどうなるんだ?」


衛兵「これからは魔王殿に代わり、その手下が会見を続行いたします」


記者C「魔王の手下…?」


記者D「そんな奴に代わりが務まるのか?」


(ザワザワ)


手下「………」トコトコトコ


手下「皆様、ごきげんよう」


手下「ご紹介に預かりました、手下と申します」ニコリ


手下「先ほどは我が主が粗相を犯し、

   会場の皆様を混乱させたこと、お詫び申し上げます」ペコリ


一同「………」シーン


記者A(…何だコイツは?)


記者B(コイツから目が離せないぞ…)



( ~ 天井裏 ~ ) 



賢者「あれ? あの手下という人、どこかで会ったような…」


勇者「あぁん、それがどうし…」


勇者「ッ!」クラッ


勇者(な、これはッ!?)


勇者「クソ、しまった! 賢者見るな!!」


賢者「え?」


賢者「あ、あれ? め、目が…目が離せません…?」


勇者(チッ、遅かったか!)



( ~ 会見場 ~ )



手下(…良かった、会場の皆さんに私の”注目”の魔法が効いたようですね)


手下(それでは、続きといきましょうか…) 


手下「さて、魔王より皆様にお伝えした言葉の数々ですが、

   改めて訂正させて頂きます」


記者A「訂正とな?」


記者B「やはり騒動に対して釈明をするのか?」


記者C「そうに違いない」


手下「………フフフフ」


記者A「…何だ?」


記者B「笑い出したぞ?」


手下「我々が釈明を、謝罪をする? 

   何故そんなことをしなければならないのですか?」


記者C「!」


記者D「なんだと!」


王様「手下殿、よろしいか!」


記者A「…王様!」


記者B「ガツンと言って下さい!」


王様「それは一体どういうつもりか!?」


手下「愚か者に下げる頭はないと言っているんです」


王様「何っ!?」


手下「魔王様に濡れ衣を着せた勇者の代わりに

   貴方が頭を下げてもよろしくてよ、王様?」


王様「やはり貴様らとは相容れぬようだな…衛兵達よ、コイツを取り囲め!」


衛兵「ハッ!!」


王様(…これでいいんだな、手下殿?)


手下(…バッチリです、王様)



( ~ 天井裏 ~ )



勇者「クソッ!」


勇者「なんでそうなるんだよ!?」


勇者「アイツらケンカおっぱじめやがった!!」


勇者(魔王と王様、仲良しこよしになるんじゃねぇのかよ?

   これじゃあ持ってきた裏帳簿と捏造写真に意味がなくなっちまう…)


賢者「ああ…手下さん…なんて美しいんだ…」ウットリ


勇者(賢者はこの様子で役に立たねぇし…)


勇者(とりあえず、王様と魔王の手下はケンカ別れしたようだし…

   ここは一旦引くか?)


???「見つけた…」


勇者「………ァ?」


勇者「な、お前はッ!!」


ドカァンッ!!



( ~ 数分前、舞台袖 ~ )



王様「皆の前で喧嘩の芝居を行う、と?」


手下「ええ、私と王様で会場の注目を集め、時間稼ぎをします」


王様「時間を稼いだとして、その後はどうするのかね?」


手下「満を持して魔王様の出番です」


魔王「…んんっ? 我っ!?」


手下「魔王様には会見場に紛れ込んでいる勇者を見つけて貰います」


魔王「!!」 


王様「ほう…」


魔王(ど、どこにいるか分からないぞっ!?)ヒソリ


手下(でも、この会見場のどこかには来ているはずです)


手下(…勇者の仲間である賢者には私の魔法が掛かっていて、

   その魔力を近くに感じるんです)コソリ


魔王(そうなのか? それならいるのだろうが…)


王様「しかし、見つけてどうするのだ?」


手下「それはですね…」


手下「ムリヤリ舞台に引きずり降ろすんです」ニコリ



( ~ 回想おわり ~ )



(ドカァンッ!!)


