第48話

 ――――ザフィーアの家

 ザフィーアがルベンの自宅に帰宅して、1日が経った。

 父の訃報を受け、子供のように泣いていたマリンだが、今朝はうって変わって元気に振る舞っていた。

「マリン、もう大丈夫なのか?」

 寝室からマリンの様子を気にするかのように、姿を現すザフィーア。

 ザフィーアの様子はというと、マリンと異なり、どことなく疲れている様子であった。

「ザフィーア。まぁ……まだ完全には立ち直れていないけど、いつまでも落ち込んではいられないしね」

「そうか、まぁ、肉親が亡くなっているわけだし、直ぐに立ち直る必要はないさ」

「……ありがとう、ザフィーア」

「いや、いいさ」

 ザフィーアは疲れた様子でそう言うと、ゆっくりと床へ座る。

 マリンはそんなザフィーアの前に、自身とザフィーアの分の朝食を持って行った。

 マリンが朝食を持って行くと、両者は手を合わせた後、食事を始める。

 朝食を食べていると、マリンが突然、

「ザフィーア、親父の件、ありがとうね」

 と、朝食を食べながらそう言う。

「ありがとう? 私は助けられなかったのだぞ?」

 ザフィーアはマリンにそう返す。

「でもさ、頭だけとはいえ、葛籠背負ってルベンまで来てくれたでしょ? 親父、無念だったと思うけどさ、異国の地で野ざらしにされるよりは、ルベンに戻れたならよかったのかなって……」

「そうか」

 マリンの言葉に、ザフィーアは一言、そう返した。

 そして、暫く食事を続けると、

「朝食が終わったら、お義父さんを埋葬しに行こう」

 と、マリンに提案をした。

「うん」

 マリンは首を縦に振り、一言、そう返したのであった。


 ――――港町ルベン・墓地

 朝食を終えたザフィーアとマリンは、タンザの首が入っている葛籠を背負い、ルベンの町外れにある墓地へと足を運ぶ。

 そして、葛籠に入ったタンザの首を埋葬すると、その上に墓標を立て、ザフィーアとマリンは目を閉じ、両手を合わせた。

 両手を合わせ、少しの間そのままでいた後、ザフィーアとマリンは合わせていた手を離し、目を開ける。そして、お互いの方を見るとマリンは、

「本当にありがとう。ザフィーア」

 と、ザフィーアに言った。

 ザフィーアはマリンのお礼には特に何も返さず、

「そろそろ、行こうか」

 とだけ言った。

「うん」

 マリンはザフィーアにそう返すと、両者はタンザの墓標を後にした。


 墓地からルベンの町中に向かって歩く途中、

「ところでさ、この後はどうするつもりなの?」

 と、マリンがザフィーアに尋ねる。

「昨日も少し話したが、妖帝ラファエルの居城は天空宮だ。だが、地上から天空宮に行く術がない。故に、何らかの方法がないか、調べようと思ってな」

「ふ~ん。ところで、アルディアちゃんたちは?」

「アル達はディナの都で天空宮に行く方法がないか調べてもらっているところだ。私は、お義父さんの事もあるから、ここへ戻ってきたのだ」

「そっか……」

 ザフィーアの説明に、そう返すマリン。

 そして両者はそのまま町へ向かって歩みを進めた。

 少しの沈黙の後、マリンが

「ってことはさ、あんた、この後またディナに向かう予定なの?」

 とザフィーアに尋ねる。

「いや、お義父さんが亡くなった今、ルベンも町長不在の状態だろう。緊急ではあるが、新たな町長も決めなければならないだろう。そうなると町議としての仕事もあるだろうから、しばらくはルベンに残る予定だ」