記者A「な、何だっ!?」


記者B「天井が落ちて来たぞ!?」


衛兵「王様をお守りしろ!!」


手下(ここで私の魔法を解いて…)


賢者「…きゅう」


記者C「…あ、あれは、賢者っ!?」


魔王「ふぅ…」ムクリ


勇者「ク、クソ、このヤロウ離しやがれ…!」

 

記者D「勇者様と魔王までっ!?」


王様(魔王殿、うまくいったようですな)


(ヒラヒラ~)


記者A「な、何だ?」


記者B「今度はビラが沢山落ちて来たぞ?」


魔王「…よくも散々手をかけさせてくれたな、勇者よ」


勇者「畜生、何で俺が天井裏にいることがバレたんだ!?」


魔王「それはコイツだ」


ネズミ「チュチュウ…」


勇者「そのネズミは…!」


魔王「コイツが上からビラを咥えて降りて来たからな、ピンと来たぞ」


記者C「…これは、一体どういうことなんだ?」


手下「それは私から説明いたしましょう」


記者D「手下さん…あなたは我々と敵対するつもりでは?」


手下「そんなつもりはございません

   王様、愚か者呼ばわりをしてしまい申し訳ありませんでした」


王様「うむ、支障ない」


記者A「王様、落ち着いているな…」


記者B「もしかして…先程の喧嘩も事前の打ち合わせ通りなのでは?」


手下「ご想像にお任せします」ニコリ


記者A「…それで、これは一体どういうことなんですか?」


手下「会場に忍び込んでいた勇者が王様と魔王様の仲を裂く為に

   汚職をでっち上げようとしていたんです、このビラを撒くことで」


記者B「ビラの内容は…」


勇者「ソイツは王様と魔王の裏帳簿の写しだ!

   魔王は王様に賄賂を送ってやがったんだ!!」


魔王「いや、違うぞ」


勇者「アァッ!?」


魔王「これは王様からお菓子を買った際に、我が付けていた帳簿だ」


勇者「なっ! だっ…その額はオカシイだろうがっ!」


魔王「?」キョトン

 

魔王「だからお菓子だが?」


勇者「ち、違う! そ、そんな訳ないだろう! 小さな城が建つ額だぞっ!!?」


王様「魔王殿の言ったことは間違っておらん、

   それは私と魔王殿がお菓子を商材として取引した証だ」


勇者「バカな…」


記者A「お菓子にこの金額を掛けるなんて…」


記者B「いやはや、規格外ですな」


勇者(クソ、このままじゃあコッチの分が悪りぃ!)


勇者「おい、賢者起きろ!」


賢者「…ふにゃっ?」


賢者「あれ…? 私は天井裏にいて…」


賢者「…え? うわわわっ!

   これどういう状況ですかっ!?」


勇者「目を覚ませ! 例の写真を出せ!!」


賢者「えっ、あっ、あぁ…はい!」バッ


勇者「見ろ、その写真をッ!

   魔王が王様に賄賂を渡しているだろうが!!」ババッ


記者C「むむ、これは…」


記者D「確かに魔王が王様に金を渡しているな」

 

手下「…やれやれ、往生際の悪い方ですね」


勇者「なんだとっ!? このクソババァ黙ってやがれ!!」


手下「…なぁんですって?」(^ω^#)ビキビキ


魔王(あ…)


手下「………」カツカツ


賢者(…私に近付いてくる?)


魔王(手下がキレちゃった…)


手下「さて賢者様、あなたに問います」


賢者「…え?」


手下「その写真はホンモノですか?」


賢者「こ、これは…」


手下「ホンモノかと聞いているのです!」


賢者(ゆ、勇者…)チラッ


勇者(テメェ…答えるんじゃねぇぞ…!)ギロリ

   

手下「答えなさい!!」キィン


賢者「!!!」


賢者「…こ、コレは、ワタシがAIで作ったニセモノです!

   ユウシャのシジで作りマシタッ!!」


勇者(あ……?)


賢者(あ、あれ! 口が勝手にっ!?)


記者A「なんだって!」


記者B「これは大変だ!!」


手下「ふふふ…いい子ですね…

   それでは次に、勇者が出版した本の真相を話しなさい」


賢者「マオウ城とセンポンの指モ、ユウシャがウソの筋書きをカンガエテ、

   私が執筆シマシタ!」


記者C「なんということだ…」


記者D「賢者をゴーストライターにして嘘を書かせたのかっ!?」


魔王(さすが手下の魔法、一度掛かった相手には百発百中だな…それにしても…)


勇者「ふ、ふざけるな、手下が賢者を魔法で操って喋らせているだけだ!

   全部嘘っぱちだ!!!」


手下「あらあら…まだお認めになりませんか?

   それでは賢者様、勇者様の隠し事を洗いざらい暴露なさい」ニタリ


賢者「ホカにもユウシャは王サマの宝物庫からザイホウをチョロまかしてイタリ…」


勇者「違げぇんだ! ソイツの言ってるのはウソっぱちだぁ!!

   クソッ、魔王テメェ離しやがれっ!!!」


賢者「オウ様から武器をカウ為にねだった金ヲぱちんこでスッたり…」


勇者「ソイツの暴露を止めさせろぉぉぉおおおおおっ!!!!」


手下「辛いですよね、悔しいですよね? 自分の罪が公に暴かれるのは?」ニヤニヤ


魔王「………」


王様「………」


魔王(手下は怒らせると怖いなぁ…)


王様「…ふむ、これは勇者と賢者君に詳しく話を聞く必要がありそうだ

   衛兵よ、彼等を連れて行きたまえ」


衛兵「ハッ!!」


王様「魔王殿、今回は勇者の悪行のせいで苦労をかけたな、そなたには頭が上がらぬ」


魔王「もう済んだことだ、後の処遇はそちらに任せるぞ」


王様「うむ、魔王殿が納得できるようにしっかりと断罪することを約束しよう」


賢者「ホカにもホカにもユウシャはロクデナシで…」ペラペラ


勇者「………」


記者A「これにて一件落着ですな」


記者B「勇者殿もこれで見納めか…」


記者C「私はなんか胡散臭いと思ってたんですよ、あの勇者」


衛兵「さぁ勇者様お立ち下さい、御同行願います」


勇者「………」


勇者「…クソが」


衛兵「…なに?」


勇者「俺は勇者だぞ…」


王様「勇者よ、指示に従え」


勇者「この俺がテメェらに出し抜かれてたまるかぁっ!!」


(バリバリバリーーーーッ!!!)


衛兵A「うわぁ、勇者の周りに稲妻が!」


衛兵B「勇者が乱心したぞ!!」


王様「あれは勇者のみが扱える最強クラスの雷の魔法! 皆の者、離れろ!!」


賢者「あばっ! あばばばばばばばっ!」ビリビリビリ


記者C「見ろ、逃げ遅れた賢者殿が大変なことになっているぞ!」


記者D「すごい…骨が透けてる…」


手下(クッ、流石は勇者と呼ばれている者…でも…)


勇者「テメェェェ魔王ぅぅぅ、このクソ野郎がぁっ!

   俺様の目論見が外れてこうなったのはぁ、全部テメェのせいだぁぁぁつ!!!」


魔王「えぇっ、メチャクチャ言うじゃないかっ!?」


勇者「うるせぇっ! まずはテメェから始末してやるッ!!

   俺様の天まで届く怒りを喰らえぇェェェっ!!」


王様「魔王殿、危ない!!」


(バリバリ、ドドカァァァンッ!!)


王様「おお、魔王殿…」


勇者「へ、へへへ…見ろ! お前ら見ろよぉっ!!

   跡形もなく消し飛ばしてやったぜッ!!!」



———————————————————



魔王「…ほぉ、すごい威力だな」


勇者「そうだ、そうだろう!!?

   コイツが直撃して倒れなかったモンスターはいねぇん…」


魔王「………」ニッコリ


勇者「…ぁあっ?」


(バキィッ!!)


勇者「ぐはぁっ!!」


魔王「まぁ、当たらなければ意味はないがな」中指オッタテー


勇者「なっ、テメェ何でだッ!!? 俺の雷は最強の必殺技なんだッ!!!

   何で死なねぇんだよぉッ!!!??」


(ドドゴオオオンッ!!)


王様(おおお…なんということだ…)


魔王「懲りないな」ヒュン


衛兵「勇者の雷を…」


手下(そう、魔王様の二つ名は”閃光の魔王”…)


記者ABCD「「「「魔王が避けている!!」」」」


手下(雷よりも光の方が疾い!!)