「そっか」

 ザフィーアの説明に、マリンは先ほどと同じような返事をした。

 そして、両者はそのままルベンへと戻ったのであった。


 ――――ザフィーアの家

 墓地から戻ると、家に上がるザフィーアとマリン。

 マリンの用意したお茶を取ると、両者はお茶を少し飲み、一息つく。

 そして、マリンからザフィーアに墓地から戻る際の話を続きを切り出された。

「あのさ、さっきの話だけど、親父の奴、けっこー色んな本集めてたから、そこにも何かあるかもしれないよ?」

「本当か?」

 ザフィーアはお茶の入った湯飲みを机に置き、そう答える。

「うん。一度親父の家、行ってみたら? どうせ遺品整理もしなきゃだし」

「そうだな。そうさせてもらおうか」

 マリンの提案に、ザフィーアはそう答えた。

 だが、続けて

「とはいえ、直近ではじっくりと調べる時間もなさそうだな。お義父さんの遺品整理もあるが、町長不在による議会も立て込むだろう」

 とマリンにそう言う。

 するとマリンは、

「遺品整理なんてあたしがやるから放っておいてくれればいいわよ。それに議会も欠席でいいでしょ? 町長代行の件なんて、あたしが議会でガツンと言えば、すぐに代理なんて用意できるわよ」

 と、ザフィーアに答えた。

 マリンの答えを聞いたザフィーアは、

「……まさかとは思うが、お前が強引に町長代行になるつもりじゃないだろうな?」

 と、目を細めてマリンに問いかける。

 だが、マリンは、

「そりゃ勿論、親父不在、あんた不在なら、あたしでしょ?」

 と、自信満々に答えた。そして続けて、

「大体、あたしがやるって言ったら、町議の奴ら、反対すると思う?」

 と、ザフィーアに尋ねた。

 それを聞いたザフィーアは、溜め息をつく。そして、少しの沈黙の後、

「……頼むから、無茶な事だけはしないでくれよな?」

 とマリンに言うのであった。

「やらないわよ! 任せなさい」

 マリンはそう言うと、親指を立て、にっこりと笑みを浮かべたのであった。


 ――――タンザの家

 自宅にて一息入れた後、少し離れた場所にあるタンザの家に向かうザフィーアとマリン。

 タンザの家につくと、マリンの持っていた合鍵で戸を解錠。両者はそのまま中へと入った。

 ハインに連れて行かれてから、それなりの月日が経過しているが、その間も特に荒らされた様子もなく、ルベンの治安の良さがこういう点からも覗える。

 また、家の中も埃こそ多少かぶってはいるものの、散らかっている様子もなく、タンザが普段から整理整頓ができている様子も覗えた。

 そんな家の中の様子を見たザフィーアは、

「流石だな、お義父さん」

 と呟く。

「ま、昔からそーいうところ、五月蝿かったしね~」

 ザフィーアの言葉にマリンはそう返すと、どんどんと家の中へと進んでいった。


 家の中を進んでいくと、机と本棚、そして本棚には隙間なく、それでいて整理されている様子で本が仕舞われている部屋に辿り着く。部屋の作りから、ここはタンザが町長としての職務を行っていた書斎と思われた。

「これは、凄いな」

 本棚の本を見たザフィーアは、またしてもそう呟く。

「この部屋以外にも、書庫みたいな場所もあるけどね」

 ザフィーアの呟きに、マリンはそのように返した。

「確かに、それなら手がかりは見つかるかもしれないな」

「でしょ?」

 ザフィーアの言葉に、マリンは少し得意気にそう答えた。

「お義父さんには悪いが、暫くはここを通わせてもらおう」

「いいわよ。鍵はあんたに預けておくから」

 マリンはそう言うと、タンザの家の合鍵をザフィーアに手渡した。

「すまないな、マリン」

「謝ることじゃないでしょ? 義理とはいえ、あんたの家族の家なんだから」

「そうか。では、今回はお言葉に甘えさせてもらおう」

「素直でよろしい」

 マリンはそう言うと、にっこりと笑みを浮かべた。

 こうして、アルディア達がディナの都にて天空宮の行き方を調べる一方、ザフィーアはタンザの家にて天空宮の行き方を調べることとなったのであった。

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