魔王「無駄だ」


(ドカバキィッ!!)


勇者「うぐっ!!」


勇者「ば、バカな………」ドサッ


魔王「ふむ、流石は勇者だな…どこかの聖騎士とは違ってそれなりに骨が折れたぞ」


王様「………」


衛兵「………」


記者一同「………」


(シーン…)


魔王(…はっ、しまった! やりすぎたかっ!?)



———————————————————



(ワァッ!)


魔王「!!」


王様「おお、魔王殿よ! そなたは素晴らしい!!」

衛兵「やりましたね!!」

記者A「ただのちんちくりんかと思っていましたが…」

記者B「ちゃんと魔王なんですね!」

記者C「この後、是非独占取材をっ!」

記者D「魔王サマ、小さくて可愛いっ!!」


魔王「みんな喜んでいるな…」


手下「そうですね」


魔王(…我が言うのもなんだが、

   勇者が倒されて喜ぶこの国は少しヤバいんじゃないか?)ボソッ


手下(それもそうですね…)



( ~ 数日後、魔王城の岸壁 ~ )



(ザザーン)


手下「…ということで勇者の悪事は暴かれ、

   王様に捕まって勇者の資格を剥奪されました」


ダンジョンのボス「ほうほう…」


(ザパーン)


手下「指の件に関しても『誤解であった』と王様が正式に認めて謝罪をされた為、

   炎上は完全に収まりました」


ボス「テレビで魔王様の雄姿見てたで、カッコ良かったわぁ〜」


手下「恐縮です」


魔王「わっぷ!」


ボス「それで、当の魔王様はどうしてるんでっか?」


手下「ええ、魔王様は…」


魔王「うぅっ! ペッペッ、鼻に塩水が入った!!」


手下「素潜りをしています」


ボス「は?」


手下「…いえ、とりあえず元気にしておりますよ」


ボス「…まぁええわ、ダンジョンに冒険者共が戻って来て

   モンスター達も喜んどるわ」


ボス「魔王様によろしく伝えたってや」


ボス「ほいでな〜」ピッ


手下「ふぅ、これで諸々の報告は完了ですね…」


魔王「手下ぁ!」


手下「なんですか、魔王様?」


魔王「もういいだろうっ!?」


手下「何がですか?」


魔王「ダイヤモンド・マカイを採るのはもういいだろうっ!?」


手下「駄目です」


手下「魔王城と王様のお城の修繕費…

   それに魔王様が使い込んだお菓子の代金には全然足りていません」


魔王「城が壊れたのはどっちも我のせいじゃないのにっ!」


手下「でも、お菓子をその口に収めたのは魔王様でしょう?

   文句を言ってないでキビキビ働いて下さい」


魔王「酷いっ! 我は魔王なのにっ!!

   もうお菓子も勇者も聖騎士も懲り懲りだぁっ!!」



( ~ 王様のお城 ~ )



王様「…うぅむ、勇者の代わりとなる者はまだ見つからないのか?」


大臣「王様、いなくなった勇者の穴埋め早くしたいという気持ちは分かりますが、

   前勇者のような穀潰しが選ばれないように対策が必要です」


王様「しかしな、勇者とは天意に選ばれ伝説の剣を抜き私の前に現れる者だ…

   それを我々が選定するのはいかがなものか?」


大臣「そ、それは…」


王様「それに自らの使命と勇気を以てこの王城の門を叩く者に対し、

   私は敬意を払いたいのだ」


大臣「王様…」


大臣「…分かりました、それでは従来通りに選出しましょう」


王様「うむ、分かってくれたか」


衛兵「王様、報告します! 門前に勇者と名乗る者が…!!」ダッ


王様「おお、早速誰か来たようだ!」


東方より昇りし明けの明星、偉大なる栄光の聖騎士

「たぁのもおおオ゙ォ゙ォ゙ーーーッ!!!!」


それ以来、勇者を名乗るには専門資格が必須になり、

履歴書と面接によって選考されるようになったそうな



~ fin ~

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魔王「お前達は増えすぎたのだ、だから我が間引いてやるのだ…」勇者「ああ、もうやっといたわ」 東タイキュウ @azuma_taikyuu

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